×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -






この想いを


なかったことにしたいだなんて


もう手遅れなのは 分かりきったことで。








border








「っれ!?あきら先輩は!!?」




3年の教室に響き渡った元気な声。


先輩ばかりのこの教室に遠慮も何も無しに入ってきた後輩に、幸村は溜息をひとつついた。


「………詩芽は今日は委員会に行っちゃったよ。」


「えっ嘘っしょ!?せっかくテスト明けたし!久しぶりにあきら先輩に!会えると思って来たのに!!」


「残念だったね。」


「ちぇー。幸村ブチョと居てもつまんねーから帰ろ」


「シメられたいの?」


「じょじょじょジョーダンじゃないすか!!きっ切原退散しマ〜ス!そんじゃ!!」


満面の笑みで毒を吐いた幸村にさっと顔を青ざめさせれば、いつもは何かと理由をつけてダラダラと3年の教室へと居座る切原が颯爽と去っていく。


後に残された幸村は、再びひとつ溜息をついて今度は自分の机の影へと向かって声をかけた。




「……これでいいの? 詩芽。」




恐る恐る顔を上げれば 見下ろしてくるのは幸村くんの呆れた表情だった。


「ご…ごめん幸村くん……ありがとうございます。」


私は気まずさを誤魔化す為にへらりと笑う。……ものっ凄い嫌そうな顔されたけど。


「何なの?赤也の声がしたかと思えば突然『居ないことにして』だなんて隠れてさ」


「いや……ちょっとね」


「テスト前は赤也に会えなくてあんなに寂しそうにしてたくせに」


「……してない」


「その嘘 俺に成立すると思ってんの」


「すいませんでした。」


ひいい怖いよ!


とりあえずうずくまっていた床から椅子へと座りなおす。


幸村くんの表情は「いいからさっさと話せ」と無言の圧力で溢れていた。(ほんと嫌だこの人)


「……ちょっと、切原に近付き過ぎないようにしようと思って」


「は?」


「いや、は?じゃなくて……」


「意味分かんないから は?って言ったの。何それ何で?」


「ねえまじ幸村くん怖いその尋問風やめて」


「やめて欲しかったら理由言って」


やめる気ないじゃん!


「もしかして赤也のファンとかに絡まれた?脅されたの?」


「違う」


「脅されたんなら俺がどうにかするよ。本当のこと――」


「だから本当に違うって!」


「…………。」


つい声が大きくなった。


しまった。ほら幸村くん目丸くしちゃったじゃん……落ち着け私……


「…………本当にどうしたの。」


「ご、ごめん……いや、ちょっと最近いろいろ考えてて。」


「いろいろって。」


「ねえだから何で私幸村くんに尋問されてるの…」


「俺が納得いかないから。」


「超個人的なんですけど……」


「個人的じゃないよ。俺は真面目に二人のこと応援してるんだよ。」


「何、」


またそんな風に面白がって、と笑って続けようとした私は思わず固まってしまった。


幸村くんの表情が、あまりにも真剣だったから。




……何でそんな顔するの?




「ちが、……違うんだよ。私、やっぱり違う。」


「何が。」


「私、やっぱり浮かれてたんだと思う。ちょっと良い雰囲気かもとか、自意識過剰だったっていうか……」


「…………。」


ちょっと懐かれたからって年下の男の子に夢中になって、一人舞い上がって……


でももしそれが勘違いだったら?


