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『はぴば(゚∀゚)』




「…………。」


仕事からの帰宅途中 不意にあがったLINE。


たった一言の愛想の無いそれは、毎年の恒例行事みたいなもんだ。


「…ぷっ……今年もかよ」


人でごった返す駅前通り。人に見られたら怪しい奴だっちゅーのに思わず笑って独り言を漏らした。




4月20日。今日は俺の誕生日。




『今年もそれだけ?』


即行返信。この時間てことはあいつも仕事終わりかな。


『ご不満か!』


案の定すぐ返事が返ってきた。


『不満すぎるわ』


お祝いLINEは他にもダチからいくつも届いてて、一個ずつ返そうとしてたけど、この暇な帰り道 何となく続きそうなこいつにとりあえず専念してみることにする。やり取りするのすげー久々だしな。


『仕方ないなーじゃあ今年はスタンプを付けてあげよう。』


そして続けてあがってきたスタンプは、何だか不細工なウサギが踊ってるシュールなスタンプだった。


「ぶっ……祝われてる気しねー!」


今度こそ声をあげて笑った俺に、数人のサラリーマンが振り返ったけど俺は気にせずに頬を緩ませた。相変わらずな奴だな。


仕返しに俺も不細工な猫のスタンプを大量送信してやる。着信かってレベルで震えるスマホに怯えやがれ。


「…こんなくだらねーやり取りも何年経つっけなー」


ぽつりと呟いて、さて今日は何食うかなーと鼻歌を歌いながら俺は行きつけのスーパーに入っていった。








大学時代に同じグループにいた詩芽は、特別仲良いかと言われたらそうでもないけどまあまあ一緒にいた奴。


男女ごちゃまぜで数人のグループ、何だかんだ4年間つるんではいたけど、サークルや授業はバラバラになる中で詩芽だけ一緒のゼミだった。まあ気兼ねないダチだ。


卒業して働き始めてからはめっきり会うことも無くなった。


最初こそそのグループで定期的に飯行こーとか言ってたけどそれも段々自然消滅して、男とは偶に会うけど女子は本当に会わない。


詩芽とも数回しか会ってない。連絡も全然取ってない。まあ、現代にはSNSという便利なものがあるわけで、会ってない感じはしないんだけどな。


それでも年に1度。


どれだけ連絡を取らなくても、会わなくても、俺の誕生日にだけは必ずLINEをくれる。…正直俺は詩芽の誕生日を忘れてばっかにも関わらず。


しかもこれがまた詩芽らしくって、絶対必ず「はぴば!」の一言だけっていう雑さなんだよな。


毎年同じ。たった一言。違いと言えば顔文字とか絵文字があるかないかくらい。


最初にお祝いメールくれたのは学生時代だった。やっぱり「はぴば」の一言だけで「それだけ!?」ってすげー突っ込んだもんだ。




でも詩芽だけじゃない、数いるダチたちとの付き合いが薄くなった今


この淡白な「はぴば!」が、むしろ笑えて実は毎年結構楽しみなんてーのは、本人には言ってやらないけど。




『ちょ、怖!怖いよどんだけスタンプ送ってくんの!』


スーパーのカゴに惣菜と酒をガンガン突っ込んでたら返信がきた。


『俺の感謝の気持ちじゃん?』


『全然伝わらない(* ´ Д ` )』


『俺も祝われてる感全然伝わらない(* ´ Д ` )』


顔文字パクったらむきゃー!って感じのスタンプが送られてきた。こいつ変なスタンプばっか持ってんな。


『毎年忘れずお祝いしてあげてるのにー!』


『だったらもうちょっと気合い入れろよ(笑)』


『シンプルイズベスト!私らしいでしょ?』


『愛がこもってない』


『失礼だなー。まあいーですう愛は彼女から貰って下さい〜』


あれ?こいつ知らないんだっけか?


『別れたって聞いてない?』


秒単位で返ってきてた返信がちょっと途切れた。驚かせたか?


