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長かった夏が  終わる












君とみた夢













軽く汗ばんだ体に心地よい海風が吹く


もうあまりひと気のない海岸は、まだ微かに夏の香りを漂わせ 静かにそこにあった。




「もう海遊びも出来なくなるなぁー……」


「……うそ、季節なんていつもお構いなしのくせに」



私がおかしそうに笑うと、目の前を歩くサエも「まぁそうだけど」と私を振り向いて



「でも、もう俺らは受験だしさ」



ちょっと まゆをつり下げて笑った。


「―――……」








全国大会まさかの初戦敗退。


非情な相手のテニスに 我が六角は成す術もなく――……







「青学とか羨ましいよな。エスカレーターだからみんな一緒だし。」


「私達もどうせ六角高じゃん。」


「勉強はしなきゃだろ?」


「まぁそうだけど……」




夕日のせいか、海が静かなせいか。


サエの背中が何だか寂しく見えた。




「……引退……か。」


「…………」


「負けたんだな……俺達」


「――っ……!!」




耐えきれなくなって、後ろからサエの背中に抱きついた。




「……あきら」


「だっ…だって……!!」


「……………。」




私の目から勝手に流れる"それ"は、サエのワイシャツを徐々に濡らしていた。


サエは始めこそ驚いた声を発したものの、体を捻って私の頭を静かに抱き寄せてくれた。




「ひ…っく……」


「あきら、終わったことだろ?」


「それでも……っ早…」






早かった。


私達の『終わり』というもの。


3年間止まることなく駆け抜けた その終止符。


あまりにもあっけなく あまりにも唐突で―――



それでも 君は







「サエ……最高にカッコよかったよ…!! 誰よりも、ずっとずっと…!!!」


「………ありがとう…」







それでも 君は


最後まで その瞬間までコートに立ち続けた


闘志を胸に宿らせ
 

仲間と自分のために その戦場に留まり続けた















「………っ」







私の手に、小さな……




「……待って!!」


「……っ」




顔をあげようとした瞬間、私の頭を抱く手に遮られた。


その手は 微かに震えている。





「……見ないで…」



「……サ」



「ちょっとの間だから…!!」






誰もが悔しかった。


誰もが現実を受け止めたくなかった。


流れる涙を止める者はいるはずもなく―――


それなのに、君は泣かなかった。


自分だけは泣いてはいけないとでもいうような
 

あの鋭い目に 本当は何を想っていたの?













「もっと……みんなとやりたかったな……テニス」


「うん」


「もっといろんな奴らと戦いたかった……」


「うん…!」




「悔し……かった…!!」




「……っ!!」








思い切り抱きしめ、私は大声で泣いた。


サエの涙の熱を 腕で、体で、全てで受け止められるように









「うわぁぁああぁん!!!」




















私達の夏は終わった。



そして、走り続けたあの日々も。



眩しく光り輝くあの場所に もう戻ることは出来ないけれど



まだもう少しだけ感じさせてください、あの季節を






まだもう少しだけ






想いの涙を。











END





青春青春した夏も好きですけど、青春の終わりも好きです。