勘違いだったら………馬鹿みたいじゃないか。




馬鹿みたいじゃないか。




「……それ、赤也には言ったの。」


「言うって……それただの告白じゃん!」


「だからそう言ってるんだけど。」


「言えるわけないでしょ!?」


「言いなよ」


「……ねえ人の話聞いてた……?」


幸村くんは、私の問いには答えず相変わらず怖い顔で私を見つめる。


私は思わず俯いた。


幸村くんの瞳があまりにも真っ直ぐすぎて、見ていられなかった。


「俺は、何も伝えないでうじうじしてるだけの奴は嫌いだよ。」


「……幸村くんの好みなんてどうでもいい」


「だって詩芽はそれでいいわけ」


「…………。」


「好きだっていう気持ち、今更とめられるわけ」


「……それは、」


「詩芽。」


鋭く私の名を呼んだ幸村くんの声。思わず私は顔をあげた。





「引き返せないのなら、進むしかないんだよ。」





最後にそう言った幸村くんは それ以上口を開かなかった。

























放課後


誰もいなくなった教室で、私は一人ぼんやりと座っていた。


窓際の席。ここから見えるのはテニスコート。


そして窓を閉めていてもよく響いてくる、大勢の声に紛れていても分かる特徴的な声。切原の姿はすぐに見つかった。


今はコートの外で他の試合してる部員を応援してる。




もう重症だ。




「引き返せないのなら、進むしかないんだよ。」




幸村くんの声が脳内に響いた。




……分かってるよ幸村くん。分かってる。


もう引き返せない。


切原のことがどうしようもないくらい好き。好きなんだ。


分かってるけど……




切原に告白すれば解決だなんて、その勇気があればとっくにしてる。


私だってこの気持ち、いつかは伝えたいと思ってた。


でもそれは 多少なりとも自信みたいな、期待みたいなものがあったからで……どっから湧いてきてたんだろ、あの自信。


あっさりと挫かれてしまった今ではあまりにも大きな壁すぎて、私はただその前で立ち尽くしているだけだった。


そうして切原のことも避けちゃって、なのに結局顔が見たくなってこんな風に姿を探して。


矛盾、矛盾、矛盾。


こんなにうじうじしている自分に、幸村くんが苛立つのもよく分かる。




「……いい加減帰るか」




ぐるぐる思考を巡らせている内に 何だか考えることに疲れてきた。時計を見れば一時間もこうやっていたみたいだ。


もう一度コートを見る。また直ぐに切原の姿を見つけた私は、


……次の瞬間固まった。




「……え、」




目が合った。


切原と。




「……!!!」




私は反射的にカーテンを閉めてしまった。あ…やば……


「……嘘でしょ。」


まさか切原と目が合うなんて。


っていうか、それどころじゃない。やばい。流石に今のは変だと思われたはず。


私は慌てて鞄を手に掴み教室を飛び出した。




(やばい、やばい、やばい!)




これでもかっていうくらい、全速力で校内を駆け抜ける。


昇降口まで脇目も振らずに走った。




( やばい! )




別に追われているわけでもないのに、恐ろしいほど心臓が跳ねていた。危険信号。


本能的に、とにかくまずいと思った。逃げなければと体が感じていた。




そういう時の人の直感というものは、 よく当たる。









「……っあきら先輩!」









「……!」




息を切らして辿り着いた昇降口。


駆けこんできた私とほぼ同時に、滑り込むようにして扉へと立ちふさがったのは……




「っ切原……」




彼も同じように息を切らしている。……走って、きた…?


「……あきら先輩、」


「…………。」




切原の顔が、怖かった。




怒ってる、と 思った。怒ってる切原なんて今まで見たことないけど、何でかすぐに分かった。


いつもあんなにキラキラと笑ってる顔が、……凄く怒ってた。


「何で?」


「……え?」


口を開いた切原の声は、とても低かった。思わず鳥肌が立つ。




「何で、逃げたの?」




「!」


やっぱり、ばれてる。


私は咄嗟に誤魔化した。


「…に、逃げるって何……てか、切原 今部活中だよね。どうしたん――」


「目、合ったよね?」


「っ……」


万事休すだ。


「合った後、すぐカーテン閉めたよな?そんで、ここまで走って逃げて来たんだよな?」


私は切原の顔を凝視したまま動けなかった。……誰か助けて……


切原がゆっくり私の方へと近付いてくる。私は思わずじりじりと後ろへ下がった。


「何で?何で俺逃げられたわけ?」


「切原、」


「俺何かした?俺の気付かない内に怒らせた?」


「ちが、」






―――― ガン !!!






「っ!!」


昇降口中に大きな音が響いた。切原がロッカーに拳を突きつけた音。


その切原とロッカーの間に挟まれた私は、茫然として切原の顔を見つめていた。




「……俺だって傷つくよ?」




とても寂しそうに歪んだ切原の顔を。




「……何で……?」


「……は?」


心臓が、相変わらず早鐘を打っていた。


でもさっきみたいな、危険信号じゃなくて。


勝手に逸りだしたこの気持ちに 操られるように私は口を開いた。





何でそんな風に 苦しそうな顔で そんなことを言うの





「何で、私にそんな必死になるの?構うの?切原には、もっといるでしょ、友達が……笑顔になれる場所が、あるでしょ」


「なに言…」


「私のそばじゃなくたって、切原には幸せになれる場所が、あるでしょ!?」


「…………。」


切原の顔が、驚いたように固まる。目が見開かれていた。


「私、……っ勘違いする、」


それでももう とまらなかった。




「期待して、浮かれる自分が嫌なの!」




「…………。」


切原の顔が、見れなかった。


間近にあるその目を見れずに 俯いたまま歯を食いしばる。


そのまま流れた時間は 短い?長い?……そんなの分からないくらい、果てしなくて









「…………言わせんの?」









やがて 永遠に続くのかと思った沈黙を破った切原の声に


ハッと顔をあげれば





あ ――――吸い込まれる





「きり――」




名前を言い切る前に 私の視界は切原で埋まった。




強引に奪われた唇はあまりにも乱暴で、必死で、……それでも苦しいくらい気持ちが溢れてて。


感情をぶつけられたような感覚の中に ずるずると飲み込まれていくようで――







「 …………好きだ 」







乱れた息の合間に紡がれた 小さな声は




「……うん。」


「アンタのそばに、いたんだよ」


「うん…っ」


「俺のものになって、ください」


「……っ」




とんでもなく単純で 明快だったけど。






「……っ私も切原が大好き……」






切原の腕の中で 私はただひたすらに涙を流した。


世界中の何よりも愛しくてあたたかい言葉を


愛しい人のぬくもりを


ただただ、全身で感じていた。












END




*// top