『!? いつ!!??』


やっぱり知らなかったようだ。もう誰かから聞いたと思ってたんだけどな。


『2ヶ月前くらい』


『知らないし!ってか最近じゃん!フラれたの!?』


『何でだよ!自然消滅っていうか何となく終わった感じ?』


『まじか〜〜ご愁傷様だ〜〜。てことはまさか今日ぼっちバースデー…?(笑)』


軽いぞこいつ……慰めるとかそういうのは無いのか。


『(笑)って何だ(笑)って!たった今スーパーで酒買い込みましたが何か?』


『想像以上に寂しいことしてて笑ったごめん』


スタンプ乱打リターンズ。スタンプのセット丸ごと送ってやった。平日に迎える誕生日舐めんなよ仕事で終わるっつーの!


『ごめんて分かった、分かったから、軽くホラーだから落ち着け丸井。』


『ぼっちで悪かったな!』


『ごめんて(笑)何だ〜ぼっちなら飲みくらい誘ったのにー』


『嘘つけいつも口ばっかじゃねーか(笑)』


大学時代の友達とは、飯行こうだの飲み行こうだのやり取りはするんだが大体行く行く詐欺で終わる。詩芽も例外ではない。こいつこそホント口だけは達者だし。


でもそう言ってくれるダチがいるだけでもやっぱ素直に嬉しいよな。マジでそろそろ偶には会いたいもんだ。


『今度こそ嘘じゃないです!!(笑)ちゃんと誘うからー!』


自分でも行く行く詐欺に身に覚えがあるんだろう、弁解じみた返信がきてちょっと笑った。


「…っと、やべ、いい加減出るか。」


実はスーパーにまだ居た俺。すっかりLINEに夢中になって気付けば酒のコーナーで15分以上突っ立っている。


レジに行こうとカゴを見下ろして、俺はふと腕時計に目を止めた。もうすぐ21時。


……俺の誕生日もあと3時間で終わりだ。




「…………。」




ふと、何だかやるせなくなった。


すっかり大人になって、……別にもう自分の誕生日に拘りとか全然ない歳だけど。






『誘ってくれないの?』






それは本当に、気まぐれというか、何というか。


……でも会いたくなったのは、本当だから。




おもむろに送ったメッセージ。


レジには向かわず、結局その場でスマホを持って立ったままの俺は、年配のサラリーマンが少し邪魔そうに後ろを通り抜けていくのに すんませんと頭を下げた。


『だから誘うって!本当に!』


ちげえっつーの。




『じゃなくて。 今日!』




またLINEが途切れた。


もういいや、電話しちまえっ


『急すぎじゃない!?』


電話が繋がった早々 詩芽が電話越しにガンガン叫んで俺は一瞬スマホを遠ざける。


「じゃねーだろぃ!誘ったのにーって言ったのお前だろー?」


『いやいや、今日はもうナイでしょ、21時ですけど!』


「終電はまだまだ先だぜ。なに、せっかく久々なのに会いたくねーの!?」


『!?』


自分でもどうしたって思うくらいテンション高めな俺。そーいやダチとこうやって電話するの久々だ。それこそ詩芽の声聞いたの、何年ぶり?


あからさまに戸惑っている電話越しの詩芽。


それがちょっと新鮮で、俺は何だか楽しくなってきちまった。


「俺誕生日なのにな〜これから帰って寝るだけとか、すげえ寂しいな〜〜」


『や、まじでどうしたの丸井、寂しいからって私でいいわけ?』


「俺は詩芽がいいんだけど?」


『うっうわ…ちょっとときめいたわその台詞……あんたまだそのタラシキャラ健在なの…』


何だタラシキャラって……まあ確かに今のはわざと言ったんですけど。


「よし、ときめいたなら会え。俺を祝え。じゃなきゃ家まで行くぞコラ」


『!? 分かった、分かった行くから、言っとくけど本当に終電までだからね!?』


「おっしゃー!!!」


ガチで無意識に大声を出した。


人の少ないこの時間帯 スーパー中に響いた勢いで、近場に居たお客は一斉に振り向いて、流石に恥ずかしくなった俺は買う必要の無くなった酒をそそくさと棚に戻して慌ててスーパーから退散した。




