(デリックの誕生日ネタ/デリ臨ですが、少しだけ静←臨要素あります)










「折原さん、明日何の日か知ってる?」

パソコンに向かって仕事をしている臨也さんをいつものように背後から抱き締めながら話し掛けたら、折原さんもいつものようにうざったそうに俺の腕を振りほどいた。

「明日?確か仏滅だね」
「まじかよ……、なんかいい気分じゃねえな……、ってそういう意味じゃねえ!」
「はあ……まぁ、聞くだけ聞いてあげるけどさ……、何が言いたいの?」

くる、と椅子を半回転させ座ったまま上目遣いでこちらを見上げる折原さんに、身体の熱が上がり始める。

「その、明日、……お、俺の誕生日なんすけど!」

世の中には誕生日をアピールするのが格好悪い行為だと考える奴も居るだろう。俺だって本当は自分から言う前に折原さんの方から俺の誕生日に気付いて欲しいし、祝って貰いてえ。
でも相手はあの折原さんだ。アピールしなければ確実にスルーされる。俺にとってはそっちの方が悲しい。
折原さんは一瞬キョトンと目を丸くし、そして再びパソコンの正面に椅子を直してしまった。

「悪いけど、明日は朝から仕事が入ってるんだよね」

俺に背を向けたまま告げたっきり、折原さんはそれ以上口を開こうとしない。
まあ、この答えは想定内だった。

「そうっすか……。明日、仕事頑張って下さい。あ、でも頑張り過ぎは良くねえからな!」
「はいはい、分かってるって」
「折原さんは自分のことになると鈍いから……」
「子供扱いしないでくれるかな」

折原さんの形のいい頭を撫でたら物凄いしかめっ面をされたので、慌てて手を引っ込める。

「子供扱いした訳じゃないっす……!可愛くてつい……っ、あ、えと、じゃあ俺、先に寝ますね?おやすみ、折原さん」
「ん、おやすみ」

本当は折原さんより先に寝たくないんだけど、折原さんは仕事の邪魔をされるのを何よりも嫌がるから退散することにした。

(前はもうちょっとデレがあったんだけどなあ……)

誕生日を軽くあしらわれたことに対して苦笑を漏らす。もちろん、俺の誕生日と仕事どっちが大事なんだ、なんて女々しいことを言うつもりはないし、今の折原さんに不満があるわけではない。ただ、一年前の出来事が少し懐かしく感じられた。俺は寝室のベッドに寝転び瞼を閉じながら、唯一折原さんがデレを見せてくれていた一年前のことを思い出していた。





折原さんと出逢う前まで、俺は人間不信に陥っていた。人間に近い身体を持ったアンドロイドの俺に興味を持つ奴らは山ほど居たが、最後は決まって闇オークションだの何だのに売り飛ばされ、たらい回しにされていたからだ。
俺は確かに人間に近い身体を持っていたが、人間に近すぎた。心を持ったアンドロイドは欠陥品として扱われる。喜怒哀楽の感情を持っている俺は主人に対して反抗的な感情さえも持ってしまい、それは主人からすれば不愉快以外の何物でもなかったようだ。


「……そうなんですよ、全然言うことも聞きませんしね。まあ、珍しいモノですし、今度オークションに出そうかと思ってまして。金にはなるでしょうな」
「へえ……、そんなものが……。興味深いですね。そのアンドロイド、手放すおつもりなら私が引き取ってもよろしいですか?勿論、お金なら払います。言い値で買いますよ」

以前の主人と折原さんは仕事上の知り合いだったようで、俺に興味を持った折原さんは多額の金を払って俺を買い取ったらしい。

「今日からここが君の家だよ」
「…………」
「あはは、緊張してるのかな?えーと、デリック、って言ったっけ?君の名前」

折原さんは今までの奴らと違った。俺をアンドロイドとしてではなく、人間として扱っているのだと感じた。しかしこいつも人間。この時の俺は、折原さんを微塵も信じようとしていなかった。

「……手前、何で俺を買ったんだ?」

コキ使う為に決まってる、だとか、あるいは性欲処理の為、だとか。今までこの質問をして返ってきたのはろくでもない答えばかりだったことを思い出す。

「そうだな、敢えて言うなら……、君があいつに似てるから、かな。……まあ、性格は違うようだけど。君は俺を殴らないしね」
「はあ?」
「どうでもいいじゃないか、理由なんて。俺は君が欲しかった、ただそれだけ」

俺には何のことを言っているのか全く意味が分からなかった。ただ、そう言った折原さんは、どこか儚げで、俺を見ていながらももっと遠い何かを見ているようだったのが印象に残っている。

「ねえ、プリン食べる?デリックの為に作っておいたんだ」

ひらりと表情を変え、嬉々として冷蔵庫から取り出したそれを差し出された。

「……いらね……、むぐっ!?」

押し返そうとしたが、逆にプリンを掬ったスプーンを無理矢理口に押し込まれてしまった。
口内に広がる甘味と、ほろ苦いカラメルソース。

「ね?美味しいでしょ?」

ふわりと笑ったその笑顔がとても綺麗で、俺はあんなに固く閉ざしていた心をあっさりと開いてしまった。





バタン、と扉が閉まる音で目を覚ました。
どうやらあのまま寝ちまったらしい。寝室の時計を見れば時計の針は朝の8時を指していた。
寝室から出てリビングに顔を出すと既に折原さんの姿はなかった。先ほどの扉の閉まる音は折原さんが外に出た時のものだと気付く。

「見送りくらいはしたかったのにな……、寝坊するとか馬鹿か、俺」

誰も居ないリビングで拗ねてみせても虚しく声が響くだけで、余計悲しくなった。
とりあえず牛乳でも飲むか、と冷蔵庫の扉に手をかけた時だ。ふと冷蔵庫に貼られたメモが目に入った。

「誕生日、おめでとう。冷蔵庫にプリン入ってるから食べなよ。…………って、これ、折原さんか!?」

慌てて冷蔵庫を開けると、昨日まで入ってなかった筈のプリンが置かれていた。
食器棚からスプーンを取り出し、冷蔵庫の前に立ったままプリンを口に運ぶ。
その味は、一年前に食べたものと何も変わっていなかった。昨日までは確かにプリンはなかった筈だ。ということは、俺が寝た後に作ったのだろうか。
朝から仕事に出掛ける予定があったのに、俺の為に、俺の誕生日の為に、夜更かしして作ってくれたんだろうか。

「……っ」

そこまで考えて、きゅう、と胸が締め付けられ、言葉に出来ない愛しさが込み上げてきた。
折原さんが帰ってきたら、プリン美味かったです、と言って、それから抱き締めよう。振りほどかれないように、いつもより強く、強く。





















20111101
大遅刻のデリ誕!おめでとう!ちなみに臨也は最初は静雄の代わりとしてデリックを扱っていたけど、今ではちゃんと別の人間として見ています




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