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同窓会ミラクルとか別に信じてなかった。





again





「そういえば私と丸井、唯一3年間クラス一緒だったよね!」




楽しそうにそう言った詩芽は、開始30分にして三杯目のビールを煽ってから店員に四杯目の声をかけていた。はっや…


「へー、中等部?高等部?どっち?」


「中等部ー」


「じゃあそこ仲良かったんだ?」


「うん!」


「嘘つけ、今日が高校卒業ぶりじゃねえか!」


すかさず突っ込んだ俺にどっとみんなが沸いた。「調子良いな詩芽ー」「お前そんな奴だっけー?」などと詩芽だけでなく酒の入った奴らがガヤガヤ盛り上がる。


「嘘ー!?仲良かったでしょ私たち!薄情者!」


「アホ連絡先すら知らねえわ!薄情者はどっちだ!」


「あきら丸井くんが連絡先教えろだって」


「言ってねえ!」


「しょうがないなあ よしよし交換しようねフリフリしてー」


「それ交換しても絶対連絡取らないやつだろ…」


文句を付けながらも大人しくスマホを取り出す。


「つーか俺も連絡先知らない奴案外いるなー」


「みんなで交換しよっか!こうやって集まんなきゃそんな機会なかったもんねー」


俺らのやり取りを見ていた他の奴らもそんなことを言いだした。


そして全員がスマホをフリフリしている光景はなかなかに気持ち悪かった。合コンじゃねーんだから…


「あ、丸井のきた!あはは、アイコン格好つけてるー」


「ただのテニスしてるとこだろ!」


俺のアイコンはいつだか赤也が俺のプレー中を写メったやつだ。


そして詩芽から飛んできた連絡先のアイコンはありがちな旅先かなんかのソロショットだった。詩芽の言い方を借りれば俺とは違って格好つけてないやつ。


他の奴らの連絡先も一斉に飛んできて、誰かが言ったけどこんなことなきゃ連絡先なんてきっと一生知らなかっただろう、酒に押されたハイテンションな合コンノリは暫くスタンプの送り合いで盛り上がった。


社会人になってから3年。


高等部を卒業してからは7年。


今日は立海大附属時代のメンバーでの小さな同窓会だった。


同窓会なんて言っても単に仲いい奴らがそれぞれに声を掛け合って集めただけの飲み会だ。急な収集だったからほとんど地元の奴ばっかりで、男子なんかは別に久しぶりじゃないのが何人か混じってる。それでも10人ちょっと集まった大体の顔は詩芽みたいに高校卒業か成人式ぶりで、それこそお前地元に居たんだな状態だった。


俺は特に大学で内部進学しなかったから余計に浦島太郎だ。一瞬誰だか分からなかった奴もいる。特に女子はさ、やっぱ変わるよな。7年も経てば髪型も、服装も、みんな随分大人びて、化粧の乗った顔がやけに色っぽい。


それでもケラケラと笑った詩芽の屈託のない笑顔は、確かに懐かしいかもな なんて思った。













「は!ちょっと丸井!うちらまたクラス一緒!」


「おー詩芽じゃん。おはよ。よろしく」


クラス替え発表直後でまだ浮き足立つ新しい教室。扉を開けたところで漏れなく浮き足立っていた詩芽に声をかけられたのはよく覚えている。


「てかさ、私丸井以外に3年間クラス一緒な子いないんだけど」


「え、マジ?そんな確立なのクラス替えって?」


驚いて真っ先に座席表を見に行く。ざっとメンバーを確認して、




「……マジだ。」




『…うわあ。』 と いう何とも微妙な顔で、詩芽と顔を合わせたのがきっと俺たちの始まりだった。













「だって何せ別にそこまで仲良かったわけじゃないもんね、2年までさ」


「まあな。あん時のお前『別に嬉しくねえな…』って書いてあっためっちゃ顔に。」


「それ丸井も一緒だから!」


酒が進みに進んだ一次会。人数が多少減った店を移しての2次会は、『仲良かった』らしい詩芽が隣に来て話込む体勢になった。他の奴らもそれぞれにしっぽりモードに入っている。


「だって私、2年までは丸井のこと何か苦手だったもん。」


「は?何で」


「だって派手じゃん。いっつもクラスの中心いるタイプ?ああいうノリのグループ苦手なの昔から。」


「ふーん?」


詩芽ってそんな感じだったっけ?と記憶を一生懸命掘り起こして、そういや確かに所謂『静かめ』の女子たちと一緒にいたかもしれないと思った。俺もそういう女子とは正直絡みが少なかったのは否定しない。


