(来神時代)





午後4時。
放課後の賑わいを見せる教室内。部活がある奴は部活へ、掃除当番の奴は掃除をしに。俺は帰宅部だし、今週は掃除当番でもないから直ぐに帰れる。いつものように鞄を手にし、門田と新羅の二人と談笑をしている臨也に声を掛けた。

「臨也、帰るぞ」

「え!?あっ、シズちゃん……!?」

臨也はびくりと身体を震わせ、一瞬焦ったような表情を見せた。まるで悪戯を企んでいる子供が、親に見つかりそうになった時のような、そんな表情。
またくだらねぇことでも考えてんのか。

「じゃあ臨也、よろしく頼んだよ」

新羅は臨也にそう告げると、門田と一緒に教室を出て行ってしまった。
何だか意味深な台詞だ。

「手前、何か隠してんだろ?言え。吐け」

「何も隠してないよ。それよりシズちゃん、お願いがあるんだけどさ、図書室行くの付き合ってくれない?さっき新羅に調べ物頼まれちゃって。一人じゃつまんないし、シズちゃんが先に帰っちゃうと寂しいんだけど……ダメ?」

ぎゅ、と腕に抱き着かれ、上目遣いで見られたら断れる筈がない。

「……分かった。付き合ってやる」

「わーい!シズちゃんありがとう!ラブ!」

「っるせぇ!早く行くぞ!」

未だに臨也のこういった素直で可愛い態度には照れてしまう。臨也もそれを分かっているのか、俺のぶっきらぼうな言葉に機嫌良く笑みを浮かべた。

人目も気にせずに手を繋いで図書室へと向かう。付き合い始めた頃は携帯で写真を撮られたりと騒ぎになったものだが、今では周りも慣れてきたのか見てみぬフリをするのが常だ。


「で?何調べんだ?」

静かな図書室の中で、小声で臨也に問い掛ける。

「うん、沖縄についてちょっと」

「ああ、修学旅行の事前学習か?」

「そうそう。新羅、色々と忙しいみたいだから、俺があいつの分も調べてあげるの。勿論、タダじゃないけどねー。あ、シズちゃんのもついでだからやってあげよっか?昼ご飯一ヶ月分で手を打つよ」

「ぼったくりじゃねーか。俺は自分でやっからいい」

「そう?……あ、これいいかも」

臨也が手に取ったのは沖縄のガイドブックだ。曰く、ガイドブックは浅く広く、分かりやすい説明がいいのだそうだ。

空いている端の席に座り、早速本を広げてレポート用紙を取り出す臨也。俺も隣に座り、ついでなので自分のレポートも終わらせてしまおうと一緒になって本を覗き込んだ。

カリカリと紙の上を走るシャープペンの音が響く。
しかしそれはほんの数十分の間だけだった。

「シズちゃん、見てよこれ、この水族館は行くべきだよね」

「あー…、なんかすげぇ水槽があんだろ?」

臨也が指を差しているのは沖縄で最も有名な水族館だ。巨大な水槽を悠々と泳ぐ魚達は迫力満点に違いない。

「何かこういうの見てるとワクワクしてくるね。楽しみだなー楽しみだなー楽しみだなー」

ペラペラとページを捲りながら、臨也は無邪気に目を輝かせた。
俺もつられて頬が緩む。

「当たり前だけど海も綺麗だしな。ダイビングもいいかもな」

「……ね、シーズちゃん」

「んだよ?」

「修学旅行もいいけどさ、いつか二人きりで旅行しない?」

机に頬杖をつき、小首を傾げながら俺を見つめてくる姿は可愛いとしか言い様がない。

「そう、だな、考えとく……、」

「ふふ、シズちゃんってば可愛いー」

つん、と俺の頬をつつき笑みを浮かべる臨也の指を掴んで、

「手前の方が可愛い」

と耳元で囁く。
かあっ、と耳まで真っ赤に染める臨也の反応は、見ていてとても気分がいい。

「……っ、シズちゃんって、たまにすごくむかつく位かっこいいよね」

「それは……褒められてんのか?」

「どうだろうね?さ、そろそろ遅いから今日は終わりにしよ?」

上手くはぐらかされたような気がするが、窓の外は確かに薄暗くなってきて、図書室の閉館時間も近付いてきている。

「何かあんま進まなかったけどな」

「シズちゃんのせいでね」

「120パーセント手前のせいだろ」

「シズちゃんってば冗談がお上手。…………あ!」

本を元に戻し、図書室を出る。昇降口に向かう途中、臨也が突然立ち止まり声を上げた。

「あ?どうした?」

「忘れ物した!」

「図書室にか?」

「ううん、教室。弁当箱忘れてきちゃった」

「ったく仕方ねぇな」

「とか言いながら付いて来てくれるなんて、シズちゃんってば優しー」

ちゅ、とリップ音。
そして、頬に柔らかい感触。
勢いよく臨也の方を向くと、臨也は楽しげに笑い、タタっと走り先に教室に入って行ってしまった。
学校で、しかも不意打ちで頬に口付けられ、顔に熱が集まる。

「くそ……っ、あいつ可愛すぎんだよ」

ぐしゃぐしゃと自分の髪を掻き混ぜながら、俺も教室に足を踏み入れた。

その時。



パーンパーン!!

と破裂音が響いた。

「―……!!??」

驚きで声も出ない。何が起こったかも分からない。自分の周りは紙吹雪が舞い、辺りを見渡すと教室は飾り付けが施してある。

「なん、だ?」

「静雄、おめでとう!!」

「おめでとう」

「な、新羅……門田!?手前等、帰ったんじゃ……?」

そこには先に帰宅した筈の新羅と門田が立っていた。クラッカーらしき物を手に持ちながら。

「シーズちゃん、びっくりした?」

「臨也、これ、どういう……」

「ヒント。今日は何日でしょう?」

「今日は……20日……、あ、そういう、ことかよ……」

そこでやっと状況を把握した。
4月20日。
そうだ、今日は、

「今日はシズちゃんの日だから、祝ってあげようって思ってね。新羅とドタチンには用意をお願いして、俺はそれが終わるまで時間稼ぎしてたの」

「そうそう、静雄の好きなプリンも買ってきたよ」

「コンビニのプリンだけどな」

「京平、それは言っちゃいけないよ」

「ね、シズちゃん、驚いた?」

プリンの入った袋を新羅と門田から受け取り、臨也の言葉に素直に頷く。


「ああ、すげぇ驚いたし……嬉しい。ありがとな」



どうやら俺は友人と恋人に恵まれていたらしい。
その日に食べたプリンは、今まで生きてきた中で一番美味く感じた。























20100420
420の日!!!



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