「いやほんと、何なの!?」




「おう詩芽!久しぶり!」


「ひっ久しぶり……って違う聞け!」


駅で待ち合わせて、詩芽もまだ家に帰ってなかったのだろう、仕事帰りらしい姿でそのままやってきた詩芽は相変わらずテンション高い俺の差し出すハイタッチをばちこん!と払いのけた。ああマジでこういうノリ久々。


「いやだってよー、お前とあんなやり取りしてたらマジで寂しくなったんだもんよ!一人で酒飲みたくねーじゃん」


「だったら仁王でも誘いなさいよ…」


「いや野郎と二人っきりの誕生日こそ切ないだろ!」


「二人揃えばナンパし放題じゃん。現地調達」


「…お前俺を何だと思ってんの」


「タラシ」


この辛口っぷりも、すげえ痛いけどまあ懐かしいで許してやる。


「別にいいだろぃ、今日は詩芽と飲みたかったの!」


「…!?」


それは、ほんとにほんと。


「……ま まじで今日どうしたの…」


詩芽が普通に照れた顔になる。…やべえ、そう反応されると俺も照れる。


でも会いたくさせたのは、詩芽だし。


「こう、ああも毎年あんな雑な祝い方されると、いい加減ちゃんと祝って貰いたくなるよな。」


「そーいう!?」


「ははは、」


まあ、それも嘘じゃないけど。


「あれでもちゃんと気持ち込めてるのに〜」


「分かってるよ」


「!」


詩芽がまた吃驚した顔をした。…何せ俺がわりかし真面目な声を出したから。




「ちゃんと分かってる」




凝った文面や可愛いスタンプを送ってくる他の女子たちの中、毎年絶対変わらないたった一言のメッセージ。


どれだけ連絡を取ってなくても、会ってなくても、


ああこいつ変わってねーなっていう安心感は、ついに今年は俺を寂しくさせたんだ。






お前を 恋しくさせたんだ






「…何か今日、変じゃない丸井……」


「そう?誕生日だからじゃん?」


「えっごめんそれよく分かんない」


「つーかどこ行くか。俺のオススメの店でいい?奢ってやっからさ」


「!?…どこでもいいけど、誕生日なのに奢ってくれんの?」


「奢らなくてもいいけど」


「いや無理やり連れだしたんだから奢って欲しいところだけど」


「どっちだよ!」


思わず噴き出した。久々だっつーのに、本当に遠慮ねえ奴。


「嘘、やっぱり奢ってあげる」


「? いやマジで俺 奢るけど?」


「ううん、」


隣を歩いていた詩芽が楽しそうに俺を振り返る。




「ご馳走になるのは、今度会う時にとっとく!」




「!」




………今度。


今度を期待して、いいわけ?




「今日はやっぱちゃんとお祝いしてあげる。私も誘ってくれて嬉しかったし」


「………。」




「私も、丸井に会いたかったしね!」




からからと笑う姿は、やっぱり学生時代と変わらない、安心する詩芽の姿。


「………タラシはどっちだっつーの」


ぼそりと呟いた。


「ん?なんて?」


「いや、何でもね」


ちょっとときめかせてやろーとか、仕掛ける気だったのは俺の方だったのに。


下心なんて意図して持つもんじゃねーな。すっかり逆転されたみたいだ。


「そうだ丸井!」


「!」


急に大声をあげた詩芽。俺は驚いてびくりと肩を揺らす。


「な、なんだよ?」


「忘れてた!」


そうして突然駆けだして、数歩前に飛び出た詩芽がくるりと振り向く。うわ、何その少女漫画のヒロインみたいの。そんなことされたら、








「 丸井! 誕生日、おめでとう!! 」








そんなことされたら、




ときめくじゃんか







「会ってからまだ言ってなかったわ〜」と、全然申し訳なさそうじゃない顔で笑う詩芽を思わず見つめてしまったのは 気付かれずに済んだようで、


俺は「…はぴば以外の言葉で祝われんのいつぶりだよ」と 慌てて返して誤魔化した。


大人になって、この歳になって、誕生日なんて拘りなかったけど。




やっぱ俺


この先も こいつにだけは絶対祝って欲しいかも。




…そんで出来たら、一緒に過ごして欲しいかも。




そう思ったのは、


……やっぱりまだ、言えねえや。











Happy Birthday, BUNTA!