(皆が臨也の誕生日を祝う話の後編。派生も出てくるので苦手な方はご注意ください)






シズちゃんの声がしたから一瞬胸が高鳴ったが、その姿を見て声の主はシズちゃんと違うことに気付く。俺のフードを引っ張ったその人物は、ピンク色を基調とした服を着ていて、俺なんかよりも薔薇の花が似合いそうな井出達をしているデリックだった。

「君たちも来てくれたの?っていうか君等が揃うとすごく目立つね……」

デリックの両隣には津軽と月島くんも居た。月島くんはもう五月だというのにマフラーをしているし(まあ、俺もコートを着ているけど)、津軽はいつものように着物だ。目立たないわけがなかった。

「皆が俺を見ていても、俺は臨也さんしか見えてないっすよ?」

胡散臭い笑顔でサラッと口説き文句を言うデリックをあしらうのには慣れたもので、俺はいつものようにはいはいと適当に流す。

「デリくん、折原さんが好きだったんだ……?日々也さんに教えてあげようかな」
「おいおいおい、月島よ、お前冗談っつーのが通じないわけ?…………日々也には言わないでおいてくださいお願いします」
「じゃあ六臂さんにちょっかい出すのも止めてくださいね?」
「……っつかお前が奥手過ぎんだろ」
「俺はデリくんみたいに誰にでも声かけないし、六臂さんを大切にしてるだけだけど?」

目の笑っていない月島くんとすっかり縮こまっているデリックのやり取りを見て、一番やっかいなのは月島くんかもしれない、なんて考えていたら津軽に頭を撫でられた。津軽はデリックに比べ口数が少なくて、そのくせこのように突拍子のない行動をとるから心理が読めない。

「……?ん?どうかした?」
「いや、臨也さんが居なかったら、サイケと出逢えてなかったから……、そう思うと、臨也さんが愛しく思えてきた」

津軽は柔らかく笑みを浮かべながら、薔薇の花を俺に差し出した。前触れも何もないから、本当に行動が読めない。

「誕生日、おめでとう」
「あ!津軽先輩抜け駆け禁止!臨也さん、俺のも受け取って下さい!」
「折原さん、お誕生日おめでとうございます」

津軽とデリック、月島くんからも薔薇を受け取り、三人の頭を撫でてやった。大人しく撫でられている三人を見ていると自然に笑みが零れてくる。おかしな話かもしれないが、何となく息子が出来たような気分だ。

「ありがとう。何だか誕生日って言うよりは母の日にカーネーションを貰ったような気分だけどね」
「臨也さんが俺の母さん……?っつーことは俺が臨也さんに手出したら近親相姦になんのか!?」
「デリック、公共の場でそういうことを言うな」
「それより折原さんに手出したら静雄が黙ってないと思うけど」
「わ、分かってるっつの!冗談だよ、冗談……」

津軽と月島くんの哀れむような視線に挟まれ、デリックは言葉を詰まらせている。

「そういえばシズちゃん遅いな……」

津軽達の会話の中で話題になった人物が未だに姿を見せていないことに気付き、ぽつりと呟いた。

「静雄ならそろそろ来るはずだから心配するな」
「もうちょっと臨也さんと居たかったけど、俺達は退散しねえとな」
「六臂さんにもよろしく言っておいてください」

もうちょっと居ればいいのに、と言おうと思ったが、先ほど携帯にメールが来てたのを思い出した。多分あのメールはシズちゃんからだ。津軽の言う通り、あと数十分もしない内にシズちゃんもここに着くだろう。
津軽達に改めて礼を言い、三人の背中を見送った。

「さて、と……」

片手で薔薇の花を持ち、空いている方の手で携帯を開く。案の定、メールの送り主はシズちゃんだった。内容を確認しようとメールを開いたが、そこに書かれていたのは英数字の羅列だけ。http://から始まっていることから、どこかのサイトのURLであることが分かる。
怪しいとは思いつつも、あくまでシズちゃんから届いたメールだ。危険なサイトに飛ぶことはないだろう。
URLをクリックしてみると、シンプルなデザインのサイトへと接続された。どうやらそこはブログサイトらしい。
一番上の記事のタイトルは、「おめでとう。」というもので、その内容を確認してみると、冒頭に「臨也へ」と書かれてあった。

「これ、まさかシズちゃんが……?」

一度タイトルの一覧画面に戻り、一番最初の記事から読み進めていく。
その内容を簡単に言うと、ブログを書きながら俺の誕生日をカウントダウンしていき、誕生日当日に俺にこのブログを見せるという、シズちゃんなりのサプライズらしい。約12日間という短い期間のものだったが、そこに記されているシズちゃんの生活や、俺の為に考えてくれた計画の内容は色濃いものだった。
ブログに書かれていることから推測すると、シズちゃんは皆に「臨也が誕生日だから協力してくれ、薔薇の花を渡してやるだけなんだ」みたいな感じに声を掛け続けていたんだろう。その結果が、今俺の腕の中にある薔薇の花達、というわけだ。

