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夜空に浮かぶ星のように 手に届かないのだと思っていた









君を知る夏









テニス部の財前くんは、とにかく近寄りがたかった。


女子生徒の間じゃアイドルみたいな存在の男子テニス部は、顔だけじゃなくて人柄も良く学校内にファンが大勢いる。


中でも部長さんの白石先輩や忍足先輩は別格のような扱いでいつも女の子に囲まれてたりするんだけど、同じように人気のある財前くんは女の子を近づけさせないオーラをいつもまとっていた。多分ミーハーなノリが嫌いなんだと思うんだけど。




「普通に話せば全然良い奴なんだよ。」




テニス部でマネージャーをやってる友達の歩深ちゃんは言う。


「別に怖い人とは思ってないよ。話しかけずらいなあとは思うけどね」


苦笑しながら答えれば、「確かにねー」と 歩深ちゃんも苦笑しながら返していた。


財前くんと話したことはほとんどない。


図書室に行くと、たまに委員で働いている財前くんを見かけるだけだった。


財前くんが図書委員というのがなんだか意外で、「財前くんは本が好きなの?」なんて歩深ちゃんに聞いたことからこの話題になったのだ。


「ねえ、今日行こうって言ってたお祭、浴衣着てく?」


「あ、着たいね!浴衣なんて着れる機会お祭りくらいしかないもんね」


「じゃー決定!あきらの浴衣姿楽しみだなー」


「歩深ちゃんの浴衣姿も楽しみにしてるよ。」


「あんま期待しないどいて……「歩深ー!」


「歩深ちゃん呼ばれてる」


「うん?」


歩深ちゃんを尋ねて教室の中へと入ってきたのはテニス部の人だった。


「テニス部の2年で今日祭行こうってなってんけど歩深も行くやろ?」


「えー?駄目だよもうあきらと行く約束してるもん。」


「まじで!?ちょー歩深おらんかったら男だけでムサ苦しいだけやないかー」


「いーじゃん男だけでも」


私は慌てて会話に割って入る。


「歩深ちゃんそっち行っていいよ」


「何言ってんのあきらとの約束が先!」


「寧ろ詩芽さんも混ざってもうたら駄目なん?」


「気まずいでしょーがあきらが!」


「デスヨネー。じゃあまー向こうで会ったらよろしくっちゅーことで」


「はいはい」


何だか凄い申し訳ないことをしてしまった。テニス部凄く仲良いのに。


「ご、ごめんね歩深ちゃん」


「何言ってんのあきらは何も悪くないでしょー」


「でも行きたかったよねみんなと」


「あいつも言ってたけどどうせ向こうで会うと思うよ、会場狭いんだし。」


「で、でも……」


「あたし達はあたし達で楽しも、ね!」


「……うん!」


笑顔で言ってくれた歩深ちゃんに私も笑顔でうなずき返した。



















そして夕方。…………予想は歩深ちゃんの通りとなりまして。


「やっぱ結局会うたなー!歩深ー!」


「ほんとに全員で来てたんだね」


「どうもー詩芽さん!浴衣可愛ええなー」


「あ、ありがとう。」


「あきらにナンパ禁止!」


「褒めとるだけやろ!」


テニス部の和気あいあいとした雰囲気に私もふふっと笑いを零す。


彼らも浴衣や甚平を着ていて、まわりの人の視線を集めていた。


四天宝寺の近所でのお祭りだから学校の人たちもちらほらいて、女の子たちがきゃっきゃと騒いでいる。


(……凄い、ここでも注目の的なんだな)


そんなことを思っていれば、視界の隅によく知る人の姿が入った。


(財前くん)


他の人と同じように制服から甚平姿へと着替えている財前くんは、楽しそうに談笑していた。……笑ってるところ見るの初めてかも。


「えーやんもう一緒にまわってまえば」


「えぇぇ〜……」


「いいよ歩深ちゃん、大丈夫」


「でも……」


「大勢いたら私も楽しいし」


「………あきらがそう言うなら」


にこりと笑いかければ渋々歩深ちゃんが折れた。


だってやっぱりテニス部の人達と一緒にいる歩深ちゃん楽しそうだもんね。


そんなこんなで10人ほどの団体と化した私達は、最初こそみんなで回っていたけど だんだん行動がそれぞれになってしまうのは当然で。


私は歩深ちゃんにくっついて5人ほどで出店を回っていたが 歩深ちゃんが気を使って私に沢山話しかけてくれるので気まずい思いをすることもなかった。男の子とお祭り回るなんてちょっと新鮮かも、なんてドキドキした気持ちでいたくらいだ。


