※R15







今まで生きてきた中で、こんなにも家の鍵を開けるのに苦労したことがあっただろうか?
意識すればするほど手が震える。
後ろに居る臨也に焦っていることが悟られぬよう何とか平静を装い、鍵を開ける。ガチャリ、と鈍い音が静かなアパートの廊下に響いた。

「……入れ」

「うん。お邪魔しまーす」

中に入るよう促すと、臨也はするりと玄関を上がった。
靴を脱ぎ、几帳面にそれを揃えてからもう一度、お邪魔します、と呟くのが聞こえた。

俺も中に入り、家の鍵を閉めてチェーンを掛ける。再び、ガチャリ、という音が妙に大きく響いた。

臨也を家に呼ぶのは初めてだった。
二度目のデートの帰りで家に来るっていうのは……世間的にどうなんだ?早いのか?遅いのか?そもそも臨也はそういうつもりで来たのか?

「へえ、思ったより綺麗だね」

キョロキョロと部屋を見渡す臨也の瞳は純粋に好奇心に覆われ、“そういう”雰囲気は感じられない。

「適当に座ってろ、コーヒー煎れてくる」

「はーい」

台所に立ち、ヤカンに火を掛けながらちらりと臨也を見遣る。
ばさっ、と布が擦れる音。丁度、コートを脱いでいるところだった。

(……あいつ、何食ってんだ)

恐らく、コートの下に着ているのはシャツ一枚。普段も細い細いと思っていたが、コートを脱いだことによってそれが更に際立った。

「シズちゃん、ハンガー貸して」

「あ、ああ、そこにかかってんの使え」

コートをハンガーに掛ける臨也の背を見つめる。
視線に気付いたのか、臨也がくるりとこちらを向いた。
ドキ、と心臓が大きく跳ねる。

「シズちゃん」

「……何だよ」

「やっぱ何でもない。気にしないで」

ふるふると首を振り、ストン、と臨也は腰を降ろした。
何が言いたいんだと問い質したかったが、湯が沸いたヤカンの音がそれを制した。

「ほらよ」

臨也の前にコーヒーが入ったマグカップを置く。
臨也は礼儀正しく正座をしていた。

「ありがとう」

マグカップを手のひらで包みながら臨也はコーヒーを啜った。

「足、崩していいぞ。……緊張してんのか?」

自分だけが緊張しているのが気に入らなくて、冗談のつもりで言った言葉だった。いつものように余裕のある笑みで、「そんな訳ないだろ。シズちゃんこそ」と答えが返ってくると思っていた。
しかし臨也は俺の言葉を聞くと、肩をぴくりと震わせ、瞬時に頬を赤らめた。

(……な、んだその反応……っ)

ぎゅう、と胸が締め付けられる。俺まで頬に熱が集まって、自分でも赤面していることが分かった。

「……っ、緊張なんか、する訳ないだろ、シズちゃんの家に来たくらいで……。あ、ほら、シズちゃん!テレビ見よ?」

テーブルの上に置いてあったリモコンに手を伸ばす臨也。俺はその手に自分の手を重ねた。
目の前の男が、可愛く見えて仕方ない。二人きりの部屋。俺と臨也、今は二人きりだ。あんなに可愛い反応をされては、我慢なんて出来る筈がなかった。
何より、臨也も俺と同じ気持ちだったということが嬉しい。

「臨也」

「シズちゃん……?」

臨也は赤い瞳を潤ませ、戸惑いの表情を露にしていた。

臨也の手を引き、その細い腰を抱き寄せた。
一度強く抱き締めた後、ゆっくりと身体を離した。
頬に手を添え、顔を近付ける。手のひらから伝わる臨也の体温を感じながら、唇を重ねた。

「……んンっ、は……」

くちゅり、と舌を口内に入れると、臨也は甘い吐息を漏らした。臨也の舌を捕らえ、絡ませる。ざらりとした感触がたまらない。頬に添えていた手を臨也の後頭部に回して、更に深く口付ける。
閉じていた瞼をうっすらと開けると、真っ黒な長い睫毛が涙で湿っていた。上気した頬と、俺の服を握る仕草に煽られ、俺は夢中でキスを続けた。

「んっ、んー…っ」

呼吸を奪うような激しいキスに、臨也が俺の胸を叩いて苦しいと訴え始める。仕方なく唇を離すと、銀色の糸が引き、そしてぷつりと途切れた。

「……はあっ、シズちゃ、はげし……っ」

「手前が可愛いのがいけねぇ」

既に俺の理性はもうないのと同じ。キスで力が抜けているのをいいことに、俺は臨也をその場に押し倒した。

「そんなの知らないよ…っ…、あっ、シズちゃん、だめ、ベッドで……」

頬に朱を走らせ目を反らしながら告げられた言葉に、今度こそ俺は理性を手放した。




臨也とベッドで交わりながら、ふとテーブルに置かれたマグカップが視界に映った。
マグカップの中のコーヒーは冷めきっていることだろう。
一瞬そんなことが頭をよぎる。
今度からは臨也が帰る直前にコーヒーを煎れてやろう。来た直後に煎れても意味がないのだから。





















20100415
わたしが書くシズちゃんはいつもムラムラしてます。



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