「シズちゃんのくせに……っ」

そう俺が呟いたのと、俺の周りがざわめき始めたのはほぼ同時だった。ブログを読むのに夢中で周りの異変に気付かなかったが、直ぐに原因は分かった。

シズちゃんだ。
シズちゃんがこちらに向かって歩いてくる。大きな薔薇の花束を持って、歩いてくる。

「俺のくせに、何だよ?」

バサ、と薔薇の花束を俺に押し付けながら、シズちゃんはにやにやと笑っていた。

「……ッ、シズちゃんのくせに、俺を泣かせにくるなんて、生意気……!」

花束を受け取り、じわりと目頭が熱くなる。

「泣いちゃうくらい、嬉しかったか?」
「……嬉しかった、悔しいけど、すごく嬉しいよ……」
「幸せか?」
「もう……、何なの?俺を羞恥で死なせたいの?」
「いいから答えろよ」
「…………幸せ」

シズちゃんの恥ずかしい問いかけにこくりと小さく頷くと、突然抱き上げられ視界が高くなった。

「う、わ……!?ちょ、シズちゃん、降ろしてってば!恥ずかしいだろ!」
「うるせえ、黙ってろ」
「横暴!」
「多分、臨也が生まれてきたのを恨んでる奴もいるだろうな。手前はそういうことたくさんやってきたんだからよ。でも俺は臨也が生まれてきたことに感謝するぜ。何て言ったらいいのかわかんねえけどよ、……生まれてきてくれて、俺と出逢ってくれてありがとな。臨也が嬉しいと俺も嬉しいし、臨也が幸せなら俺も幸せになる。今日が手前にとって幸せな日になったなら、良かった。臨也、誕生日、おめでとう」

シズちゃんに抱き上げられた状態でジタバタと暴れていたが、シズちゃんの話を聞いている内にいつの間にか俺は大人しくなっていた。

「…………っ」
「な、何か言えよ、俺だって恥ずかしいんだっつの、くそっ」
「……ありがとう、シズちゃん……、ありがと……っ、こんな幸せな誕生日、初めてだよ……」

ぱた、と涙の粒がシズちゃんの頬を濡らす。ああ、もう、公衆の面前で泣くとかあり得ない。でもシズちゃんの気持ちが嬉しくて、胸が締め付けられるくらいに愛しく感じて、自分で制御出来ないくらい感情が昂ってしまった。

「臨也、好きだ……」
「ん……、俺も好きだよ、シズちゃん」

どちらともなく顔を近付けていく。
しかしあと数センチで唇が重なる、というところでハッと我に返り慌てて距離を取った。

「あ?手前、何のつもりだ」
「何のつもりだはこっちのセリフ!公の場だよ!?ここ駅前!」
「んなこと気にしてんのかよ……、ったく臨也は恥ずかしがり屋だな、っと」
「わ!?」

体勢を変えられ、俺はシズちゃんに担がれるような状態になった。こうなるとどんなに抵抗しても無駄だ。

「俺の家なら文句ねえだろ」
「はあ……、まぁ、家の中なら……」
「家帰ったらケーキもあるから食おうな」

うん、と返事を返し、俺は大人しくシズちゃんに担がれながら自分の持っている大きな薔薇の花束を見つめた。

「ねえ、シズちゃん。これ、随分大きな花束だけど、一体何本の薔薇用意したのさ?」
「皆から貰った薔薇もあるだろ?それと俺のを合わせて全部で99本」
「99本って半端じゃない?」
「…………」

それっきり、シズちゃんは黙ってしまった。何か気に障るようなことでも言ってしまっただろうか。

「シーズちゃん?」
「…………だよ」
「ん?」
「だから!薔薇の花と本数って意味があるらしくて、その、99本っつーのは、とこしえの愛って意味なんだってよ!」

ぶっきらぼうに紡がれた言葉に、俺は顔が熱くなるのを感じた。

「シ、シズちゃん恥ずかしい!君、ほんっと恥ずかしいね!」
「うるせえ!大人しく貰っとけ!」

きっと今シズちゃんの顔も真っ赤になっているに違いない。この体勢じゃ見れないのが惜しいが、照れくさそうに目を逸らしているシズちゃんの姿は容易に想像出来る。
俺もシズちゃんに隠れてふふっと静かに笑った。
















20111024
ただ臨也を幸せにしたかった、それだけです。臨也の誕生日から半年近く経ってしまいました、すみません。愛と気持ちは充分あります、臨也、ラブ!お付き合い下さりありがとうございました!

ちなみに話の中で出てきたブログはこちらです



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