「でも別に普通に話してたよな?」


「柳くんが間にいたからね。」


「柳?何かあったっけ。」


「2年は柳くんも一緒のクラスだったじゃん。私柳くんとは普通に話してたから。丸井が柳くんと一緒にいる時は話しやすかったよ、それで慣れたかなって感じ」


そんなの初耳だ。そういや柳も同じクラスのことあったなー。


俺の中では詩芽がそういうグループにいたことすら忘れかけてたくらいで、『静かめ』系の女子のような話しにくさを感じたことはない。ああいう女子って向こうから壁作ってくる感じあるけど、詩芽はそんなことなかったと思う。


そして迎えた3年目、俺らは2年までと比べて確かに断然よく話すようになった。きっかけとか別になかったけど、やっぱ3年間一緒がお互い唯一、ってのが変な幼馴染感を出したのかもな。まあ1年や2年の時にそれぞれ一緒のクラスだった奴らは他にも沢山いるわけで、グループが一緒だったとかは無い。ホントに話すことが増えたかなって程度で。


「それでよく言うぜ仲良かったとか」


「えー!?仲良かったでしょ!そういうことにしとこう!」


「何だよ適当な奴だな」


「だって、3年になってから沢山話せるようになったのは素直に嬉しかったもん私。本当はもっと仲良くなりたかったと思ってたしーこれからだねこれから!」


「おま……」


なんちゅータラシ発言をしやがるコイツ……


不覚にもちょっとときめいた。もといぞっとした気持ちで俺は詩芽の顔をガン見した。動揺した俺を余所に当の本人は至って変わらぬ…変わらぬ酔っ払いテンションだ。


しっぽり二次会とは言えもちろんみんな延長戦で酒が入ってる。詩芽のテンションは相変わらずっていうか想像以上で、こいつ酒入るとこんなノリになるんだなって少し意外だった。良く言えばノリが良い、悪く言えば軽い。


いや、何ていうかさ、詩芽が「派手なグループが苦手」って言ったの聞いて、男子自体ともあんまり絡んでなかったのも思い出したんだよな。男子が苦手なわけじゃなかったんだろうけど(実際俺とも普通に話してたし)、思春期特有のやけに異性と仲良くしたがる奴らと違って 仲良い女子でつるめてればいい、みたいなタイプだったように思う。何だろ、真面目?それは言いすぎ、冷めてる?とにかく騒ぐタイプじゃなかった。


