やっと暖かい日が続くようになった。
さわさわと爽やかな風が吹き、木々を揺らす音を聞いていた。向かい側のマンションのベランダには、小さいながらも鯉のぼりが泳いでいる。

窓から射し込む陽の光だけで、ぽかぽかと身体が暖まる。
こんな後楽日和なのに外にも出掛けないで家に引きこもるなんていうのもどうかと思うけど、俺達が一緒に歩いてたら余計な注目を浴びるだけだ。それなら家で静かに二人きりで過ごしていた方がいい。

「いい天気だね、シズちゃん」

「ふあ」

と、シズちゃんは欠伸で返事をした。可愛らしい欠伸に、思わず笑みが零れる。
首だけシズちゃんの方を向いて、眠いの?と聞くと、こくりとシズちゃんは頷いた。
今、俺はシズちゃんに後ろから抱き締められる形で彼の脚の間に座っている。
そのせいで、至近距離でうつらうつらと船を漕ぎ始めたシズちゃんの髪が首筋に触れて擽ったい。

「どうしたの?昨日寝れなかった?」

昨夜はシズちゃんと一緒に布団に入ったけれど、俺もシズちゃんも仕事上がりで疲れていて、何もしないで寝てしまった。俺は疲労感から直ぐに夢の中に飛び込んだのだけれど、どうやらシズちゃんは違うらしい。

「あんまねれなかった」

眠気からか、どことなく舌ったらずに紡がれた言葉に、きゅん、と胸が鳴った。
可愛いなあ、と思いながら、身体の向きを変えてシズちゃんと向かい合わせになる。柔らかな金髪に手を差し込み、くしゃくしゃと撫でてやりながら、

「シズちゃんも疲れてたんでしょ?ちゃんと寝なきゃ駄目じゃない。これから俺とあーんなことやこーんなこと、する予定なんじゃなかった?」

と言うと、シズちゃんはううんと一つ唸ってみせた。そして、爆弾を投下。

「ん……、でも、てめぇが、かわいかったから」

「え?」

「いざやの寝顔がかわいくて、ムラムラしちまって、ねれなかった」

ぎゅう、と正面から抱き締められ、俺は顔に熱が集まるのを感じた。
じゃあシズちゃんの寝不足は俺のせいってこと?
っていうか寝顔、って……、今まで何度も一緒に寝てきたけど、改めてそう言われると恥ずかしい。

「〜……っ」

「いざや?」

「シズちゃん、君、今自分で何言ってるか分かってる?」

「ああ、わかってる、わかってるぞ」

「……分かってないから言ってるんだけどな。とにかくちょっと寝なよ。シズちゃんがそんなんじゃ何か調子狂うんだけど……」

目の前のやたら図体のでかい男が可愛く見えて仕方ない。
しかしシズちゃんは俺の提案には乗らずに、ふるふると首を振った。

「いやだ、折角いざやと一緒にいられんのに、寝られっかよ」

なんて、また俺を翻弄させることを言いながら。
本当に勘弁して欲しい。
心臓が、持たないよ。

「膝枕」

「へ?」

「いざやが膝枕してくれたら、ねる」

寝惚け眼で俺を見つめながら、しかしはっきりと、シズちゃんは告げた。
しかもシズちゃんは俺の返事を待たずに、勝手に俺の膝に頭を乗せてきた。

「やわらけぇ」

自分の膝の上でまるで猫のように擦り寄ってくるシズちゃん。俺はと言うと、突然のシズちゃんの言動に目を白黒させるだけ。

「ちょっとシズちゃん、そこで寝るの?身体痛くなっても知らないからね?っていうか男の太股が柔らかいわけないだろ!」

「んー……、おやすみ、いざや」

「うわ、まじで寝ちゃったよ、信じらんない」

瞼を閉じてしまったシズちゃんに対して文句を言ったところで、彼の耳には届いていないだろう。

「もう、シズちゃんのばーか」

だけど。
溜め息を吐きながらも、笑っている自分が居る。

(シズちゃんには弱いんだよなあ)

くしゃりと金髪を撫でる。シズちゃんを起こさないように、優しく、優しく。見た目よりずっと柔らかくて、綺麗な金髪。髪の根元がほんのり茶色がかっていた。

シズちゃんが起きたら髪の毛染め直してあげよっかな。カラーリングあったかな。夕飯はオムライス。デザートはシズちゃんの好きなプリン。まだ冷蔵庫に買い置きがあったはずだ。お風呂も一緒に入ろう。髪も身体も洗いっこして、湯船に一緒に浸かって、100まで数を数えて。お風呂から出たらドライヤーで髪を乾かしてあげて、その後は寝室で――…。

シズちゃんの寝顔を観察しながら、彼が起きた後のことを色々と考える。
それだけで幸せな気分になった。シズちゃんが居るだけで、どんな些細なことだって幸せに変わる。
今、この瞬間も、勿論幸せ。
春の日溜まりのように、胸がぽかぽかと暖かい。

そうだ、忘れてた。シズちゃんが起きたら一番にすること。

おはようのちゅう、してあげないと。





























20100501
膝枕ネタ、すごく楽しかったです!一度書いてみたかったネタだったので、リクエストを頂いた時からわくわくしてました^//^素敵なリクエストをありがとうございました!



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