(皆が臨也の誕生日を祝う話。派生も出てくるので苦手な方はご注意ください)








目を開けると、視界いっぱいに様々な色彩が広がった。俺の部屋はモノトーンを基調としている筈なのに。一瞬自分の部屋じゃないかと思うほど、俺の部屋はそれはそれはファンシーになっていた。

「……、どういうことなのか説明してくれるかな?」

俺の上に馬乗りになっているサイケに向かって問い掛ける。ふとサイケ以外の視線を感じ首を動かすと、ベッドの両サイドには日々也と六臂の姿があった。
俺の1トーン低い声に気付いているのかいないのか、サイケはにっこりと笑って後ろ手に隠していたらしいクラッカーを取り出した。
何の真似だ、と問う前にサイケはクラッカーの紐を引っ張り、それによりパンパンッと大きな破裂音が寝室に響く。日々也と六臂もクラッカーを持っていた為、3つ分のクラッカーの紙吹雪が舞い、部屋は火薬の匂いでいっぱいになった。

「臨也くん、誕生日おめでとう!」
「おめでとう、……驚かせてすまない」
「臨也、おめでとう。吃驚した?」

その時、部屋がファンシーになっていた理由が分かった。

「そうか、今日、4日だったっけ。この部屋の飾り付けもお前達がやったんだ?小学校の誕生会以来だよ、こんな飾り付けまでして盛大にお祝いされたのは」

三人の頭を撫でてやりながら、何だか急に照れくさくなってきた。しかしサイケ達の用意した誕生会はこれで終わりではないようだ。

「臨也……、これ、プレゼントだ」

日々也からずいっと一本の薔薇を差し出される。それを追うように、サイケと六臂からも薔薇を差し出された。

「な、何で薔薇?」

とりあえず三本の薔薇を受け取りながら首を傾げる。こいつらが誕生日プレゼントに薔薇を用意するなんて洒落たことを思い付く筈がない。

「ふふっ、ひみつー!臨也くん、今日シズくんとデートでしょ?」
「そのデートに、この薔薇持っていってほしい」

六臂の言葉に更に疑問が深まる。が、多分質問してもサイケは頑としてひみつと言い張るだろう。
それに日々也と六臂の縋るような瞳から逃げられる訳がない。池袋まで薔薇を持ちながら行くのは痛い視線を浴びそうだけど、ここは頷くしかないみたいだ。

「分かった、持っていくよ。持っていく理由は全く分からないけどね。でも、ありがとう。プレゼント、嬉しいよ」

誕生日を祝って貰えたことは素直に嬉しい。

「あっ、臨也くん!時間、だいじょうぶ?」
「えっ、あ、やばい!」

朝から思わぬサプライズをされ、すっかり時間を忘れていた。今日はシズちゃんと池袋で会う約束をしている。
急いで準備をし、サイケ達に見送られて俺はマンションを後にした。


マンションのエントランスを出て直ぐに、見覚えのある姿を見付けた。あちらも俺に気付き、俺の方に向かってくる。俺を見て近寄ってきたということは、俺を待ち伏せしてたんだろうか。

「波江さん?今日は休みって言っておいた筈だけど。どうしたのさ?」

不機嫌そうに立って俺を待っていたのは、俺の秘書である矢霧波江だった。
俺の問いには応えず、代わりに一輪の花を押し付けられた。例によってその花は薔薇だ。

「今日、誕生日なんですってね。貴方も誕生日で浮かれたりするのね、意外だわ」
「ははっ、驚いた。君から誕生日祝いの言葉を聞くとは思わなかった。それにまた薔薇の花……。誰かに何か言われたんだろ?」
「貴方のこと祝うつもりなんてないわ。私はただ、協力しただけよ。気まぐれでね」
「そう、波江さんらしいね。誰に言われたか知らないけど、ありがとう。俺も波江さんの誕生日祝ってあげるよ。気まぐれで」
「……結構よ」

