(臨也視点)
短い春休みが終わった。ざわざわと騒がしい昇降口も数週間ぶりだ。俺はこの喧騒の中で人間の会話を聞くのが毎朝の楽しみでもある。
その楽しみに割り込んできたのは、
「やあ、臨也。おはよう」
新羅だった。
「おはよう。わざわざ下駄箱で挨拶しなくても、これから毎朝……いや、一日中教室で顔合わせることになるんだけどね」
「不服かい?」
「別に。正直問題なのは新羅じゃなくて……」
「静雄だろう?」
上履きを履きながら、お見通しだと言うように笑う新羅。
俺もローファーを下駄箱にしまって、乾いた笑いを返した。
俺は犬猿の仲であるシズちゃんと同じクラスになってしまったのだ。多分、落ち着いてクラスメートの人間観察も出来やしないだろう。
「はは、まぁね。これから毎時間、毎分、毎秒が命の危機だと思うとねー。流石の俺でも参っちゃうよ」
「臨也も静雄にちょっかい出さなきゃいいのに」
自然な流れで二人で並んで教室へと向かう。いつもなら下駄箱で会っても別々にそれぞれの教室に行っていたから、何だか変な感じだ。
「新羅、それは誤解だよ。喧嘩吹っ掛けてくるのはいつもシズちゃんからだし。俺が顔合わせないようにしても、何故か見つかっちゃうんだよねえ」
ガラ、と教室のドアを開けると、いくつもの視線が一斉に俺に向けられた。
一瞬首を傾げたが、成る程、その訳が分かった。
ぐるりと教室を見渡すと、金髪が目に入った。シズちゃんは俺よりも先に登校していたらしく、もう席に着いている。
そこに俺が登場したものだから、皆恐れているのだ。俺とシズちゃんの殺し合いを。
「おはよう、ドタチン」
とりあえず、ドタチンに挨拶をしてみる。ドタチンは周りに流されたり、俺達にボーダーラインを引いたりはしない。貴重な人間だ。
「ああ、おはよう。今日から同じクラスか。よろしくな」
「うん、よろしく」
「京平、また同じクラスだなんて嬉しいよ。いやあ、何だか楽しくなりそうだね」
「そうだといいんだがな」
新羅も会話に加わり、ドタチンと新羅が談笑を始めたので、俺はシズちゃんの様子を伺った。
「……ノミ蟲」
すると、意外にもシズちゃんの方から声を掛けられた。
「何?シズちゃん?」
シズちゃんは、ガタン、と椅子から立ち上がり、俺の方に向き直った。
「俺は、手前が気に食わねえ。今すぐにでも殺してやりてぇ。けどな、学校では休戦だ」
「……え?何、どうしたの?頭でも打った?シズちゃんの口からそんな言葉が出てくるなんて夢にも思わなかったよ」
「うるせぇ、黙れ。俺はな、ただ静かに普通に学校生活を過ごしてえんだよ」
そう言ったシズちゃんの顔があまりにも真剣で、握った拳が震えていて、俺は思わず……
「分かった」
素直に頷いてしまった。
周りから安堵の溜め息がいくつも漏れたのを聞いた。再びざわざわと賑やかさを見せた教室の一角で、俺とシズちゃんはその場に立ったまま何故か目を合わせることも出来なかった。
「じゃあ、とりあえず休戦の握手でも」
横からひょこ、と出てきた新羅に手を掴まれ、シズちゃんの手に重ねられる。
「おい、新羅!」
「……っ!手前、何しやがる!」
「まあまあ。仲良くしていこうよ」
「折角同じクラスになったんだしな」
「ドタチンまで……」
シズちゃんは苦虫を潰したような顔をしていた。きっと俺も同じような表情をしているだろう。
しかし、シズちゃんは、ぎゅ、と手を握ってきた。
「え、」
「……休戦だ」
その大きな手が暖かくて、暖か過ぎて、俺は体温が上がっていくのを感じた。
20100406
もう来神組やばくないですか?(あとがきになってないよ)
とりあえず臨也とシズちゃんが仲良くしてくれそうです。