(静雄視点)
新学期、二日目。
「おはよ、シーズちゃん」
教室に入るなり、聞きたくもない声。ああ、そうだ、ノミ蟲が同じクラスになったんだった。
俺は臨也を無視して席に着いた。
「え?無視?シズちゃんってば酷いなあ」
床に膝立ちし、俺の机に頬杖をつく臨也。
酷い、とか言いながらもその表情には悲しさの欠片も見当たらない。相変わらず嫌な笑みを浮かべている。
「……っ」
まともに目が合い、息が詰まった。
昨日、体育館での出来事がフラッシュバックする。
唇が覚えている、臨也の細い指の形。思わず手で口を覆った。
「新羅ー、何かシズちゃんが変だよ。いつも変だけど。ほら、顔赤いし」
「おや、本当だ。熱でもあるのかい?」
「ねぇよ!ほっとけ!」
「お前ら朝から元気だな。それはいいが早く用意しろよ?」
後ろから聞こえたのは門田の声。首だけそちらに向けると、門田は何故かジャージ姿だった。
一時間目は体育だったか?
「ああ。今日身体測定だったっけ」
臨也が、ポン、と手を鳴らして思い出したように言った。
そういやそんなことを昨日の帰りのHRで言われたような気がする。
幸い、体育着とジャージはロッカーに入っている。
「分かったらお前らも着替えて来い」
「あはっ、ドタチンお母さんみたーい」
楽しげに笑いながら漸く自分の席に戻って行った臨也に、とりあえず舌打ちをしてから俺も着替えを始めた。
「あれ?ねえ、ドタチン。身体測定って身長と体重の他に何測るっけ?」
「長座体前屈とかするんじゃなかったか?あと握力も計ったような……」
「京平、それはスポーツテスト」
「あはは!ドタチンってたまにすごい天然だよねー」
「天然って……」
「ああ、そういうのをギャップ萌えというんだよ。そう、僕のセルティがまさにギャップ萌えでね、……」
「へえ、ふーん、そう」
「臨也、ちょっとは話を聞く態度になろうよ」
体育着の上にジャージを羽織りながら、ふと臨也達の席を見る。今は名前の順で席が並んでいて、あいつらは席が固まっているから嫌でも騒がしい声が聞こえてくる。
俺がそちらに目を向けると、丁度臨也がシャツを脱いで体育着を着るところだった。
ちらりと見えた細い腰、凹んだ腹部、白い肌。短パンから覗く脚も、白く、細い。少しでも触れたら折れてしまいそうだ。
そこで、ハッと我に返った。
俺は、何を、見てたんだ。
臨也の着替えなんかどうでもいいだろ、本当なら視界から排除すべきだろ!
「ちょっと、シズちゃーん。何してんの?置いてくよ?」
自己嫌悪に陥り頭を抱えていると、すっかり着替えを終えた臨也がそこに立っていた。
「……あり得ねぇ」
「は?何が?」
「何でもねーよ!ノミ蟲は黙ってろ!」
俺が臨也相手に嫌悪感以外の感情を抱くなんて、あり得ねぇんだよ。
20100411
身体測定でまさかの前後編。わたしはどんだけ身体測定に萌えてるんですか。とりあえずジャージ静雄とドタチン、いい。