「臨也さん!」

サンシャイン通りで、妙に響く声を聞いた。声の主は童顔の青年。中学生と言っても何の疑いもなく頷ける童顔の青年は、服装から高校生だと判断出来る。その男子高校生はあどけない笑顔を見せながら、ある人物の元に駆けて行った。その人物とは、俺が最も憎んでいたはずだった男。そして今、最も愛しいと感じている男――折原臨也。そいつだった。
臨也を視界に入れた瞬間、ずく、と胸が疼く。
同時に沸き上がる嫉妬。

(竜ヶ峰の奴、また臨也にちょっかいかけやがって……うぜぇうぜぇうぜぇ)

臨也に馴れ馴れしく話し掛ける竜ヶ峰に対し、俺の苛々は募るだけだった。
竜ヶ峰の、まるで全身から溢れるような臨也への好意は手に取るように分かった。だから余計に気に入らねぇ。

年下相手に大人げない。分かっている。分かっているのだが……。

「おい、臨也!手前池袋には二度と来んなって言ってんだろうが!」

こうして臨也に近付いて行ってしまう。竜ヶ峰と臨也の間に割り込み、二人を邪魔するように。
今まで散々歪み合ってきて、今更臨也と普通の会話など出来る筈がない。こうすることでしか竜ヶ峰と太刀打ちすることが出来なかった。

「あはっ、まーた見付かっちゃった。何?シズちゃんってさぁ、俺を見付けるレーダーとか付いてるの?ストーカー?こわいこわーい」

「……んな訳あるかよ、99.999999パーセントあり得ねぇ!どうでもいいからさっさと俺の前から消えろ!」

「えー?今帝人くんと話してたんだけど。シズちゃんって空気読めないんだね、今更だけど」

「うぜぇええええ!!!」

怒りではない。
嫉妬だ。臨也の口から他の男の名前が出ることが不快で仕方ない。
ふつふつと沸き上がるそれに任せて、手近にあった自販機を持ち上げる。

「流石にそれを投げられちゃ俺も死んじゃうからね。今日はここで退散するよ。帝人くん、話の途中でごめんね、また今度。シズちゃんもまったねー!」

「二度と来んじゃねぇ!」

自販機を投げ付けて、最後まで“折原臨也が嫌いな平和島静雄”を演じた。勿論、自販機は臨也に当たらないように投げた。

「……静雄さん、こんにちは」

ふと、今まで黙っていた竜ヶ峰が口を開いた。無邪気な笑みとは反対に、その声音は先ほど臨也と話していた奴と同一人物なのかと思う程、単調で低くて、黒い。

「手前、」

「静雄さん、ここではお互いやりづらいですし、場所変えませんか?」



そうして連れて来られたのは人気のない路地裏。表通りの喧騒からはかけ離れている。

「で?手前は俺に何の用があってこんなとこ連れてきやがった?」

凄味を効かせて言ってみるも、竜ヶ峰は怯まなかった。いつもの竜ヶ峰を知っている奴が見たら驚くに違いない。

「単刀直入に言います。臨也さんと僕の邪魔をしないで下さい」

「あ?別に手前と臨也はそういう関係じゃねぇだろうが」

「あなたとも何の関係も持ってない。……そうですよね?ならあなたが僕の邪魔をする資格はない」

確かに、その通りだ。俺と臨也は恋人でも何でもない。それでも、臨也が他の奴の手に渡るのは許せなかった。
俺は臨也のことを本気で考えていて、恐らくそれは竜ヶ峰も同じだ。

「静雄さん」

竜ヶ峰の声に視線だけで対応し、先を促す。竜ヶ峰は俺を真っ直ぐに見つめ、そしてはっきりと告げた。

「やるなら、正々堂々として下さい。あのやり方じゃあ僕も静雄さんも、先に進めませんよ。もしかしたら他の人が先に臨也さんに手を出すかもしれません。それは、嫌なんです。他の人じゃ駄目なんだ。静雄さんなら、あの人を幸せに出来る。もし静雄さんにその気がなくて、今まで通りの行動しか出来ないと言うのなら、その時は俺が臨也さんを貰います。正々堂々と、ね」

「竜ヶ峰、」

俺が言葉を返す前に、竜ヶ峰は踵を返して歩き始めた。そして少し行ったところで立ち止まり、一度だけこちらを振り返った。

「静雄さん。僕、負けませんから」

好戦的な瞳で告げられ、ぞくりと背が震える。歓喜にも似た感情。

面白いじゃねぇか。

「俺も、負けるつもりはねぇよ」


竜ヶ峰は俺の宣戦布告とも取れる言葉を聞くと満足気に笑みを浮かべ、再び歩みを進めて表通りへと消えて行った。

俺も恋敵とは反対の方へと歩く。

(さて、これからどうしようか)

























20100502
何かもう、すごく楽しかったです、帝人様、いい…!!年下に背中を押される静雄がすごくへたれですみません。
素敵なリクエストをありがとうございました!



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