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あいつが私の心を攫ったまま


もうすぐ2年が経つ










風の少年










「差し入れ持ってきたよー!」


「「「あきら先輩!」」」




もうすぐ全国大会を控えた7月の夏真っ盛り。


たまたま高等部の練習の休みが被り、中等部の後輩のもとへ差し入れの飲み物とアイスを届けにやってきた。


基礎トレをやっていた部員達がわっと集まってくる。




「あきら先輩」




「リョーマ!お疲れー!」


そこに声をかけてきたのは現部長のリョーマ。


昔はチビチビ言われてたリョーマも今や背も伸びて声も男らしくなって、やっぱり人気の的を一人占めしてるっぽい。


「あれ、また身長伸びた?」


「そりゃ成長期っすからね。」


「何かますます……」


「え?」


ハッとして私は言葉を止めた。


つい口から飛び出そうになったセリフを慌てて飲み込む。




身長が伸びて、声が男らしくなって。


断然大人っぽくなったリョーマは 近くで見てもあいつにそっくりだった。


…………2年前に、出会ったあいつ。 



「……差し入れ、どーもっす。」


「ど どーいたしまして。せっかく今日こっち休みなったからさ。」


「他の先輩らは来てないんすか?」


「桃と英二が後から来るって言ってたような?」


「え、あの人達は別に来なくていー……」


「聞こえてんだよ越前!!」


「うわっ!」


そこへ突然リョーマの後ろから抱きついてきた桃と英二。


リョーマが驚いて持っていたラケットを落とす。


「いつからいたんすか!」


「今来たばっかだっつー……あれ?」


「え?」


桃がきょとんとリョーマの顔を見つめた。


「どしたの?」


「え、いやー……あれ?……英二先輩?」


「んにゃー……人違いだったんじゃん?」


「何の話か全く伝わらないんすけど。」


不思議そうに顔を見合わせている桃と英二。


リョーマが はあ?と言う顔で二人を見る。


「いや、さっき来る途中 越前にそっくりな奴見かけたんだよなー。」


「……え」




そっくり?




「だから今日部活行ってないのかな〜って思ってたんだよ。」


「この時期に部活来てないわけないじゃないっすか。朝からいますよ。」


「だよな。やっぱ人違いだったんすね英二先輩。」


「そーだにゃー。声かけなくて良かった!」


「ねえ!そっくりって、」


「あきら?」


思わず大声を出していた。


近くにいた部員達がびっくりして私を振り返る。


私は慌てて声を小さくした。


「あっ…えっと……その、そっくりな人ってどこで見たの?」


「んーっと来る途中のストテニ場の入口?」


「ちょうど入ってくとこだったっすよね。」


「うんにゃ後ろ姿だったけど、テニスバックも背負ってたからおちびだと思ったんだよ。」


「それって……」




ひどく動揺していた。


リョーマにそっくり。テニスバックを背負ってストテニ場へ向かった姿。


心臓の音がどんどん速くなっていくのが自分でも分かった。




「菊丸先輩 桃ちゃん先輩ちょっと俺らの練習見て下さいよー!」


「お?りょーかい今行くー!」


そのとき、後輩の1、2年に呼ばれて英二と桃がその場を離れていった。


リョーマがじっと私を見つめる。


「先輩。」


「…………。」


「あきら先輩。」


「…っえ、あ、ごめん。何?」


ぐるぐる廻る思考回路に夢中で反応が遅れてしまった。


私を見つめるリョーマの目が真剣な色を帯びる。




「さっき俺と話してたとき……俺の顔見て誰のこと思い浮かべてました?」




「 ! 」


リョーマの言うことはいつも鋭い。


私の額から汗がひとつ流れ落ちた。


「誰……って……。」


「……アイツが今日本にいるとは思わないけど……気になるなら、行ってきたら?」


「…や、でも……あり得ない、でしょ…?」


「って、言うくせに希望が捨てきれないんでしょ。落ち着かないなら確かめてくればいーじゃん。」


「…………。」




この2年、会いたくても会えなかったあいつ。


……もう一生、会えないと思ってたあいつ。




「リョーマ……ごめん、帰る!練習頑張って!」


「ん。言われなくても。」




言葉を言い終わらないうちに私の足は動き出していた。















ストリートテニス場は学校の近くだった。


じりじりと焼けつく暑さの中、息を切らしながらコートがある場所への階段を上る。




―――スパーン!……パシン……ッ




(ボールの音……。)


コートの方から打ち合ってる音が響いてくる。


まだ見えてこないコートに期待感が膨れ上がった。




(本当にあいつ、なのかな……)




早く確かめたいような、確かめたくないような。


随分ゆっくりとした足取りで階段を上り、もうすぐというところだった。




「あれっ女の子がいる!」




「っえ、」


いきなり後ろから肩を掴まれた。


振り向けば、そこには全く面識の無い高校生らしき男子。


「こんな所に女の子一人なんて珍しいねー。テニスしに来たの?一緒にやる?」


「え、や、別にいいです。テニスしに来たわけじゃないし…。」


「いーじゃん一人じゃ寂しいっしょ?俺んとこに混ざりなよ。」


「ちょっと…!」


肩に乗った手を振り払えば、今度は腕を掴まれてしまった。


もう片方の手が素肌のままの私の腕に慣れ慣れしく触れてくる。


気持ち悪い!


「離れて下さい!」


「あ?女1人でこんなとこ来といて何言ってんの?」


にやにやとした顔で強く引っ張られた。どうしよう、男の力に逆らえない。こんなところで足止めくらってる場合じゃないのに…!


そのときだった。






―――スパン!






