×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -








ふっと空気が止まった。


張りつめた緊張感が辺りを満たす。


校舎に貼り出された一枚の大きな紙。


少し高めのそれを見上げてから、私と謙也は無言でゆっくりお互いを振り返った。


「やっ……」


瞬間、顔に浮かぶ満面の笑みは。




「「たああぁぁぁああぁぁあー!!!」」




わっと溢れる歓声。


それは私や謙也ばかりのものではない。私たちの周りは爆発したように緊張の糸が切れた興奮と熱気で充満していた。無茶苦茶に叫んだり泣いたりしながら抱き合っている人たちでごった返している。


「謙也!」


「あきら!」




「「合格だぁぁああ!!!」




私たちも思わず抱き合った。ぴょんぴょん跳ねて、ハイタッチして、もう何が何だかという感じだ。


今日この瞬間、高校受験の最後の合格発表が終わった。


そこら中で笑顔が溢れている。…もちろん笑顔ばかりではない。想い叶わなかった人もいる。けど、けど、……みんなみんな、終わったんだ。終わった。長かった受験期が、終わった!


「…おい!お前ら俺を無視すんな!」


後ろからげしげし!と蹴りが飛んできた。あ、やば、忘れてた、後ろにいたもんでつい。


「………一氏い〜!」


「やったで一氏!合格や!合格やで俺ら!」


「遅いわ二人だけの世界入っとったくせして!」


私たちはとって付けたように後ろに立っていた一氏にわっと抱き付いた。ぎゃいぎゃいと喚く一氏も怒った顔を繕うものの、我慢しきれなくなったようにニヤけた。


お互いの緩んだ顔を改めて見合う。




「「「 合格、おめでとう!!! 」」」




バシン!と3人でハイタッチをした。




春からまた同じ学校だ!








入学用の書類を受け取って、揃って高校の校舎を後にした。向かうは四天宝寺中。合格報告だ。


「これでやっと解放やな〜〜〜サラバ受験勉強の日々!」


「一氏よく塾通いも耐えたよね〜勉強大っ嫌いなのにさ」


「小春がおらんかったら続いとらんかったけどな」


辛かった日々も終わりよければ全て良し、一瞬にして思い出補正の餌食となって良い思い出へと変わる。


3人の足取りは軽く四天宝寺の校門をくぐった。




「……む、来たな」


「お、3人揃っとるね」


「みんな受かったのね!」


「あきら!謙也!一氏!」


昇降口に、私たち以外のテニス部がみんな揃っていた。


学校に報告に来るのはこの時間は合格者のみだ。……みんな合格したんだ!




「白石!銀さん!小春!千歳!健二郎ぉぉ!」


「小春ううう!」


「おめでとおおー!!」


わっとみんなが一斉に駆け出して抱き合った。そのまま頭をぐしゃぐしゃにしたり、背中を叩きあったり。みんな合格発表のテンションを引きずったままだ。


「みんな、お疲れさん」


「これで全員春から無事に高校生たいね」


推薦でみんなより一足早く合格を決めていた白石と千歳が嬉しそうに笑う。自分たちだけ先に決まっていただけに 二人は二人で不安だったのかもしれない。


みんな清々しい顔でお互いを見合った。


「よし、んじゃ揃ってオサムちゃんとこに報告に行くか!」


「今度こそ焼き肉やでえ!」


「全員合格したら奢っちゃる言うたのオサムちゃんやもんな」


「これでもかってくらい食うでえー!」




「先輩ら、うるさいっすわ」


「!」




昇降口で騒いでいた私たち、突然頭上から 馴染みの声が降って来た。


「光!」


「財前!」


階段の手すりからひょっこり顔を出していたのは私たちの可愛い後輩……財前だ。


みんなの顔がぱっと輝く。まさか今日会えるとは思ってなかった。在校生は今日も授業なのだ。


「財前んんん!」


「うわ、ちょ、そのテンションで近付かんで謙也さん」


「財前んんん!」


「聞けや!」


おかまいなしの謙也にみんながどっと笑った。


「ちょっと、俺移動教室に通りがかっただけなんでもう行きますってまじ」


「こらあ久々に会ったんやでえ俺ら!恋しかったやろ!?」


うざ絡みをする謙也に財前が心底うるさそうな顔をした。


卒業式も済んだ今、3年が校舎にいることに在校生の視線がちらほらと集まっている。「今日合格発表やて、」「あ、そうか」「お疲れ様でーす」なんていう 名前も知らぬ在校生の声に、みんなも顔を緩めたまま手を振った。


