(三次元静雄×二次元から来た臨也)







宙を舞う自動販売機。風を切る道路標識。そして空気を震わせながら俺の名を叫ぶ池袋の喧嘩人形。
それが、俺にとっての日常だった。


「いーざーやぁあああああ!!!待ちやがれ!!!」
「ねえ、そう言われて俺が待つと思う?止まるわけがないだろう?それを分かってて敢えて言ってるの?ああ、シズちゃんって単細胞だから、待てか止まれか消えろか死ねしか言えないのかな?」
「あー、うぜぇうぜぇ!ごちゃごちゃと手前はうるせぇんだよ!」

ひゅ、と顔の横を標識が飛んで行く。

「……っと、危ない危なーい」

あと数センチずれていたら直撃だっただろう。直撃は免れたが、変な避け方をしたようで足首に違和感を感じた。
ズキ、と衝撃を受けたそこに鈍痛が走る。

「何で避けるんだよ、大人しく当たっておけ。ちょこまかとうざってえ!」
「はいはい。今日は大人しくシズちゃんの前から消えるよ。シズちゃんと遊ぶ為に池袋に来たんじゃないしね」
「どうせまた変な企みしてやがんだろ?その前に俺が手前を殺してやるよ」
「……しつこいなあ」

やっぱり足首を捻ったようだ。酷い痛みではないけれど、足を動かす度に思わず眉を寄せてしまう。正直これ以上逃げるのは辛い。
けど、このままシズちゃんに殺られるつもりも勿論ない。
適当に撒いてどこかに隠れるか。

シズちゃんに背を向けて駆け出せば、背後から新しい道路標識を引っこ抜いたシズちゃんが追い掛けてくる。
いつもの追い掛けっこ。俺がシズちゃんを撒いて、シズちゃんが悔しげに俺の名前を叫ぶ。今日もそうなる筈だった。
いつもと違うのは俺の足が不調になってしまったことと、――……そして地面にぽっかりと穴が開いていたことに気が付かなかったこと。

「え……?」

自分でも驚くほど情けない声が飛び出す。逃げることに夢中で足元に意識が向いていなかった。シズちゃんの目を眩まそうと角を曲がった時、予期せぬ非日常が俺を襲った。

自分が走ろうとしている地面に穴が開いているだろうなんて、もっと詳しく言えばマンホールの蓋が開いているなんて、予想出来る筈がない。

(あ、落ち、る……)

完全に油断していた俺は何の抵抗も出来ないまま重力に従ってマンホールの下に落ちていった。

落ちていく途中、「臨也、どこ行った!」と地上から俺を探すシズちゃんの声が聞こえた気がした。





マンホールから落ちてどのくらい経っただろう。落ちた時は激しい衝撃を覚悟していたが、今は落ちているというより宙に浮かんでいるという喩えの方がしっくりくる。マンホールに落ちたというのに、下を見ても下水なんか流れてなくてただただ暗闇が続いているだけ。
落下を続けながら、この夢を見ているような状況はあれに似てるなあ、と思った。ほら、時計を持った兎を追い掛けて穴に落っこちて不思議の国にたどり着くあの有名な童話にさ。
まあ、俺の場合追い掛けられて落ちたんだけどね。

今の俺はそんな暢気なことを考えられるくらいの余裕はあった。ここで慌てても落ちてしまったものは仕方ない。我ながら素晴らしい順応性。

暫くして下から光が見えてきた。その光に吸い込まれるように落下する。どんどん強くなる光に目の前が真っ白になり、思わず目を閉じた。





足音、笑い声、車の走る音、居酒屋の呼び掛け。聞き覚えのある街の音で俺は瞼を開いた。

「ここは……」

街のスクリーンに映る音楽の宣伝映像。映画館に貼られたアニメ映画の大きなポスターと、ゲームセンターやファーストフード店。見覚えがありすぎる。

ここは童話に出てくるワンダーランドなんかじゃない。
俺のよく知る池袋だ。

でもおかしい。シズちゃんと追い掛けっこをしていたのはこの60階通りじゃなかった筈。

「大丈夫ですかぁ?」

店の呼び掛けをしているメイド服を着た女に声を掛けられ、自分が道端に座り込んでいたことに気が付いた。周りの人間も好奇の視線を向けてくる。

「すみません、大丈夫ですから……、っ」

立ち上がろうとした瞬間、足首に電流が走ったような痛みが走った。

「……痛…っ」

身体のバランスを失い前のめりになった俺は、再び地面とこんにちはをするところだった。しかしそうなる前に俺の身体は何者かに支えられていた。勿論、メイド服を着た女に助けられたんじゃない。
俺の腕を掴んでいるのは、

「アンタ、大丈夫か?」

金髪で長身の男だった。

「シズちゃん……?」

意思に関係なく大嫌いな彼の名を紡ぐ俺の唇。そのあだ名で呼ぶんじゃねえ、と何度も言われた台詞が頭の中に浮かぶ。
しかし、シズちゃんは叫ぶことも怒り狂うこともせずに首を傾げて不思議そうに俺を見つめるだけだった。

「……どっかで会ったこと、あったか?」
「は?何、言って……」

何かがおかしい、と俺の心臓が嫌な脈を打ち始める。
目の前の男を改めて視界に入れて、違和感を感じた。
確かにシズちゃんだ。でも俺の知ってるシズちゃんじゃない。
黒のライトダウンジャケットを身に纏い、ジーンズを履いているシズちゃんなんて見たことがない。あの男はいつだってどこだってバーテン服を着ていた。特徴の一つのサングラスも見当たらず、代わりに黒渕の眼鏡が掛かっている。
シズちゃんの視力が悪いなんて聞いたことがないから、恐らく伊達だろう。
いつから池袋の喧嘩人形はこんなお洒落になったんだ。いや、こいつは俺の知ってる平和島静雄じゃない。
何より、俺の知ってるシズちゃんが俺を助ける訳ないじゃないか。

「あ、居た!静雄!どうかしたのか?」

静雄、と呼ばれ、男は声のする方に振り向いた。これにより、この男がシズちゃんの他人の空似だという可能性は消えた。
手を振りながら駆けて来たのは一人の見知らぬ女性。

「セルティか。あー、ちょっとな……」
「待ち合わせ場所に居ないから心配したぞ。新羅も待ってるから早く……、って、この人は?静雄の知り合いか?」
「いや、さっき転びそうだったとこを助けたんだけどよ、何か様子がおかしくてな……」

二人の会話は俺の耳をすり抜けていく。
それよりも、このシズちゃん、今何て?
セルティって言わなかった?
セルティって、首無しライダーの名前だろう?
でも俺とシズちゃんを交互に見ているセルティと呼ばれた女性には、首があった。首があることがさも当然のように、……そこに首があった。
彼女は見慣れたライダースーツではなく、白のセーターに茶色のコート、上品なスカートと足元はブーツという普通の女性の恰好をしていた。

(ここは、どこだ……?)

俺を見てもキレない平和島静雄と、首のある首無しライダー。
夢かもしれない。
そう思ったが、思い出したようにズキズキと痛む足首が、これが夢でないことを物語っている。

この街は確かに池袋だ。
でもここは、俺の知っている池袋ではなかった。
























20110221
すみません、シリーズになります。三次元静雄と三次元セルティはただのリア充です。タイトルや、二次元から三次元に来るネタはお察しの通り某映画から!

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