(静臨ですが派生キャラも出てきます)





俺の計画は完璧な筈だった。
一週間前から準備を始め、頭の中で何度もシミュレーションを繰り返した。そして今、俺は計画を決行に移す為シズちゃんの家の前に居る。つい数十秒前にインターホンを押したところだ。多少の緊張を持って玄関の前で待っていると、間もなくして扉が開かれた。

「はい、どちら様…………、あ?サイケ?」
「しずちゃんっ、とりっくおあとりーと!」
「……は?」

シズちゃんの姿が見えたと同時に、俺は彼に抱き着きながらなるべく拙い口調になるように注意してハロウィンの決まり文句を口にした。

「きょうはおかしがもらえる日、なんでしょ?」
「ああ、今日ハロウィンだっけか」

そう、今日は10月31日。ハロウィンだ。俺が今サイケの格好をして、尚且つ頭に魔女を思わせる帽子を被っているのも、ハロウィンだから。そしてわざわざサイケの変装をしたのには理由がある。

シズちゃんと俺は付き合ってはいるが、今まで恋人らしい甘い雰囲気を味わったことがない。というのも、俺は普段甘えたくてもプライドが邪魔をして素直になれないからだ。
無邪気に人に甘えることが出来るサイケが、ほんの少しだけ羨ましかった。シズちゃんも素直に自分になついてくるサイケには満更でもない様子だったし。
そこで俺は素直に甘えられる方法を考えた。その結果が、これだ。サイケになりきれば、シズちゃんに甘えられる。ハロウィンの日にしたのは、これはハロウィンの仮装に過ぎない、と自分自身に言い聞かせる為。
サイケになりきるのも気が引けた。正直、幼稚な言葉遣いももの凄く恥ずかしい。しかしシズちゃんに甘えてみたいという気持ちが勝ったのだ。
今日は天の邪鬼でプライドの高い折原臨也はどこにも居ない。俺は今、無垢で無邪気なサイケだ。

「ハロウィンだから、しずちゃんにおかしもらいにきた!」
「一人でか?臨也は?」
「いざやくんはおるすばんー」

自分で自分のことを臨也くんと呼ぶ日が来るとは思わなかった。悪寒が走るが、ここはグッと堪える。

「あー、でも菓子なんてねえぞ」
「じゃあこうしてやるーっ」

こしょこしょとシズちゃんの脇腹を擽ると、シズちゃんは小さく笑いながらくしゃりと俺の頭を撫でた。シズちゃんの大きな手のひらが俺の髪を撫でていると思うと心臓の脈が早くなったような気がした。

「後で菓子買ってくっから、それくらいにしてくれっか?とりあえず中入れよ」
「はーい」

難なくシズちゃんの家に上げてもらい、計画は順調に進んでいるようにみえた。しかし上手くいったのは初めだけだった。俺の計画をいとも簡単に潰す人物がこの家には居たのだ。

「津軽、サイケが来たぞ」
「……え」
「サイケ!?どうしたんだ?来るなら一言言ってくれればいいだろう?」
「え、と、その、つがるのこと、驚かしたく、て……」

俺の身体を抱き締める津軽の腕の中でしどろもどろになりながら答える。津軽は必ずシズちゃんの家に居るわけではないから油断していた。津軽が居るとなると厄介だ。彼とサイケは恋人同士だから、津軽を差し置いてシズちゃんに甘えるのは不自然としか思えない。

「じゃあ俺、買い物行ってくるわ。サイケの菓子も買ってくるからな」
「……ま、待ってよ、シズちゃん……!」

再び玄関に向かうシズちゃんを思わず呼び止めてしまった。しかも今のはかなり素が出ていたような気がする。

「サイケ……?」
「きょうは、みんなでいっしょがいいな!ハロウィンだから、つがるもしずちゃんもいた方が、たのしいよ!」

津軽の腕から逃れ、シズちゃんに抱き着く。ふわりと煙草と柔軟剤の香りが混じったシズちゃんの匂いがして、その心地よさにずっとこうしていたいなんて思った。しかしシズちゃんはべりっと俺を剥がすようにして距離を置き、そしてぐいっと津軽の身体に俺を押し付ける。

