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拝啓




空のどこかの あなたへ























「「「「 Happy Birthday! 朱音! 」」」」




――― パパパパン!




「うっ…」


「げ!」


「うあああぁぁ!!!」




部屋中に朱音の泣き声が響き渡った。


一気に青ざめたブン太に、「ほらな」と呆れた顔をした仁王が無言でブン太の額をはたく。


それ以外のメンバーがどっと笑い声をあげた。


「だから言ったろうがクラッカーはまだ早いって」


「だって断然盛り上がるだろお!?」


「大きい音は怖いに決まってるだろ。はーい朱音ちゃん馬鹿なブン太は放っといてこっちおいで?」


ブン太のあぐらをかいた膝の上で泣きわめいていた朱音が、大人しくいそいそと幸村の膝の上へと移動する。


その様子に思わずぷっと吹き出した。……赤也、残念ながら朱音は順調に幸村の毒牙にかかってるよ。


そうやって笑って見上げた写真の赤也が、一瞬焦った顔をした気がしたのは きっと私の気のせいだろう。













秋も深まりすっかり涼しくなった10月。


赤也の実家で朱音の2歳の誕生日会を開いた。


赤也と入籍してなかったとは言え、赤也の両親の孫に変わりない朱音を二人はとても可愛がってくれている。


普段私と朱音は私の実家で暮らしているのだが、朱音が生まれた時から赤也の両親にはとても良くしてもらっていた。


誕生日会には私の両親も呼び、そして元立海メンバー勢ぞろいで賑やかに行われた。


自分のお祭とは分かっていなくても、沢山の人に囲まれた朱音は随分楽しそうにはしゃいでいる。




「朱音、いいかい。君のお父さんは本当に馬鹿だった。」


「精市……お前は一体 朱音に何を仕込もうとしている」


「え?勉強は頑張らなくちゃダメだよって言ってるんだよ」


「悪意こもりすぎだろぃ」


「だから俺が朱音を立派に育ててあげるからね」


「あい!」


「ほら喜んでる」


「俺は知らんぜよ…」


「今の時代文武両道が大事だぞ。もしテニスをしたいと言い出したら俺が教えてやる。」


「真田くんが教えたら大変なことになってしまいますよ…」


「む?」


「そう思うと赤也よりは僕たちの方が断然 適任だよね。あいつのプレイスタイル凶暴だし」


「いや幸村お前どっこいどっこいだぞ」


「でも結局プロになったのは赤也だけじゃない。もう俺は赤也に敵うか分からないよ」


「結局お前らの勝負は大学時代が最後だったな。」


「俺が最初で最後に赤也に負けた勝負だよ。まさかあのまま勝ち逃げされるなんてね。本当あいつ許さない」


「…今ガチのトーンじゃったな」


「ドンマイ赤也」


お酒を飲みながら花が咲く赤也の話。


本人は居ないというのに 赤也は結局いつでも弄られ役だ。ほんと可哀想な人。


それでも笑いながらこんな風に赤也の話が出来ていることに、今はとても穏やかな気持ちだった。


一ヶ月前だったら、赤也の名前が出る度……寧ろみんなで顔を合わせる度に、気を抜けば重たい空気が流れていたのだ。


欠けている。


必ず私たちの中にいつも居たはずの、ピースが揃わない虚無感。




けれどもう今は。




「ジャ!抱っこ!おつむてんてん!」


「はいよ。…全くこういう無邪気さは赤也そっくりだよな。」


ジャッカルに抱っこをしてもらった朱音は嬉しそうにジャッカルの頭をぺしぺしと叩く。


ジャッカルも文句を言わずに好きにさせている。最近すっかりお馴染みになった光景だ。


「…ジャッカルの頭、すっかり朱音のお気に入りだよな…」


「悪気のない子供ほど怖いものはないね。」


「本当にハゲたら俺のコレクションから似合うカツラ選んでやるぜよ。」


「ワカメヘアーでいいんじゃない?」


「ふざけんなお前ら絶対にいらねえっ」


「ジャ!動いちゃめ!」


「すっすまん朱音」


朱音に怒られたジャッカルが背筋をぴっと伸ばす。再びどっと笑い声が沸いた。




赤也、見てるかな。


今日もみんなは ちゃんと笑ってるよ




「さあさあ皆さん、お喋りもいいけどご飯も冷めない内に食べてくださいな。」


「あ、ありがとうございますお母さん、」


「あぁあきらさんは立たないで頂戴。こっちでやるから」


「でも…」


料理を運んで来てくれたお母さんを手伝おうと腰を上げれば、肩を抑えられてしまった。


「今日はあなたたちが揃って笑ってることが大切なの。赤也の傍にいてやってちょうだい。」


「……お母さん」


にこりと笑ったお母さんに、私たちは顔を見合わせて笑い合った。


赤也の写真をみんなで見上げる。




朱音が居て


みんなとこうやって馬鹿な話をして


赤也の両親と 私の両親でお酒を酌み交わしあって


赤也を想い 心から笑い合う




こんな日を 待ち望んでいたのかもしれない




「…空の上で拗ねてそうだな。」


「俺も混ぜろって?」


「あいつ俺ら大好きだからな。仲間に入れねーとすぐ拗ねるからな」


「いいよ勝手に拗ねさせれば。その間に俺が朱音と仲良くなるから」


