(※女装)
池袋東口改札前。いつもと同じ待ち合わせ場所、同じ時間。違うのは、
「お待たせ、シズちゃん。待った?」
――違うのは、臨也の恰好。
「いや、俺も今来たとこ……っつか手前、何だ、その恰好」
俺は臨也のその恰好に驚きを隠せない。誰だって、驚くだろう。
自分の恋人(男)が、女装をしてきたら。
一瞬臨也かどうか疑わしく思ったが、この俺が臨也と他の奴を見間違える筈がない。
「ああ、これ?可愛いでしょ?」
ひらりとその場で一回転をして見せる臨也。胸の辺りまである黒髪が臨也の動きに合わせてなびく。きっとどこかで調達した鬘だろう。春らしい花柄のワンピースと、ヒールの靴が妙に似合っていた。
確かに、可愛い。そこらの女よりも、可愛い。
「いや、そうじゃねぇよ。何でンな恰好してんだよ、そういう趣味に目覚めたのか」
「まっさかぁ。いくら俺が色んな趣味を持ってるからってこれはないでしょ。今日女装してきたのはー……、シズちゃんとプリクラが撮りたいからでーす!」
臨也は、ぎゅう、と俺の腕に抱き着きながら満面の笑みで言った。
俺はそんな臨也のテンションに付いて行けずに、カチャリとサングラスを掛け直すことしか出来ない。
「……は?」
「だから、プリクラだよ。シズちゃんも知ってるでしょ?でも男二人でプリクラ機に入るなんて周りの目が痛いと思わない?しかも俺とシズちゃんだよ、絶対注目の的だよねぇ。じろじろ見られるのは俺も好きじゃないし。でもこの恰好ならどっからどう見ても普通の恋人同士!だからプリクラ撮りに行こう?」
「理由は分かった気ィすっけど、何で突然プリクラ……」
すると臨也は拗ねたようにムッと頬を膨らませ唇を尖らせた。
「そんなの、シズちゃんとの思い出を形にしたいからに決まってるでしょ。分かれよ……」
「……っ、臨也……」
きゅぅん、と胸が締め付けられる感覚。これが愛しいという感情なのだと、臨也と付き合うようになって分かった。
「分かった、撮りに行くぞ」
「……!シズちゃん!だぁいすき!ラブ!」
ふにっ、とマシュマロが頬に触れたような気がした。しかし直ぐに臨也に口付けられたのだと分かる。
じろじろ見られんのは嫌いなんじゃねぇのかよ。
人が集まる池袋でこんなことをして、注目を集めない訳がない。
俺もどちらかと言うと人前でベタベタするのは好きじゃねぇ。
だけど隣を歩く臨也の嬉しそうな、幸せそうな表情を見たら、周りの視線などどうでもよくなった。
「臨也」
「なぁに、シズちゃん」
「今日俺んち泊まってけ」
「ふふ、シズちゃんのエッチー」
「…っるせ」
臨也の細い腰を抱き寄せ、歩幅を合わせながら歩く。そしてそのままプリクラを撮る為にゲーセンへと向かった。
「えーと、美白モードで、背景はこれ!シズちゃん、カメラこっちね!」
「……ん」
俺は初めて入るプリクラ機に落ち着かず、臨也の言う通りにするだけ。
とりあえずカメラとやらに視線をやるも、どういう顔を作ればいいか分からない。
「シズちゃん、サングラスぐらい外せば?」
「あ?ああ、分かった」
3、2、1、
カシャ
「あー!もう、シズちゃんのせいでポーズ取れなかった!」
どうやらサングラスを外している内にシャッターが切られたらしい。
臨也は次の撮影に合わせて早々とピースサインを作っている。ご丁寧に片目を瞑って、モデル顔負けの愛らしさだ。
カシャ、とシャッター音。
「ほら、シズちゃんもそんな後ろにいないで前おいでよ」
「……おう」
ぐい、と臨也に腕を引っ張られ、臨也の隣に並ぶ。フィールドアウトしないように少し屈むと、予想以上の至近距離で臨也の整った顔がそこにあった。
うっすらと化粧もしているのか、唇がいつもよりもふっくらとしていてピンク色に色付いている。
(……キス、してぇ)
悶々とそんなことを考えながら臨也の横顔を見つめていると、俺の視線に気付いた臨也がこちらを向いた。
「シズちゃん?どうかした?」
ことりと小首を傾げる臨也。さらりと黒髪が流れ、臨也の周りにぶわっと花が咲いた気がした。
ああ、もう、我慢ならねえ。
「手前、可愛すぎんだよ……」
「え、ちょっ、なに、んむ……ッ」
いつもはかさついている唇が今日はしっとりとしているのは、リップクリームか何かを塗っているからだろうか。女のようなその唇を食むように口付けをし、ついでとばかりに舌を入れる。臨也は目を見開き驚いていたが、それは一瞬のことで、直ぐに自ら舌を絡ませてきた。くちゅりと湿った水音がシャッター音に混じって小さく聞こえる。
結局撮影が終わるまでキスを続けた。
「まさかシズちゃんとちゅうプリを撮るとは夢にも思わなかったなあ」
出来上がったプリクラを眺めながら、臨也が楽しげに笑う。
一方、俺はそのプリクラを直視出来ずにいた。
「…………」
「なーに今更恥ずかしがってんのさ」
「恥ずかしがってねーよ!」
「でもいい思い出が出来たなあ。はい、これはシズちゃんの分ね。君の上司に自慢するのに使って」
「誰が自慢するか。手前も誰にも見せんなよ」
……こんな可愛い恰好した臨也を他の奴の目に映すのは癪だから。
口に出さずとも、臨也は俺の思考を読み取ったかのようにくすりと笑い、
「可愛いね、シズちゃん」
と言った。
「……うるせぇ。飯食いに行くぞ」
「俺大トロー」
「んな金あるか。ハンバーガーとポテトとシェイクだ」
「ちぇー。ナゲットもつけてよね」
「仕方ねぇな」
サングラスを掛け、臨也の手を引き歩く。ヒールで歩く臨也を転ばせないようにゆっくりとだ。
ゲーセンを出る時に見知った顔触れを見たような気がした。
「あれ?今のドタチン?」
「さぁな。ほら、早く行くぞ」
俺達と入れ違いにゲーセンに入っていく門田と、六条。その存在に俺も気付いたが、ここは互いの為に声を掛けないでおいた。デートの時くらい、恋人と少しでも長く二人きりで居たいものだろう?
しかし後日、門田とひっそりとプリクラを見せ合ったのはまた別の話。
20100510
もう楽しかったの一言です。静雄が気持ちわるいくらい臨也ラブですみません。あ、ちなみに門六verは書いてません(笑)
何かございましたらお気軽にどうぞ!