そんなかっこいい捨て台詞を吐いて、波江さんは車に乗り込んでしまった。

「まさか波江さんから花を貰う日が来るとはね……」

予想外のことに面を食らい、思わず去っていく波江さんの車を見届けていると、何の前触れもなしに背中に衝撃が走った。ドン、と何かが突撃してきた音。

「背中ががら空きだよ、イザ兄!こんなんじゃ変質者に襲われちゃうかもね!」
「兄……危……」
「九瑠璃、舞流!?」

衝撃が走った背後を振り返ると、妹達が俺の腰にまとわりついていた。

「イザ兄、今日お誕生日でしょ?お祝いしにきたよ!本当は媚薬入りのケーキを匿名で贈ろうと思ったんだけどね、それはまたの機会にしておいてあげる!」
「そんなケーキ一生いらないし、貰ったとしても捨てるけどな」
「……酷……」
「いや、酷いのはお前等だろ」

ギリギリと容赦なく力を入れてくる舞流達の腕を振りほどき、正面に向き直る。そこである物の存在に気がついた。

「お前達も薔薇か」

舞流も九瑠璃も一輪の薔薇を持っていた。こいつ等も波江さんのように誰かに協力を頼まれたのかもしれない。

「これは私からのプレゼント」
「……祝……」
「お前達、誰かに頼まれたんだろ?」疑わしく問い掛けると、舞流はきゃらきゃらと笑った。

「さっすがイザ兄!頼まれなきゃ薔薇なんてイザ兄にあげないって」
「誰に言われたんだよ?」
「……秘……」
「大丈夫。ちゃんと後から分かるよ。それより、私達の分の薔薇も貰ってよね!一応気持ちはあるから。ね、クル姉?」
「……肯……」

無邪気に差し出された二輪の薔薇を受け取る。この歳になって実の家族に祝って貰うというのは気恥ずかしいものはあるけど、嬉しくない訳がなかった。

「貰っといてあげるよ。ありがとう、舞流、九瑠璃」
「私達の誕生日は倍返しだからね!」
「覚えてたらな。じゃあそろそろ行くから。お前達も変質者には気を付け……、いや、心配ないか」

自分の妹の強さはよく知っている。「私達だってか弱い乙女なんだよ!?」という舞流の批判の言葉を聞き流しながら、俺は駅へと再び歩を進めた。六本の薔薇を持ち、周りから好奇の視線を浴びながら。



池袋に向かう電車に乗っている途中、携帯のバイブが鳴った。ディスプレイを確認すると、メールを受信したようだ。受信ボックスを開いて、少し驚いた。

「幽くん?珍しい……」

メールは幽くんからだった。シズちゃんと付き合い始めて、一応シズちゃんの弟だし交友関係を持って損はないと思って何となくアドレスを交換したものの、メールのやり取りは数える程度しかしたことがない。

メールを開いてみると、タイトルに「おめでとうございます」、本文は誕生日を祝う言葉がシンプルに綴られていた。
俺は幽くんに誕生日を教えた覚えはないから、恐らくシズちゃん経由だろう。

(……添付ファイル?)

メールに添付ファイルが添えられていることに気付き、それを開く。

一本の薔薇の画像だった。

「ははっ、また薔薇?」

でもこれでピンときた。皆が俺に薔薇を渡すように裏で手を引いていたのはシズちゃんという可能性が高い。波江さんとシズちゃんが繋がっていたのは意外だけど、サイケや九瑠璃と舞流、幽くんに共通する知り合いなんて絞られてくる。それでもこんなことをする意図はよく分からなかった。誕生日プレゼント、なのだろうか。

「まあ、後で聞けばいいか」

どうせ後でシズちゃんに会う。その時に問い詰めてやろう。その前に、お礼を言った方がいいかな。

幽くんからのメールを保護している辺り、俺は思いの外誕生日を祝って貰って舞い上がっているようだ。







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