(静雄視点)




チュンチュン、という鳥の囀り、そして部屋に射し込む清々しい朝日で目を覚まし、目覚めは凄く良かった。
辺りを見渡すと、同じ部屋だった筈の新羅と門田が見当たらなかった。部屋に残っていたのは俺と、

「おはよー、シズちゃん」

この男だけだった。

まだ覚醒しきっていない頭で、そういえば昨日は新メンバーが合流したんだっけか、と思い出す。そして昨晩、こいつが俺に変なあだ名をつけたことも。

「その呼び方止めろ」

「あれ?今日はテーブル投げないんだ?」

「……ベッド投げてやろうか」

「あはっ、シズちゃんってばこわーい。折角起こしに来てあげたのになぁ。皆待ってるよ?」

「……チッ、分かったから早く部屋から出てけ」

昨日と変わらずいちいち癪に障る奴だ。
しかし、何故か今日は身体に力が入らない。寝起きだから、ということもあるんだろうけど……。
違和感を感じながらも用意を済ませ、皆の待っているであろう食堂に急いだ。

「悪い、遅くなった」

「おはよう、静雄」

「静雄さん、おはようございます」

「おう」

空いている席に座り、一通りメンバーと挨拶を交わして朝飯に手を付けた。
しかし、

「静雄、あまり食べてないようだけど」

新羅の言う通り、食が進まない。

「ああ、食欲がなくてな」

「静雄が体調を崩すなんて珍しいね。あ、ちょっと熱もあるな……」

ひた、と宛てられた新羅の手のひらは冷たく感じた。が、直ぐに、俺の体温の方が高いだけなのだと気付く。

「どうした、風邪か?」

近くに居た門田の問いかけに、俺は力無く笑った。

「そうみてぇだな」

「今日は部屋で休んでた方がいいかもね。僕が付いていようか?」

「や、それはいい。一人で平気だ」

でも、と食い下がる新羅を遮るようにして席を立ち上がる。

「静雄さん、お大事に」

「早く治るといいっすね」

「……お大事に」

年下の三人組にも心配され、俺は情けなくも何だか嬉しく思った。こういう時、仲間というのはいいものだな、と思う。

「シズちゃん、お大事に」

最後に聞こえた声に振り向くと、奴は昨日と同じように笑みを浮かべていた。

(うぜぇうぜぇうぜぇ!!)

込み上げる怒りは尋常じゃないが、今の俺はそれを表に出すだけの体力がない。
俺は足早に部屋に戻った。



布団に潜ると、思った以上に身体が熱を持っていることが分かった。ダルいし熱いし寒いし頭痛はするし、最悪だ。
今頃皆は普通に誰かと話して、そしてそれが誰かと恋をするきっかけになっているかもしれない。

俺はこのままでいいのか。
恋なんて出来るのか。

目を閉じる。
イメージする。
自分が誰かと恋をするイメージよりも先に、リタイアをして一人でワゴンのドアを閉める自分が瞼の裏に浮かんだ。

もうそろそろ、潮時かもしれない。

そう思った時だった。部屋のドアを誰かがノックした。

「静雄ー、大丈夫か?」

「……トムさん」

「起きてんのか?開けるぞ」

ドアから顔を出したのは、田中トムさん。この企画のスタッフで、何かとお世話になっている人だ。

「調子はどうだ?」

トムさんはベッドの近くの椅子に腰を降ろして俺に問いかけた。

「横になってると大分楽っスよ」

「そうか。お前が体調崩すなんて初めてだからよぉ……心配になって様子見に来た」

「すんません」

「謝ることはねぇよ。早く治るといいな」

「はい」

トムさんの優しさに、俺は思わず涙腺が緩んだ。病気になると人肌が恋しくなるというのはどうやら本当らしい。
そして俺は、この人になら頼ってもいいんじゃないかと思った。

「トムさん」

「ん?何だ?あ、飲み物とか欲しかったら取って来るぞ」

「あの、聞いて欲しいことっつーか、相談があるんスけど……」

「相談?」

「……はい」

「俺が力になれることか分からねぇけど、俺でいいなら聞くぜ」

その言葉に背中を押され、俺はずっと誰かに聞いて欲しかったことを話した。



「俺、リタイアしようと思ってます」



























20100416


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