(後輩デリ雄×先輩日々也/学パロ)





新しい上履きは既に踵が潰れている。パリッとした新しい制服は自分に似合っていない気がした。
これから三年間の学校生活を有意義に過ごす為に、うんたらかんたら。何でどこの学校も校長の話ってのは長くて小難しいんだろうな。
我慢することなく大口を開けて欠伸を漏らすと、傍に居た教師がわざとらしく咳払いをした。
あー、うぜえうぜえ。入学式なんかやってらんねえよ。元々家から近いってだけで選んだ学校だし、何かつまんなそうだし、先公はうるさそうだし。明日からはきっちりサボってやる。
校長の話に飽きた俺は、前の席に座っている男子生徒が鼻を啜る回数を数えていた。入学式の暇潰しで出来ることと言えばそれくらいしかない。その回数が20回に達したところでやっと校長の話が終わり、俺は閉会の言葉が告げられるのを待った……が、進行担当の教師は見事に期待を裏切ってくれた。

『続きまして、生徒会長からの言葉』

俺の気分は急降下。何でもいいから早く終わってくれ。

『生徒会長、折原日々也さん』
「はい」

一瞬、眠気も苛立ちも吹き飛んだ。
体育館に響いた返事は鈴の音を鳴らしたように透き通り、綺麗だな、と思った。
しかし意識が戻ったのはその一瞬だけ。再び襲ってきた眠気に抗う術が見付からず、顔を上げているのさえ億劫になった俺は、生徒会長の言葉を子守唄代わりにうつらうつらと船を漕いだ。





「おい、起きろ。退場だぞ」
「んあ?」

肩を叩かれる感触で目が覚めた。
いつの間にか本気で寝ていたらしい。声のした方に目を遣ると、学ラン姿でオールバックの男子生徒と目が合った。
さっきまで隣に居た生徒とは違う。周りを見ると、俺の両隣は既に空席だった。寝ている俺を避けて退場したんだろう。起こしてくれたこいつに感謝しなくては。

「早く立てよ」
「あ、ああ、悪ィ」

そいつに促され、席を立つ。大袈裟に敷かれた赤いカーペットの上を歩き、体育館を後にした。

「お前、爆睡してたな。先生に目ェ付けられたんじゃねえか?」
「まじか。めんどくせえ。っつか手前こそそんな恰好で目付けられてんだろ」

この学校は基本的には私服でもいいらしいが、式などでは指定されているブレザーの制服を着る生徒がほとんどだ。

「これが俺のスタイルだからなあ」
「ははっ、手前面白えな。お前みてえなの、嫌いじゃねえ」
「そうか?まあ、これからよろしく頼む。一応クラスメートだろ?」
「ああ、よろしくな。俺はデリックってんだ。平和島デリック。でもデリ雄とかあだ名で呼ばれる方が多いからよ、デリ雄って呼んでくれ。手前は?」
「門田だ。門田京平」

門田とは気が合いそうだ。談笑しながら教室に向かっていると、こつん、と上履きに何かが当たった。

「あ?」
「デリ雄?どうした?」
「何か落ちてた」
「……生徒手帳か?」

足に当たったそれを拾い上げながら、門田の問い掛けに頷く。

「ああ。学年は違うみてえだけど……」

俺も赤色の生徒手帳を貰った記憶がある。確かこの学校では、赤色が一年、二年が青色、三年になると緑色と生徒手帳の色が違っていた気がする。拾ったそれは青色。つまり、二年生のものだ。

「クラスとか名前とか書いてないのか?」
「そうか、あー…、おりはら、折原日々也、って書いてある」

生徒手帳には几帳面な字で名前やクラス、住所などが書いてあった。
その名前を読み上げて、どこかで聞いたことがある気がした。さっき聞いたばかりのような……。

「折原って、生徒会長の名前だよな?」

門田の言葉で思い出した。そうだ、生徒会長の名前だ。

「門田、先に教室行っててくれ。ちょっとこれ返してくっから」
「あ、おい、先生に預ければ…………って行っちまったよ」

気付いたら階段を上がっていた。校内の構造もまだ把握していないのに、二年生の教室を探し回った。
何でわざわざ直接生徒手帳を届けに行っているのか。自分でもよく分からない。ただ、生徒会長――折原日々也に興味があった。入学式では居眠りしていてその姿は見ていない。でも綺麗なその声は印象に残っている。
後は単純に生徒会長に貸しでも作っておけばこれからの学校生活を有意義に過ごせると思ったからだ。生徒会長のコネなんてそうそう縁がある訳じゃねえしな。
校内を歩き回り、やっと目的の教室に着いた。

「すんません、折原日々也先輩、居ますか!」

教室のドアから声を上げると、一瞬教室内が静まり返り、一斉に視線が俺に集まる。
そして直ぐに一人の生徒がこちらに向かってきた。

「……何の用だ?お前、一年だろう?」

体育館で聞いた時と同じ、凛とした声。綺麗な黒髪。何故か惹き付けられる瞳。形の良い、ピンク色の唇。透けるような白い肌。
その姿を視界に捕らえた瞬間、俺は目を疑った。
日々也先輩が大量の花を背負っていたからだ。
いや、正しくは、日々也先輩の背景に花が咲いているように見えた。シャボン玉と表現してもいいかもしれない。
とにかく、俺はこう思ったのだ。

「……マイスウィートエンジェル」


天使が舞い降りた、と。



























20110115
ブログで呟いていた妄想ネタです。我慢出来ずに衝動で書いてしまった…!微妙なとこで終わってますが、続くかは未定です。でも書きたい!ツパチンとデリ雄の絡みとか、九十九屋先生とか、三年生のつがるとサイケたんとか!



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