「いや、お前の相手は津軽だろ」
「静雄の言う通りだ。どうしたんだ、サイケ……?」
「……ううん、なんでもない」

ふるふると首を振るが、本当は後悔の念でいっぱいだった。こんなことになるなら、シズちゃん以外の男に触ることになるなら、初めから意地を張らないで素直に甘えていれば良かった。
いつものサイケとは明らかに違う態度をとってしまった俺に、シズちゃんも津軽も困惑の表情を浮かべている。

「……仕方ねえ。津軽、ちょっと俺の代わりに買い物行ってくれっか?」
「サイケを置いてか?」
「後でちゃんと理由は話すからよ」
「……分かった。じゃあ行ってくる」

シズちゃんは何を思ったか津軽に買い物を頼み、津軽も渋々ながらそれを承諾した。
バタン、と玄関が閉まる音が部屋に響く。今、この家にはシズちゃんと俺の二人しか居ない。
津軽を見送ったシズちゃんがくるりとこちらを向き、つかつかと歩み寄ってきた。

「さて、どういうことが説明して貰おうか。……臨也くんよぉ」

一瞬、耳を疑った。今、俺はサイケの格好をしている。それにも関わらず、シズちゃんははっきりと俺の名を呼んだのだ。

「な……、えっ?」
「しらばっくれんじゃねえよ。ったく最初っから気付いてたっつの。まあ、津軽の奴は気付いてたかどうか知らねえが」
「嘘、だろ……」

全部、最初からバレていたのだ。
かあ、と顔に熱が集まり、羞恥から涙がじわりと浮かぶ。

「ハロウィンの仮装ってわけじゃねえよなあ?手前、こういう行事は自分がやるより周りがやってるのを観察するタイプだろ」
「……」
「臨也、答えろよ」

俺がサイケの格好をしているからだろうか。するり、といつもじゃ考えられないほど優しくシズちゃんが俺の頬を撫でる。

「甘えたかったんだよ……!」

そう言葉にしてしまえば、後はもう考えるより先に口が動いていた。

「シズちゃんに素直に甘えられるサイケが羨ましくて……っ、俺も、シズちゃんに甘えてみたくて、でもいつも素直になれなくて……、俺も、シズちゃんに抱き着いたり、頭撫でて貰ったり、……っ、ホ、ホットケーキだって、あーんってして貰いたいよ…っ…!いつもいつもサイケばっかりあーんってして貰って、ずるい……!」

駄々をこねる子供のように感情を吐露する俺を、シズちゃんは何も言わずに抱き締めてくれた。

「……、最初から素直にそう言えよ。そしたら俺だって甘やかしてやれたのによ」
「……、それが出来たらそうしてたよ……!」
「でももういいんだよな?手前だけ我慢してたと思うなよ?俺だってずっとこうしたかったんだからな」
「……っ」

ちゅ、と額や頬に何度も口付けられ、こういう擽ったいじゃれ合いに慣れていない俺はシズちゃんの胸に赤くなった顔を押し付けた。
そしてふと疑問に思ったことを問い掛ける。

「ねえ、シズちゃん……、俺だって気付いてたなら、何で最初から言ってくれなかったのさ?わざと俺を津軽の方に押し付けたりして……」
「あ?だって今日はハロウィンだろ?意地悪していい日じゃねえのか。しょんぼりしてる手前の顔、なかなか良かったよなあ」
「この天然ドS…………、じゃなくて!シズちゃん、トリック・オア・トリートの意味分かってる!?」

シズちゃんの言葉に驚き、思わず顔を上げて叫んでしまった。俺の問い掛けに対し、シズちゃんはきょとんとしながら俺の常識を覆す答えを口にした。

「お菓子くれなきゃ意地悪するぞ、だろ?」
「…………意地悪じゃなくて悪戯だよ。シズちゃんのバカ」

本当に君って奴は、昔から俺の思い通りにいってくれない。
でも今日ばかりは俺の計画を潰してくれたことを感謝するよ。あ、勿論、津軽にもね。



























20111031
ハッピーハロウィン!!



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