テレビも点けないで、雑誌も開かないで、携帯の電源も切って、ただゆっくりと時間が過ぎていくのを感じる。たまにはこういう休日もいいかもしれない。
陽の光が差して、室内にも春の陽気が流れ込んでいるようだ。
俺はふわふわと微睡みの中にいた。現実から夢に飛び立つ瞬間は言葉に言い表せないくらい心地いい。

「シズちゃん、寝るならベッド行きなよ」

臨也の声が聞こえる。ベッドに行け、と言うわりにはその手は優しく俺の髪を撫でていて、まるでここで寝ていいよ、と言われているようだ。

「めんどくせぇからここで寝る」
「ここで寝られると俺動けないんだけど。シズちゃん重いから痺れちゃうしさあ」
「手前が最初に膝枕してやるって言ってきたんじゃねぇか」

数十分前、臨也が突然「シズちゃん、膝枕してあげるよ」と言ってきたから、俺は素直にそれに従っただけだ。何で膝枕なのかは知らないが、多分臨也の気まぐれだろう。
いざ臨也の膝に頭を乗せてみると、男とは思えない程柔らかな太ももに驚いた。そのあまりの心地好さと春が誘い出した眠気も手伝って、俺は微睡んでいた、というわけだ。

「……でもシズちゃんが寝たら暇になっちゃうじゃん、俺が」
「じゃあ俺の目が冴えるようなことしてみろよ」
「何それ?何でそうなるの?」
「出来ねえなら大人しく枕になっとけ。いつもヤり終わった後俺が腕枕してやってんだからよ」
「……っ、シ、シズちゃんの筋肉と俺の筋肉は違うの!シズちゃんは腕枕してて腕痺れたことなんて一度もないだろう!?っていうか普通にヤり終わった後とか言わないでよ!」

臨也は耳まで真っ赤にしてきゃんきゃんと子犬のように騒ぎ始めた。多分俺の「ヤり終わった後」という言葉を引き金に、情事の時を思い出して一人で恥ずかしくなったんだろう。

「何赤くなってんだよ?」
「うるさい、赤くなんかなってないよ。元からこういう顔なの!」
「嘘つけ。林檎みてぇ」
「シズちゃんの頭はいつでもプリンみたいじゃないか。そんな人に林檎とか言われたくないね。っていうか眠気はなくなったの?じゃあここからどいてくれないかなぁ?そろそろ夕飯の準備したいんだけど」

本当に退いて欲しいならナイフでも何でも突き刺してくればいいものの、そんな素振りは一切見せない。髪を撫でる手こそ止まっているものの、今度はくるくると人の髪を弄び始めた。
素直じゃねえなぁ、と思いつつ、俺はわざとらしく欠伸を漏らす。臨也とのやり取りで眠気は冴えていたが、俺もここから動くつもりはない。

「もうちょい、このままで居てえ……」

すり、と臨也の腹部に額を擦り付ける。石鹸の匂いが鼻の奥で弾けた。ああ、臨也の匂いだ。そう思ったら妙に安心して、再び眠気が襲ってきた。

「シズちゃん、ほんとに寝るの?」

臨也の声も子守唄のように聞こえる。このまま春の微睡みに身を委ねて寝てしまおうか。重くなり始めた瞼を無理矢理開けて、臨也の顔を見上げる。

「……シズちゃん」

林檎のようだ、と思った。その赤い頬も、たっぷりと蜜を含んだ声音も。
今度は何に恥ずかしがっているんだ、とぼんやりと考える。
臨也はきょろきょろと視線をさ迷わせてから、少しだけ身を屈めた。まるで膝枕で寝ている俺にキスをするかのように。
しかし臨也の唇は何故か俺の耳に向けられていた。微かに臨也の吐息を感じる。す、と息を吸う音、そして、


「…………静雄」


と、耳元で囁かれた。

その瞬間、ダイレクトに臨也の声が鼓膜に響き、俺は耳を押さえて飛び起きた。

「……っ…?…な…っ…!?」
「あ、起きた?」
「な、何だよ!?」

臨也のした意味が分からず俺は瞬きを繰り返して驚くだけ。その様子が間抜けだったのか、臨也は楽しげに笑った。

「さっきシズちゃんが、目が冴えるようなことしてみろよ、って言ってたから。俺なりに考えてみたんだよ。目を覚ますには驚かしてやればいいんじゃないかって。どう?吃驚したかい?」
「吃驚、っつか……心臓に悪ィんだよ!」
「あははっ、でも目 覚めたみたいだね?」

確かに、眠気は吹っ飛んだ。耳元で囁かれるだけでも心臓は痛い程脈打つのに、更に呼び捨てで呼ばれるなんて予想外のことで頭がショートしかけた。
下の名前なんて色んな奴らに呼ばれているのに、臨也が口にするだけで特別なものに変わった気がする。

「っつか驚かせるなら他にも何かあるだろ」
「理由ならちゃんとあるよ?」
「あ?」
「あれ、見てよ」

と、臨也が指差したのは壁にかかっているカレンダー。

「カレンダーがどうかしたのか?」

臨也が何を意図しているのか俺にはさっぱり分からない。
首を傾げる俺に、臨也は更にヒントを加えた。

「さて、問題です。今日は何日でしょう?」
「あ?今日は4月……確か、20日、か?」
「そう、4月20日。……まだ分からない?」

しょうがないな、と言いながら、臨也は人差し指をピンと立ててほとんど答えに近いヒントを述べた。

「15は苺、193は一休さん、あと、そうだな893はヤクザ。あっ、俺の名前は138だよ」

次々と飛び出す数字と言葉。頭の中でそれらを思い浮かべて、ある法則に気が付いた。

「語呂合わせか……?」
「当たり。じゃあ4月20日を語呂合わせすると?」
「よん……、し、に、ぜろ、……?」
「シズちゃんってほんっと脳味噌まで筋肉で出来てるよねえ」
「あぁ゛?」
「4はシ、2はズ、0はオ」

歌うように紡がれた文字を組み合わせ、やっと頭の中で一つの単語が思い浮かんだ。

「静雄……、になるな」

俺が漸く正解に辿り着くと、臨也は満足気に頷いた。

「そうそう。だから名前で呼んでみたんだよ。なかなか新鮮でしょ?」
「……ったく、相変わらずひねくれた性格しやがって」
「シズちゃ……、静雄が真っ直ぐ過ぎるんだよ」
「わざとらしく呼び直すな」
「いいじゃん。静雄、静雄、静雄ー」
「連呼すんじゃねえ!」


いつもと呼び方が違うだけで、いつもと違う時間が流れる。
テレビの音声もない。雑誌のページが擦れる音もない。携帯の着信が鳴り響くこともない。
俺と臨也だけの声が響く中、こういう日も悪くねぇな、と思った。























20110420
しずおの日!


20110421
修正



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