「じゃあ、俺からも 受験解放お疲れさんですっちゅーことで」


財前が無造作にポケットへ手を突っ込む。その手をそのまま謙也へと差し出した。


「?何や?」


「お祝い。」


そして謙也の手にポロリと落ちたのは…


「!?ただのテニスボールやんどこがお祝いやねん!」


財前はそのままくるりと背中を向けてしまった。


「おい財前!」


「光!」


みんなが一斉に名を呼ぶと、財前はちらりと振り返った。




「久しぶりに部活に顔でも出したってくださいよ」




「「「!」」」


ひらりと手を振りながら「おめでとさんでーす」なんて棒読みで最後に言い残して立ち去っていく。


私たちはその後ろ姿を茫然と見送った。


「あ あいつ……」


「ただのイケメンか…」


「そらモテるわ…」


「何か腹立つ……」


「……ぶ、」


一斉にみんなの口をついて出た憎まれ口に私は思わず噴き出した。超本音じゃん…


「ぶっ、くくくく…」


「おいあきら笑いすぎや!」


「いや、だって、ふは……はあ、部活行かなきゃね!」


私はケラケラと笑ったまま言った。


「ね、今日行こ!部活!」


「放課後までまだ大分時間あるで」


「いいじゃんコート借りてテニスしてよーよ」


「てか着替えあらへん」


「ラケットもあらへん」


「ちょっと何でみんなテニスバック背負ってるのに中身無いの!?」


「仕方ないやん暫くテニスから離れとったんやから!」


「もう1、2年生に負けちゃうかもしれへんねえ」


「うわ、それはめっちゃ悔しいわ」


「放課後までに取り戻すで!!」


「体力と勘な」


「ちゃう、3年の威厳や」


「その発言で既に威厳ないわ謙也…」


「っていうか体力も勘も数時間で取り戻せるわけないじゃん。……威厳も」


「言うな!」


再びどっと笑った。止まらなくなって、廊下中に笑い声を響かせる。


その内 授業の始まった教室から「コラお前ら静かにしろや!」と先生の怒声が飛んできて、私たちは慌ててコソコソと職員室へと移動した。


不合格者の報告時間に来なかったからだろう、全員合格したと判っていたらしいオサムちゃんは 私たちを穏やかな笑みで職員室で迎えてくれた。いつもふざけてばっかりのオサムちゃんのそんな顔に、私たちは騒ぐよりもぐっと来てしまって、そこでやっと初めてじんわり合格を実感した気がした。
















「そんじゃ、一旦帰ったらラケット持って部室集合な。」


「ジャージも忘れるんやないで!」


無事に報告を終えた私たちは再び昇降口へと集まる。


結局みんな道具も何も持ってないので、一度帰ってから改めて集合になったのだ。


「自分のボトル持ってきたらドリンク作ってあげるよ私」


「まじか!」


「流石マネージャーやな。」


「最後まで仕事を全うさせて頂きます。」


「じゃ、また後でな」


「おう!」




手を振り合いながら晴れやかな顔でみんな去って行く。


私もみんなの後に続いて校門をくぐった。




「……?」




ふと、足をとめた。


目の前を何かが過ぎったのだ。


何気なく見上げた頭上、私は思わず声を漏らした。


「……あ…」




桜の花だった。




校門のすぐ脇に立っている桜。


ひらひらと小さな花びらがきまぐれに降ってくる。


「…ここだけちょっと早咲きなんだ…」


満開ではない。


まだつぼみばかりの中に、ちらほらと花びらを広げている桜。…これから咲く桜。






「 …私たちみたいだ 」






ふふっと笑って、私も四天宝寺を後にした。
















希望と期待にふくらむつぼみを


私たちは胸へと抱いたまま春へと向かう。




あたたかな陽の光が、眩しいくらいに私たちを照らしていた。




私たちの行く道を、きらきらと照らしていた。




春が待っている。




花開くのを、待っている。




咲き誇れ 桜




咲き誇れ 春








咲き誇れ  未来














END




しんみりした卒業もいいですけど、前向きな彼ららしく清々しい卒業をイメージしてみました。
「卒業」って言うと卒業式がメインな気がしますが合格発表もわたしはとても思い出深いです。高校への一歩が目に見えるというか、ここでやっと本当に卒業を実感する気がします。