(臨也視点)
今日は午前授業で学校が終わった。帰りのHRが終わったのも12時を少し過ぎたくらい。
「新羅、帰ろう」
俺は鞄を掴んで、同じバスと電車通学である新羅に声を掛けた。
「あ、ごめん!今日は先に帰ってくれるかな?さっき先生に聞いたんだけど、今日保健委員の集まりがあるみたいなんだよ」
「そうなの?」
「僕だって早くセルティの元に帰りたいところなんだけどね……。じゃあそういうことだから、また明日」
新羅は申し訳なさそうに言いながら教室から出て行ってしまった。
「今日は一人か。つまんなーい」
新羅とバスや電車の乗車客を観察してあの人間はこうだ、あの人間を解剖したいだのと言い合って帰宅するのはなかなか面白い。
つまらないとごねていても仕方ないので、新羅の背中を見送ってから俺も教室を後にした。
明日は一時間目から体育の授業だったな。スポーツテストって言ったっけ。運動は嫌いじゃないけど得意でもないんだよねぇ。
明日の時間割を頭に浮かべ、周りの人間の会話や笑い声をBGMにしながら昇降口に向かう。ローファーに履き替え、バス停へ向かおうとした時。ふと自転車置き場に視線をやった俺は、視界の端に金髪を捕らえた。
(あ、シズちゃん)
長身で金髪のシズちゃんは周りから浮いていてそこに居れば嫌でも目に入ってきてしまう。
そして意思とは関係なしに、最早条件反射のように彼にちょっかいをかけに行ってしまうのだ。
「シーズちゃん」
そして彼もまた条件反射のように俺に話し掛けられると露骨に嫌そうな顔をする。
「手前、帰ったんじゃなかったのか」
……と思ったんだけど、それほど嫌な顔はされなかった。
同じクラスになってからというもの、シズちゃんは人間的に丸くなったような気がする。
気持ち悪い、というか、むず痒い。こんな接し方は今までしてなかったから。
調子狂うんだよなぁ。
「あー、うん、今帰るとこ。で?君は自転車置き場で何をしてるのかな?今から帰るっていう雰囲気じゃなかったけど」
「……なくした」
「え?」
「鍵、なくしちまったんだよ。自転車の鍵。どっかで落としちまった」
俺はぱちくりと瞬きをし、そして思わず笑ってしまった。
だって、そんな、眉毛ハの字に下げて、「しゅん」なんていう効果音がぴったりな顔……!
「あははっ、シズちゃんって天然だったっけ?」
「うるせぇっ!笑うな!」
シズちゃんは、こいつに話すんじゃなかった、とか何とかぶつぶつと呟いている。
ほんと、シズちゃんの暴力減ったなあ。今までの彼だったら、俺がシズちゃんの失態を笑ったりしたら間違いなくキレてただろう。
まあ、今は焦っててそれどころじゃないのかな。
「でもごめんね。俺、優しくないから探してあげようなんて言わないよ?」
ここで、一緒に探してあげる、なんて言ったら俺まで人間的に変わってしまう気がして。
「……誰もンなこと頼んでねぇよ。早く帰れ」
チ、と小さく舌打ちをして、シズちゃんは地面に荷物を引っくり返す勢いで鞄を漁り始めた。
もう何度も鞄の中を探したのだろう。
探し方も雑で、苛立っていることが分かった。
何だか、放っておけない。
自分でも何でそう思ったのか分からないけど、このままシズちゃんを置いて帰ることは出来なかった。
「ねぇ」
「あ?」
「一緒に探してはあげないけど、一緒に帰ってはあげるよ」
「……は!?」
ふざけんな、誰が手前なんかと!
と、言われるかと予想していた。
しかしシズちゃんは俺の予想を裏切るのが本当に上手で……、少し驚いたように目を見開いていた。
シズちゃんは何か思案しているようだったけど、口をパクつかせるだけで俺とシズちゃんの間には沈黙が続く。
「その、俺バスと電車で通学してるんだけど、この前痴漢にあって、ね。シズちゃんでもボディーガード位にはなるかなあって……」
気まずい空気に耐えきれずに、言い訳のように並べた言葉。嘘ではなかった。痴漢にあったのは本当。まあ、勿論そいつは社会的に抹殺してやったけど。
ああ、でもシズちゃんにこんな情けない話しちゃったのはまずったなあ。
俺は早々に後悔して小さく溜め息を吐く。
しかし溜め息を吐き終わる前に、シズちゃんは鞄を持ち上げ、空いてる方の手で俺の手首を掴んでズンズンと大股で歩き始めた。
「え、ちょ、シズちゃん!?」
「帰るぞ」
「シズちゃん?正気?俺と帰るの?」
「手前が言ったんだろうが」
「……っ」
本当に、君は、俺の予想を裏切るのが上手だね。
調子、狂うなあ。
20100513
書いてる自分が一番まどろっこしく感じています(笑)シズちゃんがチャリ通とか、ロマン。