(静雄視点)



臨也と、同じ委員会になった。

「おい、手前、どういうつもりだ」

休み時間。俺は早速臨也の席に向かい、どういうつもりで俺と同じ委員会に入ろうとしたのか問い質すことにした。

「さあ?何でだろうねえ?俺も分からないや」

少し困ったように。本当に自分にも分からない、と、臨也の目が語っていた。見慣れない表情を目の前に、俺はそれ以上問い質すことも、文句を言うことも出来なかった。

「もう決まっちまったから仕方ねぇけどよ……俺の静かに過ごす為の時間は邪魔すんなよ」

「ははっ、シズちゃん、その為に図書委員になったんだ?」

「うっせぇ」

これ以上話すことがないと判断した俺は、自分の席に戻ることにした。
臨也が同じ委員会に入ったのは、俺への嫌がらせのつもりだったのかと思った。しかし、どうやら違うらしい。
困っている臨也の顔を見るのは、何だか気分が良かった。





真新しい英語の教科書とノートを開いて、教師の話を聞く。いや、聞いているフリ、と言った方が正しい。新学期二日目にして早速授業が入り、ダルいことこの上ない。
ノートの上にシャーペンを走らせることもしないで、俺はぼんやりと考え事をしていた。
もっと言えば、身体測定が終わった後の休み時間のことを思い出していた。臨也との会話が頭の中でリピートされる。


『俺は……ただ静かに暮らしてぇだけだ。ノミ蟲が何か仕出かさなきゃキレる理由もねぇ』

『あれ?おかしいなあ、一年の頃は俺を見るだけで怒り狂ってたのに。今じゃ俺がここに居ても普通だもんね。シズちゃんも成長したってことかな』


確かに、その通りだと思った。
一年の頃は臨也を見掛けては追いかけ回し、殺し合いをしてきた。
今は、どうだろうか。
俺から休戦を申し出たとは言え、あいつに殺意を抱くことが少なくなった。一番驚いているのは他でもない、自分だ。
臨也と喧嘩以外で会話をして、喧嘩以外で触れ合って。
俺はあんな細い身体に向かって標識を振り回したりしていたのか。
なんて、ほんの少し罪悪感まで感じたりして。

(どうかしちまったのか、俺……)

ぐしゃりと髪を掻き混ぜ溜め息を漏らす。

「じゃあ次のページの本文を誰かに読んで貰おうかな」

教師の声に、授業中だということを思い出した。上の空で授業を受けていたから、当てられるかもな、と思った。
しかし教師が指名したのは、

「折原くん」

臨也だった。
臨也はきちんと授業を聞いていたのか、落ち着いた様子で返事をし、教科書を読み始めた。

英語が……というより、勉強が苦手な俺からしたら発音が分からない単語も、臨也はすらすらと読んでいく。流暢な英語が教室に響く。

鈴の音を転がしたような声。綺麗、だなんて。

本当に俺は、どうかしちまったらしい。

いや、おかしいのは今に始まったことじゃない。
初めて喧嘩以外で臨也の手に触れた時。始業式で臨也に触れられた時。身体測定で臨也の着替えを見てしまった時。

確かに、俺は――…。

何かに、気付きかけた。
しかし、授業の終わりを告げるチャイムに思考は途切れ、結局胸の引っ掛かりが残るだけだった。




















20100506



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