「……幸村くんあなたどこまで本気なんですか?」




欠けてなんかない




「赤也は最後まで憎たらしかったから、ちょっと俺やってやろうかと思って」


「……はい?」


「父親を俺だと思わせよう作戦」


「おい仁王止めろぃ」


「俺は知らん言うたじゃろパス」


「幸村なら本気でやるぞ」


「だって朱音 赤也の顔は実際は一度しか見てないわけだし。ねー朱音。幸村くんをパパって呼んでごらん?」


にこにこと楽しそうに朱音に笑いかける幸村。


抱えられた朱音がきょとりと幸村の顔を見つめた。




「め!」




――― ばちん!




「!?」


そして次の瞬間 突然幸村の顔面を手ではたいた。


その場にいた全員がぎょっとする。


「朱音!?」


「だっ…大丈夫か幸村」


「…幸村の顔をはたく女がいるなんて」


「………。」


「おい幸村放心しとるぞ。写メっとけ」


「なかなか興味深いデータが取れた」


「いっいやいや冗談は置いといて。どうしたの朱音?」


その場がざわりとしだす中、朱音の顔を覗きこむ。


朱音は放心した幸村の手からもぞもぞと抜け出せば、よたよたと部屋の隅へと歩いていった。




「 ぱぱ! こっち! 」




無造作に伸ばした手。


上手く掴めずぱたりと落ちたそれを、朱音は必死に抱き寄せた。




赤也の写真。




「みて!ぱぱ!あかねの!」




空気がしんと静まり返る。


そんな中、朱音だけがきゃっきゃと嬉しそうに写真をみんなへと向けた。


欠けてなんかない。






今でも あなたはちゃんと此処にいます




みんなの心に






ちゃんといるよ






「……うん、そうだね…。」


思わず零れそうになった涙を、見られないように朱音をそっと抱き寄せた。


「ママ、ね!パパ、こっち!」


「そうだね……朱音、そうだね。」


隣に座っていたジャッカルの目も潤んでいる。


みんなが優しい目で朱音を見つめていた。






赤也






「フラれたな、精市。」


「……女の子にフラれてこんなに悲しい気持ちになったのは初めてだよ。」


幸村がふうと溜息をつきながらお酒をあおる。


「元気を出せ幸村。お前にだってその内いい相手と子供が出来る。」


「ちょっと真田は黙ってて」


「お前の良いところを俺はよく知っている。一人や二人フラれたからと言って」


「おい誰だ真田に酒飲ませたの」


「プリ」


「む、う、くしゃい」


「臭い!?」


「おい真田とりあえず朱音から離れろお前確かに酒臭い」


「分かった、朱音が嫁に行く時は俺がしっかり相手を――」


「ちょっと俺がダメって言われたのに何で真田が父親みたいなことするの。認めないからね」


「いや問題はそこじゃないだろ話早すぎだろ」


「いーからお前らあっち行け!(笑)」




未だに引っ込まない涙を流しながら、私は声をあげて笑った。


みんなもお互いを見合って笑い合う。


つられたのだろう、朱音も嬉しそうに赤也の写真を抱きしめたまま笑い声を響かせた。



















赤也




あの日あなたと会ってからも まだまだ伝えたいことが沢山あります。


朱音が2歳になりました。


みんなでこうやって集まって、朱音の成長を感じる喜び


あなたの話を出来る喜び


伝わっていますか。




朱音がこうして笑い、泣き、声をあげるということ。


それは、あなたが確かに生きていたということ。


赤也のお父さんとお母さんも、


幸村も、真田も、柳も、仁王も柳生も丸井もジャッカルも。


そして、私も。


みんなみんな、笑ってるよ。






ねえ 赤也






あなたが確かに みんなの中で今も生きている。




これからもずっと 生きている







空のどこかの あなたへ。







この声が、想いが、みんなの笑顔が、あなたへと届きますように




どんなに遠くにいても どんなに離れていても 届きますように




この胸いっぱいの願いを込めて










今日も 空を見上げる

















空を見上げる
















END




「tsunagu 〜long loveletter〜」完結です。ここまで読んで下さりありがとうございました!
ツナグのパロディでありながらツナグサイドはあまり掘り下げませんでしたが、個人的に髪の毛切った仁王を掘り下げられなかったのも少し残念です()
こういう続きものを書くと番外編などを書きたくなるのですが、今回はこれ以上には書きません。ほんの一瞬だけ、幸村と朱音……とか とんでもない妄想がよぎったのは内緒にしておきますね。

サイト内memoにて、ここに書ききれないこの話にこめた気持ちを少し書きました。
こちらにも残しておこうかなと思います。気が向きましたら読んでみて下さい。( tsunaguについて )

とりあえず最後に、赤也、ごめん。(笑)

赤也にはいつも切ない気持ちにさせてばかりなので 今度ははっぴーな話が書けたらいいなと思います(笑)



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