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「雨かー……。」




急に振り出した梅雨の雨。


天気予報が曇りだからって、鞄には一本くらい折り畳み傘を常備しておくべきだった。


傘を忘れた私は昇降口で立ち尽くしたまま、ぼんやりと屋根の外に降りしきる雨を眺める。


まだ放課したばかりの昇降口は生徒で賑わっていた。私の他にも傘を忘れた人はちらほらいるようだ。


「…………。」


走って帰るには少し難易度の高い激しい雨。


誰か同じ方向の、傘を持ってる友達を捕まえようかと 校舎内へ踵を返した時だった。




「あれ、」




あっけらかんとした陽気な声が響く。


……正面に立つ、その声の持ち主と目が合っているからには私に向けられた声だとすぐに理解した。




「丸井」


「よう、何だよ忘れ物?」




まさに丸井も帰るところだったのだろう、ローファーを足に引っかけたまま下駄箱の影から現れたクラスメイト。


「や、傘忘れた。誰か傘持ってる友達捕まえようかと思って」


「あ、忘れたって、家に?」


「そー。流石にこの中傘無しはキツイじゃん?」


「まじ?俺 超走って帰る気満々だった」


「いやそこまでワイルドにはなれない……って、丸井も傘忘れたんだ」


「だって今日予報 曇りだったじゃねーか」


私と同じ言い訳。思わず笑ってしまう。


「水たまりに転ばないようにね。」


「それじゃあまた明日」、笑いながら続けてそう言えば、私は校舎内へ行こうとした。


けど。




「やっぱ、やめた。」




「え?」


背を向けた後ろから追いかけてきた声。


振り返れば、丸井が足場のすのこの上へと腰を降ろしたところだった。丸井とばちりと目が合う。




「雨宿り。」


「……うん?」


「してかない?」




いつもニコニコしてる愛嬌のある顔。……今は、ちょっとだけ、真剣な目だった。


え?




「…私に言ってる?」


「以外に誰に言ってんの俺?」


「いやだって、」




何で、私?




「時間潰し、俺に付き合ってよ」


「別に…いいけど……、…走って帰るんじゃなかったの?」




丸井は真剣な目のまま視線を外してくれなった。


どうしよう、…………何か急に、緊張する







「 だって楽しいじゃん、……詩芽と一緒に待つ方が。 」








心臓の音で いつの間にか雨の音は掻き消されていた。













雨降る日には。

(少しお喋りしませんか。)














「……あ、もうやむね。」


「………。…まだもうちょっといよーぜ。」


「………うん。」












END