「っっいってえ!!」


「!?」




ひとつのテニスボールが私を掴んでいた男の顔面に飛んできた。


コートの入口にラケットを持った誰かが立っている。


顔が逆光で見えない。………けど…








「昼間っからさかってんじゃねえ―――よ。」







「――……、」


……その声には、聞き覚えがあった。




忘れようとしても、忘れられなかった声。






「 ……リョーガ… 」






私は目の前に立つ人物にくぎ付けになった。




「……よう、あきら。」




変わらない声。


身長は……ちょっと伸びたのだろうか。


2年前と同じ、どこかスカした表情で彼はそこに立っていた。




私の心臓がまわりに響きそうなくらい鳴っている。


まるで幻でも見たかのような顔をしてたと思う。




「痛えーじゃねえかよふざけんなクソ野郎!!」


「!」


そのときボールをぶつけられた男がリョーガに掴みかかった。


「おっと…!階段で暴れたら危ないデショ……っと」


「うわっ!?」


それをひらりとかわしたリョーガはさっと男の足を跳ね上げる。男が派手に転がった。


「逃げるぞ!」


「え、ちょ…っ」


そしてそのまま私の腕を掴んで、私の返事も聞かぬままコートを離れて林の中へと飛び込んで行った。
















しばらく走って随分離れた所までやって来た。私を掴んでいたリョーガの手がぱっと離れる。


リョーガがくるりと振り返って、にやりと笑った。







何か、やばい





「………久しぶり」


変わらない声。変わらない話し方。


2年も会ってなかったのが嘘のような、相変わらずの馴れ馴れしさ。


私は目の前にいる人物をまだ幻のように見つめていた。


ずっと求めていたはずなのに理解が追い付かなくて。何か喋ろうにも言葉が出てこなくて。




「すっかり女らしくなってんじゃん、あきら。」


「リョ…ガ……。」


「……なに化けモンでも見たような顔してんだよ。」


ハハッと乾いた笑いをもらせば、「あっちー」と呟いて木の根本へと腰を降ろす。


私はまだ尚茫然としていて、服の襟もとで汗をぬぐうリョーガの傍らでただその様子を眺めていた。




「……元気だったか?」


「……え」


「この2年、さ。」


「…………。」




リョーガの目は私を見てはいない。


どこか懐かしそうに空を見上げて、私に問いかけてくる。


「元気……だった。」


「ふーん、そりゃ良かった。」


まるで他人事のような会話。


強張っている表情の私とは逆に、相変わらず余裕を見せているような彼の表情に


安心するような不安になるような 妙な気分が襲ってくる。


「この2年……」


空を見ていたリョーガの目が、ゆっくりと私に振り向いた。






「俺に…………会いたかった?」






「……!!」




どこか余裕のある表情。


いつも人を嘲っているような態度。




でも、目は笑っていなくて。




私の思考は全てリョーガの視線に持っていかれた。





「……っ会いたかったに……決まってんじゃん!!!」




気付いたら叫んでいた。


「自分だけどっか消えちゃって、連絡とる手段なんかなくて!」


「…………。」


「日本にいるかも分からない、……っ生きてるかも分からない…!もう一生会えないと思って、諦めようと思って……でも無理で…っ」


拳を握りしめて、涙が流れないように堪えた。


自分だけこんな必死になって、涙なんて流してたまるか。


だけど頭の中はぐちゃぐちゃで もう何を言いたいいのか分からなくなる。


私はそのまま膝を抱えてしゃがみ込んだ。


「……っ」


「……あきら。」


「あんたが言ったんじゃん…!」


「…………。」




「忘れんなよって、あんたが言ったんじゃん!!!」




しばらく風の音だけが沈黙の時間を流れていた。


ふと、リョーガがまた乾いた笑いを漏らす。


「……!?」


「笑っちまうな。」


「な……」


一瞬馬鹿にされたのかと思った。


カッと熱くなった顔を上げて、リョーガを見れば。


「……!」




どこか寂しそうな、嬉しそうな、そんな顔。




「…………俺さー……。」


やっぱり私の目は見ずに話し出したリョーガ。


どこか自嘲気味に笑う。


「あの時お前らと別れた後な、やっぱりまた外国を転々としてて。まあそこそこ贅沢な生活はしてたな、生きてく術は知ってたし」


「…………。」


「金には困んねー。テニスだって出来る。女も寄ってきた。」


私の胸がちくりと鳴る。


……そんなの、いくらだって予想してた。


「だけどよー…。」


「……?」


「……どんだけイイ女が寄ってきたって、満足に抱けもしなかったぜ。」


リョーガの視線が、私の視線と絡む






「……お前の顔が、チラついた。…………いつも。」






余裕の欠片も、嘲りの色も何もない瞳がそこにあった。


私の涙は勝手に溢れていた。




「なにそれ…」


「…………。」


「そん――っ…」




急に視界が無くなった。




……力強く引かれた腕が、


痛いくらいに力のこもった腕が


全てだった。






「あきら」






肩に顔を埋めたリョーガが私の名を呟く。








「        」








「〜〜〜っ……」


流れる涙なんてもうどうでもいい。




今この手に触れていること。


そこにあなたがいるということ。




ひたすら確かめるように。


やっと捕まえた熱を逃がさないように。


強く、強く


私たちはただ 抱きしめ合っていた。














「 会いたかった 」















END





2年前とは2人のサムライのことです。
あの2日間(でいいのかな?)にこの2人がどんな出会いをし恋に落ちたのかは分かりませんが笑
いつかそのエピソードも書こうかな。笑

初リョーガ夢お粗末様でした。