(静雄視点)








朝は散々な目に合った。殴る目的以外で臨也に触れる機会があるとは思わなかった。見た目よりも細い指と手首は男のものとは思えず、あんなもやしっこみてぇな奴が今まで俺の相手をしていたのかと思うと信じられない。何より、ノミ蟲とあんな形で触れ合ったにも関わらず、キレなかった自分が信じられない。

「静雄、何してるんだい?行くよ」

自分自身に首を捻っていると、新羅の声が思考を遮った。

「あ?」

「体育館だよ。9時から始業式って聞いてなかったの?シズちゃんって目開けたまま寝ることが出来るんだね。器用だなー」

新羅の隣に居た臨也が人を小馬鹿にしたように言う。
ひくりとこめかみの辺りが痙攣する。
いや、駄目だ。耐えろ、俺。
つい数十分前に休戦したばかりだ。しかも言い出したのは俺から。
俺は、怒りを鎮めようと一度深呼吸をした。

「うるせぇ、分かってる。っつか何でノミ蟲も当たり前のように居んだよ?」

「臨也は意外と寂しがり屋だからね」

「ちょっと黙ってくれるかな、新羅」

新羅の背中をばしん、と叩く臨也。俺は二人を無視し、門田の隣を歩き体育館に向かった。後ろの二人は独特の話し方と堅苦しい単語の羅列で会話を続けている。

「悪いな、静雄」

「何がだよ?」

「お前と臨也のことだよ。本当なら臨也をお前から離すべきなんだろうが、俺と新羅がお前らの共通のダチである限りそりゃ無理だ。自然とこうやって4人で行動することになる」

「……手前が謝ることじゃねえだろ」

「まあ、そうなんだがな」

複雑な表情で笑う門田。俺のことを気にしながらも臨也を見放すことも出来ない門田は、なんつーか……苦労人だよな。

体育館に入ると、既にクラス毎に列が出来上がりつつあった。
名前の順に並べ、と教師の声が響く。まだうろ覚えなクラスメートを見つけて、俺も列に並んだ。

「あれ、シズちゃんが隣だ」

「は?何で手前がそこに居んだよ、臨也」

「名前の順で二列に並んだらこうなっちゃったんでしょ。俺のせいじゃないよ」

臨也と離れられる唯一の時間だと思っていたのに、それは叶わなかった。しかも臨也の後ろには門田、更にその後ろには新羅が並んでいる。
こればかりは文句の言いようがない。
キリ、と胃が痛むのは多分、いや、絶対ストレスのせいだろう。



しかし始業式が始まれば臨也の小言も少なくなった。
……にしても、何でこういう式とかっつーのはこんなにも退屈なんだろうか。
長ったらしい校長の話が中盤に差し掛かった時、ふあ、と隣で小さく欠伸が聞こえた。
臨也をちらりと横目で見ると、眠気と戦っているのが直ぐに分かった。ゴシゴシと目を擦る仕草が妙に子供っぽく、あどけない。

「……くぁ」

そんな臨也を見ていたら、俺まで欠伸が漏れてしまった。
それに気付いた臨也がくすりと笑う。

「……手前の欠伸が移っただろうが」

本当ならその嫌な笑いを浮かべる臨也に何がおかしいんだと声を上げたいが、今は始業式の途中だ。なるべく小声で話す。

「また俺のせい?ほんっとシズちゃんって責任転嫁がお得意だよね。でもシズちゃんの欠伸なんていいもの見ちゃった。いつも眉間に皺寄せてるけどそういう顔も出来るんだね。可愛い」

「……なっ、かわ……?!」

思わず声のボリュームが上がってしまった。
そして、


「シズちゃん、しーっ」


ふに、と俺の唇に指を当てて悪戯っ子のように笑みを浮かべる臨也に、何故か心拍数も上がった。


























20100408
折原、門田、岸谷…………名前の順空気読みすぎだろ!



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