意識し始めたのは3ヶ月前。計画を立てたのは1ヶ月前。実行し始めたのは3週間前。
今の俺はシズちゃんの誕生日のことで頭がいっぱい。俺の脳内をここまで支配するなんてシズちゃんって本当にすごいよねえ。そしてシズちゃんにここまで尽くす俺もすごいと思う。
今までろくにしなかった料理。でもシズちゃんが、「手作りプリンの味ってどんなんだろうな」ってコンビニのプリンを食べながら独り言を言ってたから、俺が作ってあげようってその時思ったんだ。
誕生日に手作りプリンをあげたら、シズちゃん喜んでくれるかな?くれるよね?シズちゃんの笑った顔が見たくて、この3週間 毎日のようにプリンを作り続けた。最初の内は卵でさえ上手く割れなかったし、何とか形になっても見栄えが悪かったり、散々だった。
でも今は片手で卵だって割れるよ。シズちゃんの為にうんと甘くて、コンビニのものより大きなプリンを作ったからね。

「よし、完璧!」

綺麗に箱詰めをしたそれを冷蔵庫に入れ、思わず笑みが零れる。
今回の計画は全てシズちゃんには内緒で行なってきた。明日が楽しみで仕方ない。早くシズちゃんの喜ぶ顔が見たい。
上機嫌でキッチンの後片付けをしていると、携帯の着信が鳴った。シズちゃんから電話がかかってきた時に設定してある着信だ。着けていたエプロンで手を拭き、急いで携帯を手に取る。

「もしもし、シズちゃん?」
『ああ、俺だ』
「うん?なに?」

多分明日のことだろうな、と思いながらもわざと聞く。明日シズちゃんの誕生日だっていうことには気付いていないふり。

『明日ってよ、手前仕事か……?』
「明日?シズちゃんからお誘いだなんて珍しいじゃない。でもごめん、明日仕事なんだー!夜まで仕事だからさぁ、残念だけどまたにしてくれる?」
『……そうか、じゃあ、またな……』

電話の向こうでシズちゃんが肩を落とす姿が頭に浮かんだ。
向こうの通話が切れ、俺も携帯の電源ボタンを押す。
シズちゃんからの誘いを断るなんて胸が痛いけど、これも計画の内だ。
それでも寂しげな彼の声が鼓膜にこびりついて離れることはなかった。





次の日。
いよいよシズちゃんの誕生日、当日。
俺は昨日用意しておいたプリンを崩さないように慎重に電車に乗り込み、池袋に向かった。
今日もうんと冷えて、吐く息は白い。そういえば東京でも雪が降るかもしれないって天気予報で言っていた気がする。
でもシズちゃんに会えば寒さなんて気にならない。

「さて、と……」

今頃シズちゃんは一人寂しくケーキでもつついているかもなあ。早く行ってあげなきゃ。
池袋駅の改札を抜けて、俺は足早にシズちゃんの家に向かった。
……いや、向かおうとした。
しかし駅の地下から外に出て直ぐの信号を渡った後、偶然ある人物の後ろ姿を見掛けて、一瞬足が止まった。そして無意識にそいつらの後ろを着いて行く俺。
金髪でバーテン服を着た長身のその人物は、……シズちゃんだ。彼の隣を歩く金髪の女と、ドレッドヘアの男にも見覚えがあった。

「今日は立て込んだ仕事もねえし、静雄の誕生日祝い行くべ」
「トムさん!いいっすよ、そんな……!」
「遠慮すんなって。甘いもん食わせてやっから。何でもプリンが濃厚で滑らかで美味いって評判の店でよ」
「先輩の生誕、大変喜ばしいです。また、甘味は大勢で食すると尚美味だと思います」
「……ヴァローナ……、手前は甘味が目当てだろ」
「なっ……!否定します!」
「まあまあ、ちゃんとヴァローナも連れていくから心配なさんな。今日は俺の奢りだ」
「……トムさん、ありがとうございます」
「おうよ」
「先輩、改めて生誕を祝福します」
「ヴァローナも、ありがとな」

三人の会話は自然と耳に入ってきた。声が大きいんだよ、馬鹿。はしゃいじゃってさ。
何だ、そっか、シズちゃんは仕事の上司や後輩にちゃんと祝って貰うんだ。プリン、食べに行くって言ってたな。俺が作ったプリンなんかより、美味しいんだろうな。
このまま新宿に帰ろうか。そう思ったけど、

