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ずっと話したいと思っていた。




気のせいでもなく、勘違いでもなく、時折交わる視線。


交わった瞬間に、止まることなく必ずそのまま通り過ぎていく。まるですれ違うように。意図してすれ違うように。


止まってはいけない。見つめ合ってはいけない。


お互い、それをよく分かっていた。


意識しないようにする。


と、いうことは、


意識している。


と、同義であることを気付かないほど私たちはもう子供ではない。


それでも引き寄せられてしまう視線を、止まらないように、合わないように、


意図してすれ違わせることが、私たちの間ではとても重要だった。














「何かお前らって、独特の空気感あるじゃろう」




いつしか何気なく言われた言葉がある。


あまりにも急に言われたもんだから、跳ねた心臓を平静に見えるよう取り繕うのがすごく大変だった。


「お前ら、実は付き合っとる?……それとも過去形?」


最初の疑いは予期せぬ誤解だった。何でそうなる?


「だってなんちゅーか、入り込めない空気ある。」


「私あいつとほとんど話したことないよ。っていうか多分嫌われてるし」


「そうそれじゃ。」


「は?」


「あいつも同じこと言ってた。俺あっちに嫌われてると思うって」


「…………。」




…そんな風に思われてたんだ。




「だからな、つまり不自然なんじゃよ。あいつも、お前も、関係ないってことを強調したい感じ。意識的に。」


(何でこの人こんな鋭いの……)


追い詰められている状況なのに、目の前の銀髪の男を妙に感心して見つめてしまった記憶がある。


そしてそのまま背後へずれる視線。


教室の隅で騒ぐ 赤髪の「彼」を捉えた私の視線は いとも簡単に「彼」へと伝わり、


この学校生活で幾度となく交わしてきた止まらない交差を、まったく同じように繰り返す。




明るくて、自由奔放で、社交的な誰からも好かれる人気者。


それがあくまで「一般的」なイメージであり、実際違いは無いと思う。


でも私にとって彼は、














「このまま卒業しちゃったら後悔するんじゃない?」




これもまた、いつしか友人に言われた言葉だった。


私の事情を知っている彼女が、至って真面目な顔で、真剣に言った言葉だった。


でも私たちはこの生きてきた18年間、あくまで表面上他人を貫き通し、


そして、


……きっとお互い、心の内でずっと存在を無視し続けることが出来ずにいた。




母親の違う  兄妹の存在を。

















たった一度。


そうたった一度だけお互いの目を、彼の目を見つめたことがある。


まさか同じ学校にいると思わなかった。


同じクラスになるだなんて思わなかった。


初めて足を踏み入れた教室で


お互い、「無関係」を装うことを、忘れていた。




明るくて、自由奔放で、社交的な誰からも好かれる人気者。




そんな彼の私を見る目は、暗くて、鋭くて、…とても痛かった。


ああ、憎まれているんだと 思った。
















「あいつも嫌われてると思うって言っただけで、お前のことを嫌いだとは言っとらんかったがのう」


銀髪の彼は首をひねった。心底納得いっていない顔。


「何でそんな一方的に決めつける?話したことないなら尚更じゃ。」


「…………。」


だってそんなはずは無い。


あの視線が、全てを物語っていた。


お前が憎いと、物語っていた。




彼の家庭に少なからずヒビを入れた私の存在を、憎いと物語っていた。




「…じゃあこれはあいつの友人として言わせて貰うが。」


黙ってしまった私にそれ以上追及をせず、銀髪の彼が静かに続けた言葉。




「……あいつは、不器用だけど優しい奴じゃよ。」




ぽつりと落ちたその声は、「勘違いはしてやるな」と あたたかい響きを私に残した。






















気のせいでもなく、勘違いでもなく、時折交わる視線。


交わった瞬間に、止まることなく必ずそのまま通り過ぎていく。まるですれ違うように。意図してすれ違うように。


止まってはいけない。見つめ合ってはいけない。




止まってしまったら、きっと逸らすことが出来なくなってしまうから。




きっともう、逃げられなくなってしまうから。
















「嫌ってなんかない。」




「………え、」


誰もいない放課後の教室で、その声はよく響いた。




「…嫌ってなんか、ない。」




繰り返された言葉は 確かに私に向けられたもの






交わる




交わる




いつかのあの日以来の




交わる視線に  囚われる
















ずっと話したかった。


話してみたかった。


血を分けた私の兄妹。








いつの日か




お互いの話をしよう




私のこれまでの人生を話そう




あなたのこれまでの人生を聞こう




いつの日か、お互いをちゃんと知ることが出来るなら








あなたの目を見て




笑顔を交わそう












END




仄暗くてすみません。(笑)
モチーフは恩田陸さんの『夜のピクニック』でした。
原作はとても心温まる素敵な小説です。