しかし、夜も7時を過ぎれば人混みもピークへ……




「あー……やっちゃった…。」




しょうもないことを考えながらくっついて回っていた私は案の定みんなとはぐれてしまった。


「(でもちょっと疲れたし、この間に少し休んでから合流しようかな…)」


男の子のノリってやっぱり元気だ。


終始賑やかに回っていたのでほんの少し疲労感があった。


ふう、とひとつ溜息をついたところで歩深ちゃんから電話がかかってくる。


「あ、ごめん。はぐれちゃったみたい。」


『もう突然いなくなるからびっくりしたよー!今どこ?あたしたち今神社の境内のところで―』


「私まだ敷地の外だ。そしたらお手洗いも行きたいしちょっとだけ一休みしてから合流するよ。」


『いやいやあたしそっち行くよ。一人じゃ危ないしもう暗いんだから。』


「それこそ歩深ちゃんが一人でこっち来たら危ないでしょ。」


『んーそしたら誰か一緒に連れてくから!とりあえずそこ居て!』


「心配症だなー。 分かった、お手洗いだけ行ってくるから入り口で集合しよ。」


『変な人についてっちゃダメだからねー!』


「ついてかないって」


苦笑しながら電話を切れば、近くでお手洗いを済ませて神社へと向かう。


すると、入り口には意外な人物が立っていた。




「…………財前くん?」




「……おう」


「財前くんが来てくれたの?歩深ちゃんが来るって言ってたんだけど…。」


「花緒で脚痛めたみたいやったから置いて来た。」


「え?ほんとに?大丈夫かな…あ、着信入ってた」


「少し休めば大丈夫言うてたわ。ほな行こか」


びっくりした。まさか財前くんが来るなんて。


財前くんに促されて歩き始めるものの、ここ最近の話題の中心だっただけに何だか芸能人とでも歩いている気分だ。ついつい顔をまじまじと見つめてしまった。


「…………何?」


「あ、ごめん、芸能人と歩いてるみたいだなと思って。」


「何やねんそれ…。」


「ちょうど最近 歩深ちゃんと財前くんのこと話してて。話題の人物が目の前にいるっていうか」


「本人おらんとこで一体なんの話してんねん」


「歩深ちゃん財前くんのこと悪い奴じゃないんだよーって言ってた」


「ってことは何や悪く言うてたんか」


「まさか。そうじゃなくて、財前くんて人を寄せ付けないイメージがあるなって思ってて…そう歩深ちゃんに言ったら。全然そんなことなかったね。」


思わず笑ってしまったら今度は私が財前くんに見つめられていた。


「っと……ごめんやっぱ気に触ったかな?」


「……いや。ちゅーかそもそも何で俺の話なってん」


「私が財前くんのこと図書室でよく見かけてたから。財前くんて本が好きなの?って。」


「普通。」


「あ、そーなんだ。」


いつの間にか二人でたわいもない話に花が咲いていた。


話しかけづらいなんて思っていた分 新鮮だ。まさか自分が財前くんとこんな風に話す日がくるなんて思ってなかったのもあるけど。


「詩芽って変なやつやな。」


「……財前くん、私の名前知ってるの?」


「……え、」


「いやそもそも私のこと知らないと思ってたから……あ、歩深ちゃんから聞いたのか。」


「………まあ。」


「で、私が変なやつ?って、何で?」


「いや、同級生の女子って、俺んこと怖がってるかキャピキャピ騒ぐかであんま会話なる奴おらへんし」


「うーん?まあ私も近寄り難いかなとは思ってたよ?でも今話して、違うのはよく分かったし。」


「別に話しやすくもないやろ。テンション低いん自分でもよう分かっとるし。」


「テンションと話しやすさは関係ないよ。それに財前くんはテンション低いんじゃなくて落ちついてるだけだよね。私はその方が話しやすいよ。」


「………。」


「今日の他のメンバーは元気だよね、ちょっと圧倒されちゃった。」なんて笑いながら返せば、財前くんが突然立ち止まった。


暫く気付かなかった私は、いつの間にか隣に財前くんが居ないことに慌てて後ろを振り向く。


「財前くん?」




彼は数歩後ろでじっと私のことを見つめていた。




「……行かないの?」


「…………嘘。」


「?? えっと……何が?」


「俺、詩芽の名前ずっと知っててん。」


「え、」


「図書室でずっとあんたのこと見とったから。」




………え?




「え、えと……?」


「それから、歩深が足痛めたってのも嘘。俺が行かせてって頼んだ。」


「………何で?」





やけに心臓の音が大きくなっていくのを感じた。


まわりのお祭りの喧騒が、何だか意識から遠ざかっていく。








「ずっと、あんたと話したいと思ってたから」








―――――――――ドン…ッ








すぐ近くで、花火の音が轟いた。














END



( もう少し、ゆっくり歩こうか )