(俺、シズちゃんにおめでとうって言ってないじゃん……)

じわりと滲んだ視界を無理矢理無視して、俺は予定通りシズちゃんの家に向かった。
直ぐ帰ってくるよね?家の前で待っててもいいよね?
だって、……俺もおめでとうって言いたい。


シズちゃんの家に着き、インターホンを鳴らしたが勿論ドアが開かれることはなかった。メールを入れようと思ったけど、止めた。
シズちゃんが幸せそうに笑っていたから。きっとあの人達と過ごす誕生日はシズちゃんにとって特別なものなんだ。
俺にその時間を壊す権利はない。
彼らの間に俺が入る隙間なんてないんだ。
ドアの前でずるずると座り込み、体育座りをしてシズちゃんの帰りを待つ。

「早く帰って来てよ、シズちゃん……」

膝に顔を埋めて呟いた言葉は身を裂くように吹く風にかき消されてしまった。


何時間待っただろうか。遠くで足音が聞こえた。続いて、ハッと息を呑む音。そして、愛しい声。

「いざ、や……?何してんだ、こんなところで!」

その声を聞いて反射的に顔を上げると、シズちゃんが居た。

「シズちゃん……?シズちゃん、だ」

座ったままだったせいで足が痺れていたけど、無理矢理腰を上げてシズちゃんに抱き着いた。

「おまっ、冷た……っ、ずっとここで待ってたのか!?昨日、仕事だって……!あー、いい、とりあえず、中入れ」

シズちゃんに促され家に上がらせて貰った。

「で?仕事はどうしたんだよ?」
「……ほんとは仕事なんてなかった」
「あ?」

シズちゃんは意味が分からないと言うように首を傾げている。

「驚かせたかったんだよ!今日、シズちゃんの誕生日だから……!」
「……覚えてたのか?」
「忘れる訳ないじゃない。昨日の電話は演技。全部全部、シズちゃんを驚かす為の、ね」
「そうだったのか……」

誤解が解けたところでプレゼントを渡したいけど、躊躇ってしまう。シズちゃん、さっきまで美味しいプリン食べてたんだろうし……。
でも、渡したい。食べてくれなくてもいいから、渡したい。渡して、おめでとうって言いたい。
何だか緊張してしまって、気付けば正座をしていた。端から見たらおかしいだろうな。
改めておめでとうって言うのは気恥ずかしいものがあった。
でも、言わなきゃ。
すう、と大きく深呼吸をした後、プリンの入った箱を勢いよくシズちゃんに差し出した。


「シズちゃん、お誕生日、おめでと……!」


シズちゃんは一瞬目を丸くし、ぱちくりと瞬きを繰り返している。そして、

「ありがとう、臨也」

と、はにかみながら言ってくれた。





「ん、美味い……!」
「良かった」

シズちゃんは直ぐに俺の作ったプリンを食べてくれた。それはもう嬉しそうに食べてくれるものだから、作った甲斐があったってものだよ。
「そういや、渡したいもんがあんだ」
「うん?」

シズちゃんがスプーンを口にくわえながら立ち上がり、何やら引き出しをガタガタとやっている。目当てのものを見つけたのか、シズちゃんが戻ってきた。

「手、開いてくれるか?」
「……?」

大人しく手の平を差し出すと、その上に何かが落とされた。

「えっ……」

俺の手の平で銀色に輝くそれ。

「俺の家の鍵。鍵あればよ、今日みてえに俺が居ない時でも中に入って待ってられるだろ?」
「……うそ、…っ」

信じられない。夢みたいだ。
でも手から伝わる金属の冷たさが、これが現実だと語ってくれた。

「あ、はは……っ、」
「何がおかしいんだよ?そんなに嬉しいか?」
「うん、嬉しい……すごく嬉しい」

シズちゃんを喜ばす為の計画だったのに、俺の方がプレゼント貰っちゃったじゃないか。
シズちゃんが居なかったら、この喜びも知らなかったんだろうな。

「シズちゃん」
「何だ?」
「ありがとうね……生まれてきてくれて、ありがとう」


























20110129
一日遅れすみません!!!!ハッピーバースデー!!!!!しずお!!!!




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