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いつか君は 俺を見てくれるだろうか









君想い








「こら!部長が何やってんの!!」





「ぅえ……何でいんだよ。」


「わざわざ探しに来たんでしょ!?」


天気の良い午後は屋上でサボるもんだと相場は決まっている。


俺も例外ではないわけで…………むしろ進んで来たけど。


最高に穏やかな時間を楽しんでいたというのに、容赦なく邪魔しに来たあきら。


遠慮なしに説教してくるが、ひとつおかしい。




「…………あきら。」


「何よ?」


「何でお前は今ここにいるんだよ?」


「………………。」




最初に言っておこう。


今は5時間目が始まったばかりだ。




「…………サボっているからです。……あは。」




あきらはさっきの険しい表情から、ペロッと無邪気に舌を出す。


俺はひとつ溜息。


「ああもう、あきらに説教された俺って何だ!?」


「ひとりで抜けがけした罰だもーん」


「誘わなきゃいけないなんて無いだろ!勉強しろ勉強!」


「はい!?どの口が言ってんのよ!」


あきらは颯爽と俺の隣に来れば 腰を降ろした。


「赤也だけこんな天気の良い日にサボるなんてズルい!誘ってくれてもいーでしょっ」


「だったら一人でどっか行け!」


「私は赤也と一緒が良かったの!!!」


「……っ!?」


「って、いうかー、用あったんだよね!
あんたまだ今度の高等部との合同練でやる試合のオーダー表出してないでしょ。ちょーだい。」


「…………。」


はあ。またひとつ溜息。


俺って馬鹿。


何を期待したんだ一体?


「今ねーよ。教室の鞄の中。」


「あ、出来てはいるんだ。偉い偉い!」


「お前俺を何だと思ってんの?」


「あー楽しみだなー!先輩たちに会えるの久し振り!」


「この間遊び来てたじゃん。」


「試合してるとこは久しぶりだもん!」


俺はあきらの顔を見つめた。


あきらは先輩達に会えるのが楽しみと言う。


俺だって楽しみだ。去年まではずっと一緒に過ごしてきた仲間だったんだから。


そりゃー寂しくもなるんだ俺だって。


でもあきらは、きっと違うことを言ってる。


あきらは、多分、まだ――――


「ブン太先輩 今年シングル頑張ってるんだってね!今度もシングルで来るかな?赤也の相手かもねっ」


「…………。あー……かもね。」


「なにその気のない返事ー!楽しみじゃないの?」


「あきらは楽しみ?」


「楽しみに決まって」




「ブン太先輩に会えるの。」




あきらの動きが止まった。


一瞬の間のあと、小さい声で問われる。


「……それ、どういう意味。」


「まんま。」


「…………。」


あきらはしばらく俺を見つめたあと、ムスっと頬をふくらました。


「赤也……あたしがまだブン太先輩のこと好きだと思ってる?」


「実際そーじゃん。」


「好きだけど、そういう好きじゃない!」


「じゃあどういう好きだよ。」


「先輩として好きってことに決まってんじゃん!他の先輩たちと同じように!」


「………どーだかー」


「っっ……!!」


あきらはみるみる顔を真っ赤にしていった。……あ、やべ


「赤也のバカっ!!」


「っって…っ!!はあ!?ンだよ!!」


俺の背中に容赦ない蹴りを一発かましたあきらは、ばたばたと屋上を出て行った。


…………すげー痛いんすけど……。


「くっそ………確かに馬鹿だな俺……」


今日何度目かの溜息をついて、ぱたんと仰向けに倒れる。


「でも本当のことじゃねーかよ……」


俺の呟きは真っ青な空へと消えていった。
















先輩たちが卒業してから4ヶ月が経つ。


ずっとブン太先輩に想いを寄せていたあきら。


告白はしなかった。……先輩にはすげーお似合いの彼女がいたから。


卒業式で寂しくてわんわん泣いてたあきらが懐かしい。


ブン太先輩はあきらを妹みたいにめちゃくちゃ可愛がってたから、


あきらにとってブン太先輩は“好きな人”ってこと以上に生活から消えるなんて考えらんないくらい大切な人だったんだ。


それが…………もう好きじゃなくなった?




