「シズちゃん、楽しかったねー」

駅のホームで次の電車を待ちながら、臨也が無邪気に微笑む。その頭の上には有名なネズミのキャラクターの疑似耳がついたカチューシャ。臨也はまだ夢の国の余韻に浸っているようだ。

「ああ、そうだな」

一方、俺はそんな臨也に突っ込みを入れるのも億劫なほど疲れきっていた。歩き過ぎて足はダルいし、朝も早かったから眠気が襲ってくる。

事の始まりは、新羅の「遊園地のチケットが4人分あるから一緒に行こう」という一言だった。新羅の同居人であるセルティが、仕事の報酬で貰ったのだそうだ。新羅はセルティと行きたがっていたが、セルティは仕事で休みが取れないからと断念したらしい。
チケットを無駄にするのも……、ということで、俺と門田、そして臨也が誘われた。

今はその帰りだ。
ちなみに門田と新羅は別方向の電車で、必然的に俺は臨也と二人で帰ることになった。

「でも初めてのデートが新羅とドタチンも一緒だなんてね」

「……そうだな」

臨也と付き合い始めて三週間。
校外で臨也と会うのは初めてだった。見慣れない私服に見とれ、新羅が何もかも知ったようににやにやと気持ち悪い笑みを浮かべて俺を見ていたのは今朝の話。

「今度はシズちゃんと二人で来たいな。遊園地とか人が多いとこはさ、面白いんだよ」

色々とね、と意地の悪い笑みを浮かべる臨也。

「普通に俺とのデートを楽しめよ」

あ……っ?何、言ってんだ、俺!
ぽろっ、と本音が出た。慌てて口を塞いだところで、既に臨也の耳に届いてしまったようだ。

「わー、シズちゃんってばかーわいー」

「うるせぇよ…っ、黙れノミ蟲!」

「うんうん、そうだよね。じゃあ今度、デートしよう。二人きりで」

ちゅっとリップ音が耳元で聞こえた。
頬に、ぷに、とした臨也の唇の感触が残る。

「……っ手前、臨也……!外でこういうことすんな!」

「えー?いいじゃん。人少ないし、誰も見てないよ。あ、ほら、電車来たよ」

軽い足取りで電車内に入る臨也に手を引かれ、俺も車内に乗り込んだ。
時間が遅いせいか、車内に居る人間は疎ら。
線路の上を走る電車の音が車両に響いていた。

席の端に二人で並んで座る。腰を下ろした途端に再び眠気が容赦なく襲ってきた。

「席空いてて良かったね。疲れてるんでしょ?俺が起こしてあげるから着くまで寝てていいよ」

「悪い、頼む」

車内の丁度いい気温と、心地よい揺れに身を委ね、俺はうとうとと微睡むことにした。
――したのだが、

肩に重み。
頬を擽る何か。

閉じかけた瞼を開けると、臨也が俺の肩に寄り掛かっていた。

「……は?」

すうすうと規則正しい寝息を立てるあどけない寝顔。

今さっき、俺に寝てていいよとか言ってなかったっけか?

「……手前も疲れてたのか。まあ、あんだけはしゃげばな……」

頬を擽る滑らかな黒髪を撫でながら、昼間の臨也の様子を思い出す。
触ってくれと言っているような白い頬にも指を這わせると、流石に身動ぎを見せた。
同時に、

「……しず、ちゃ……」

と、舌ったらずに俺の名を呼ぶ寝言。

「……っ」

きゅう、と胸が締め付けられる。
愛しい。愛しい。愛しい。
心臓は五月蝿いほど脈打ち、体温は上がる一方。臨也を起こさぬようと強張る筋肉。

眠気なんて、吹っ飛んでしまった。




















20100414
この後、静雄はムラムラし始めます。



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