だけど今日の詩芽は一次会の時からガンガン飛ばしてて、よく喋るしよく盛り上げる。他にも結構驚いた男子いたと思う。


「……何かお前変わったよな。」


俺は正直に思ったままを言った。


「私?顔は全然変わってないと思うけど」


「いや、じゃなくてキャラ?」


「あー、ノリ?うーん、……実はよく言われる」


「だろ?」


変わったことを素直に認めた詩芽にそれはそれで意外だった。自覚あったんだな。


「何だよ高等部卒業してから何かあったわけー?」


面白半分でそう突っつけば、詩芽は更に意外なことを零した。




「大失恋したからかな?」




俺は3秒くらいフリーズした。




「お、吃驚した?」


「……マジ?」


黙った俺を詩芽がさも予想通りというような面白そうな顔で覗き込んできて、そこでやっとリアクションを返す。


「当時彼氏と別れてから凄い人付き合い広げるようになったんだよね。まあ大学入ったらお酒も飲むようになるしさ、みんなそんなもんじゃないの?」


「そんなもんって、いやそんなもんかもしれないけど、大失恋したにしちゃ軽いな」


「あはは、だってもう5年も前のことだもん」


「どんくらい付き合ってたんだよ」


あまりにも軽い調子で話すもんだからどこまで突っ込んでいいのやら戸惑ったけど、やっぱり興味の方が打ち勝っちまうよなこんな話。


だって詩芽と恋バナなんて。するようになるとは当時の俺じゃ絶対考えなかった。


「3年くらい?っていうか私が高等部の頃から付き合ってたよ」


「マジで!まさか立海生!?俺の知ってる奴!?」


「ぜんぜーん。二つ年上だったし」


「!?…ってことはお前が高校生だった時 大学生と付き合ってたってこと?」


「そうだよ。でも私も大学進学したらすれ違うようなっちゃったんだよね、それでフラれちゃった」


「……うわ、マジか。マジかー……へー…お前にもそんな経験値あったんだな」


「何かその言い方失礼じゃない!?」


「はは、」


大失恋にしては軽いトーク、俺も冗談まじりに突っ込んだけど、内心は結構ガチで驚いてた。だって本当、在学中はそんな噂一切聞いたことなかったし。


中等部で3年間クラスが一緒、よく話すようにもなった、けど結局高等部では一度もクラスは被らなくて 高等部の頃の詩芽のことを実は俺はあまり知らなかった。


全く関わりが無くなったわけじゃない。顔合わせればやっぱり普通に話してたし委員会が一緒になったこともあったな。それでもそれこそ恋バナなんてするほど親しくねーし。詩芽にそんな大失恋と言わしめる大学生の彼氏がいたなんて誰が想像出来たって話……正直恋愛興味あんのかなコイツとか思ってた節もある。


「でもさほんと、」


「?」


詩芽が飲んでた酒のグラスをゆらゆら揺らしながら呟く。




「すっごい好きだったんだよねー…」




「…………。」


「…なーんちゃってー」


ふふ、と笑った詩芽。照れ隠しかそのまま残ってた酒を全部煽って、ドリンクメニューで顔を隠す。


……いや、何だソレ……突然そんな照れられても…


「……俺も注文、」


「ん?うん、何にする?」


俺も何だか落ち着かなくなってメニューを読むフリをした。


いや、今のは絶対詩芽が悪い。だって何か。




(急に 女の顔すんの反則だろ…)




俺は今飲んでるやつより強い酒を注文した。


何ていうかさ。ほんと意外だった。


詩芽にそんな彼氏がいたのも、キャラが変わるような大学生活送ってたのも、今俺らに会ってこんな話をするようになったのも……好きだった奴を思ってそんな顔するのも。


中等部で仲良かった?マジで嘘つけっつーの。俺お前のそんな話も顔も知らねえわ。


そんな風に思うほどの権利はそれこそ俺には無いわけだが、大人になってから昔馴染みの当時の知らない話を聞くのは結構面白いなって思う反面……結構 寂しいもんだな、とも、思った。………いやいや待て落ち着け俺、寂しいって何?どうした?


「で、私の話をしたところでー、」


続照れ隠しってとこだろう、詩芽はやけに明るい声で急に話を変えた。


「丸井はどうなのよ!今彼女いんの?」


今度は俺にそんな話を振ってくる。え?このまま恋バナ続けんの?


「いや、いねえけど…」


「嘘!?だって丸井昔からモテてたじゃん、何でいないの、いつからいないの!?」


「何でとか俺が聞きてえわ!もう1年以上いねえよ!」


「嘘ー!!?」


それは本当だった。働き出してからめっきり出会いとかない。自分で言うけどあんなにモテてた中高時代が寧ろ疑わしい、カムバック青春時代。


「いやマジで、何で何で!?合コンとかは行かないの?」


「いっ…行くけど、付き合うに至らねえの!」


って何でこいつはこんなに食いついてんだよ!


「うわー何それもったいない!ナンパとかは?ワンナイトも全然ないの!?」


何だその質問!


「おま…俺を遊び人みたいに言うな!」


「えーそれくらい今は普通でしょーそれこそ丸井のレベルならさ」


普通って……


「…なに、そんだけ言うならお前はどうなんだよ」


言ってから、あ、まずいと思った。


何かこういうの、まずい。散々恋バナしといて何を今更って感じだけど、お互いの恋人のあるナシとか、そんなん聞き始めたら………やばいって。


「私もいないよー半年くらいかな。」


「結構最近だな?」


大失恋の話を聞いた後なだけにちょっと拍子抜けする。


「そんな続かなかったけどね」


「合コンか?ナンパか?」


あえてからかうような口調で詩芽の言葉をパクった。何かほんとまずいと思ったんだ。軽いノリのままで会話したかった。


「聞いちゃう?引くよ?……実は逆ナンしました。」


「ぶ、……マジで!?」


更にとんでもないことカミングアウトしたぞこいつ……ナンパならともかく(って言うのもどうかと思うが)逆ナンの彼氏て。何つーかそんながっつきたかったの?みたいな?今日の俺何回詩芽に対して「マジで」って言ってんだよ…


それほどまでに衝撃だった。本当にこいつ、こんなキャラだっけ……さっきのナンパだのワンナイトだの、それ、もしかして自分のこと言ってた?


「詩芽ホントはっちゃけたんだなー!」


「「!」」


その時 俺たち二人じゃない男の声が突然割り込んできた。テーブルの向かいで別の奴らと話してた奴だ。こいつも結構酒が回ってる。


「その感じじゃ結構遊んでんだろ?」


「ちょっとーそれはあんたでしょー。昔っから女遊び激しいイメージあるんですけど」


「俺はナンパした子はその日限りですー」


「チャラいのは同じだし!でもまあ正直さ、……遊べるのって若い今だけの特権だよね」


「うはー言うー!いいねお前最高!」


全然今まで話してなかったくせに一瞬で意気投合してる。おいおい、そいつ、詩芽の言う『苦手なノリ』の奴じゃねーの?


「なんかさ、話しやすくなったよな詩芽。イメージめっちゃ変わった」


「ほんと?よく言われるけどありがとー」


いやいや何だよそのハートマーク付けた返し方、


「今の方が断然良いよ。つーかさ、せっかくこうやって再会したんだからこれからもっと飲み行こうぜ、誘うから」


「そうだよねー!うんうん、私も誘うよー」


いや、だから、……いやいやいや……


「てか今日も三次会しちゃう?この後」


おい、待て


「いいね明日休みだし!」


それは


「俺今一人暮らしだから宅飲みでもいいし」


「え!何地元で一人暮らししてんの?いいなー行く行く!」




それは流石に駄目だろ馬鹿!




「 ストップ!!! 」




俺の声がちょっと響いた。しまった声のボリューム間違えた。それでもがやがやした居酒屋、注目は浴びずに済んだ、焦った良かった。


「何だよ丸井?」


「丸井も行く?」


あっそれならまだ安心……ってちげえそうじゃねえだろ!




「詩芽、帰るぞ」




「「え?」」


流石に二人とも怪訝な顔をした。そりゃそうだ。でも俺も強引に押し切ることにする。


「ほら、荷物持て。上着も。あ、これ代金な。よろしく」


「ちょ、ちょっと丸井、」


呆気に取られてる同級生に俺と詩芽の二人分の金を預けて、俺は詩芽の手を無理やり引いていく。


他の席に散ってる別の同級生にも何人か気付かれたけど、まあみんな酔ってっから別に騒がれることもない。軽く言葉を交わしてさっさと店を出た。














「ちょっと丸井!」


「………。」


「ねえ、…ねえってば!急にどうしたのよ!」


詩芽の手を引いたままずんずん街中を歩いていく俺を、詩芽がぐっと力を込めて引き留めた。


こんな力 別に何てことねえけど、もう店からも離れたし俺も大人しく止まることにする。振り返れば、詩芽は怒ったような声とは裏腹に戸惑ったような顔をしていた。


「突然、なに…」


「こんっっっの馬鹿!!」


「!?」


そして詩芽の言葉を遮って大声で怒鳴った俺に、今度は目をぱちくりとしばたたかせた。


「酔ったまんまの勢いで、一人暮らしの男の家に行くとかあっさり言うんじゃねえよ!」


「な、何言って、だって昔からの友達じゃん」


「関係ねえよあいつのチャラさ知ってんだろ!つーかあいつ普通に下心駄々漏れだったろーが!」


「いや、えっと……うんまあそうなんだけど…」


そうなんだけどって…


「…何で分かってんのに乗ってんだよ…」


俺は盛大に溜息を吐いた。


「いや、何ていうか会話の流れっていうか…ただのノリっていうか」


「ノリでほいほい家に行くな」


「…真面目だなあ丸井」


「あ!?」


「ははっ」


「おい真面目に話聞け!」


「ほら真面目〜」


「そうじゃねえだろ!」


俺すげーガチのトーンで話してたのに。詩芽がケロッとした顔で揚げ足取るから一気に力抜けた。マジこいつ……いやまあ、酔ってるからしゃーないのか…


「お前さあ、話聞いてても思ったけどあんま自分を軽く扱うなよ」


「えー?軽く扱ってるつもりないよ」


「充分扱ってんだろ。逆ナンとか、あいつの誘いに乗ったりとか、そんなことしなくたってもっとちゃんと良い奴いるだろーが」


「そんな都合よく出会えませんー。丸井も言ってたじゃん出会い無いって」


「俺を引き合いに出すな!つーか別に俺はそこまで求めてねえから!」


「そうなの?寂しくなんないの?」


そう言って小首を傾げた詩芽を、俺は思わず黙って見つめ返してしまった。……なるほど。




何か、分かった。




「…お前、寂しいからそんなことばっかしてんの?」


「!」


詩芽はちょっと驚いたような顔をした。


「好きだった奴にフラれて、寂しかったから?」


「…5年も前の話だよ」


「でも、すげー好きだったんだろ」


「………。」


『すっごい好きだったんだよね』 と言った時の、詩芽の顔を思い出す。


失恋して、人付き合い広げるようになって、変わったなんてさ。要は自棄になったって言ったようなもんだし。まあ性格も明るくなって世界も広がったんだろうから それが悪いことなわけじゃないけど……でも男関係とか、それからずっとこんなん続けてるんだったら、ちょっと何ていうか―――何ていうか。


( そろそろ誰か、止めろよ )




……誰が?




「…ダメ女の典型っしょ、私」


へらっと笑って言う詩芽にイラッとした。


「何で開き直ってんだよ…」


「だってその通りなんだもん。寂しくて誰でも良かったんだよね、甘やかしてくれんならさ。その場限りでも。」


軽く扱ってるっていうか実際軽いもん、と続けて言った詩芽は、やっぱり何でもないことのように喋っている。別に大したことじゃないとでも言うように。


「そんなこと言うな」


「だから別に丸井の言うちゃんと良い奴なんて期待してないの。分かってるし、こういう自分に見合った相手しか寄ってこないの。当たり前じゃん?」


そろそろ誰か―――誰か?




――俺が。






「 なら、俺にしろ 」






詩芽の表情が固まった。


どこを見るともなく寂し気に笑っていた顔が、ゆっくりと俺の視線へと絡む。俺は真っ直ぐに、その目を見つめ返した。


「逆ナンした男より、今日のあいつより、ちゃんと良い奴、いんだろ。目の前に。」


「…………。」


「…………。」


たっぷり20秒くらい。


無言で見つめ合った詩芽の瞳は、さっきまでのゆるい雰囲気を徐々に引っ込めていく。


「…………酔ってる?」


「お前と一緒にすんな」


「私だって一気に酔い冷めたんですけど…」


「言っとくけど、真面目に言ってっかんな。お前と違って。」


「………。」


そして詩芽は、次の瞬間 面白いくらいに顔を赤くした。


「!?」


「な、何言って、丸井」


そしてしどろもどろで喋り出す。


「お前こそ何今更顔赤くしてんだよ!慣れてんだろこんなの!」


「なっ…慣れてないよだって今、丸井、真面目じゃん!」


「そうだよ真面目だよ!本気で言ってんだよ!!」


「何で!?何でそうなるの!?急じゃん!」


「お前のせいだろうが!」


「は、はあ…!?」


今日で散々知らない詩芽を見た。


大人になった詩芽を見た。


恋する詩芽の顔も見た。


仲良かったと言うくせに、全然知らなかった詩芽を見せつけられて、




何かちょっと 嫉妬した。




(同窓会ミラクルとか、別に信じてなかったのに)




しかもこんなの、放っとけない。


だってお前、違うだろ。そんな安い女じゃねーだろ。変わる前のお前だって嘘じゃねーだろ。……高等部までの詩芽しか、俺だって知らないけどさ。


でもそれだけでも、俺は知ってる。


知らない奴に、詩芽をこんな奴だなんて思って欲しくない。軽く扱って欲しくない。


「詩芽」


「……!」


実は店を出た時からずっと繋いだままだった手。


意識的に力を込めてぎゅっと握る。分かりやすく動揺した詩芽は照れたままだ。


詩芽を散々タラシと言ったけど、今の俺の方がよっぽどクサくて恥ずい。でもそれでもいいやって、今、結構必死な俺は―――もうきっと引き返せない。


「俺、詩芽とちゃんとまた仲良くなりたいんだけど」


「………。」


「中等部の頃の思い出じゃなくて。今。これから。」


お前だって 言っただろ。


本当はもっと仲良くなりたかったって。これからだって。


……だから、


「出来れば、もっと先まで、」


繋いだ手を そっと引き寄せた。






「 俺といて 」















END