「……そんなワケあるかっつーの。」




人の想いがそんな簡単に消えるもんか。




…………俺があきらへの想いを消せなかったっつーのに。


























「今日はよろしく頼むよ、赤也部長。」




「……そーいう言い方やめまショーヨ」


わざとらしく俺の名前を部長呼びした幸村(元)ブチョーは、高等部でも当たり前のように1年から部長に就任した。


立海テニス部の高等部となったらもちろん猛者揃いだってのに全く恐ろしい人だ。


副部長ももちろん真田副部長。これはたっての幸村部長の指名らしい。相変わらず良いコンビ。


「……シングルス3、ブン太先輩なんすね。」


「そう。シングルスもなかなか頑張ってるんだよ?赤也の相手は僕だね。よろしく。」


「っす、」


「残念だなあー、ブン太先輩と赤也の対決見たかったのに!」


「そう言うなよあきら。部長対決だって結構面白いだろ?」


「そうですけどー、私的にはやっぱイチオシはそれじゃないですか!」


「相変わらずブン太が大好きだねあきらは」


はははっと笑いを漏らす幸村部長。


……ちょっとそのセリフ俺には大分効いたんですけど。


「あきら!今日は俺のシングルスデビューだぜい、よーく見とけよー?」


「もちろんですよー!でもあたしはちゃんと中等部の応援しますけどね!」


「うわ、薄情者!」


まわりからどっと笑いが巻き起こる。


和気あいあいとしたその雰囲気の中で、自分は引き攣った笑いをしてるんだろうと何となく冷めた心で思った。





















「それではシングルス1の試合を始めます。」


「さて、赤也はどれくらい腕をあげたのかな?」


「余裕こいてると痛い目見るっすよ。」


「相変わらずで嬉しいよ。」




練習試合も問題なく進み、あっという間に俺の番。


これまでの試合結果は全部高等部の勝利。


分かってはいたがあまりにもこう結果に出てしまうと悔しさより苛立ちの方が勝るってモンだ。


幸村部長に簡単に勝てるなんて思っちゃいないが全敗のまま終わるなんて王者立海の名が許さねえ。




俺は随分と力が入ってた。


でもその割に集中出来ているわけでも無かった。


その原因は、コート外の視界の隅に映る二人の姿。




「赤也ー!頑張ってー!」


「幸村!赤也をこてんぱんにのしてやれー!」


「コラ丸井何でお前は中等部ベンチにおるんだ!お前はこっちで応援だろう!!」


「かーたい事言うなって真田ー!」


「いや丸井先輩、居るのはいいけどこっちサイドで高等部の応援しないで下さいよ…」


何故か中等部ベンチででっかい声を張り上げてるブン太先輩に中等部のメンツが苦笑いをする。


もともと後輩好きな先輩だし中等部の空気が懐かしくて嬉しいんだと思う。


でもやっぱりあきらのそばに行くのは、本当に二人の仲が良かったからだ。


あきらも嬉しそうに先輩の横ではしゃいでいる。




「……うぜえ…っ」




益々イラついた。




「……赤也、打球が随分と雑だよ?」


「敵にアドバイスなんて余裕こいてていいんす……かっ!」


自分でもゲームメイクが良くないって分かっていた。


でもイラついたこの気持ちを、コントロール出来るほど俺も大人になりきれなくて。




「!! 赤也……ッ!!!!!!!!」


「……ッ!!?」




幸村部長の鋭い打球が散漫になった俺の注意力の隙を突いてきた瞬間、俺の意識は闇の彼方へと消えた。

















「…………う…ッ……ん…?」




「! 先生、気が付いた!」


「あら、ほんと?良かったわー大事に至らなくて。じゃあちょっと連絡入れてくるわね。」


「………?」




次に気がついたときには、俺は保健室のベットに横になっていた。


頭の上ではあきらが顔面蒼白で俺を見降ろしてて。


「バカ赤也!全然目覚まさないから心配したんだよ!?」


「……え、俺……?」


状況が把握できずにいる俺は、未だボーっとする頭で必死に記憶を手繰り寄せた。


「幸村先輩の打球 諸に頭にくらったんだよ。先輩も容赦ないっていうか……凄い吹っ飛んだんだからね?」


「………うわ、」




情けない。




恥ずかしくなって腕で顔を隠した。


試合中に好きな奴のこと考えてて怪我?……どーしちまった、俺。


…………なんて、この気持ちが、どうにもならねえことだなんてとっくに自分で気付いてることで。


「さっきまで他の部員や先輩も様子見に来てたんだけどねー。先に帰ってくださーいって帰ってもらった」


「……何でお前は残ってんの。」


「はあ?私が残らないで誰が残んのよ。選手のケアはマネの仕事です。」


「…………。はは…っ」


「? 何よ文句あんの?」




『マネージャーだから。』


そういうことなのに、それでも嬉しいと思った自分があまりにも単純で。




「もう16時なるからさ、辛いかもしんないけどとりあえず帰る準備―― 」







「…………好きだ、あきら」







あきらの顔が凍りついた。


俺の荷物をまとめていた手が止まる。




もう駄目だ。


どうしたって無理なんだ、


この気持ちを抑えておくなんて。




「……お前がブン太先輩のこと忘れられなかろうが何だろうが、……好きなんだよ……」




「………………。」



無言のまま何も返してこないあきら。


あきらの顔が見れなくて、顔を逸らしたまま俺は体を起こした。


「…………悪い、帰るっつってたんだよな。俺は一人で帰れっからあきらは先に―――」


「………っ!!」


「…う、っお……!!??」




……………押し倒された。あきらに。




「ちょ、何お前何してん―――っ」


「赤也の馬鹿!!」


「あァ!!? ………!」




泣いていた。


俺を押し倒すあきらの目から、ぽろぽろと零れる涙が俺の顔を濡らす。




「えっ、ちょ、なん……っえ!?」


俺はあからさまに動揺して、押し倒されたまま何も抵抗出来ず。


なんて言葉をかけたら良いかも分からずにただ茫然とあきらの顔を見つめていた。


あきらは涙を流したまま口を開いた。


「あんたどんだけ鈍いわけ!!!??」


「にっにぶ……??」


「私にどんだけブン太先輩のこと引きずらせたいのよ!」


「だって実際そーだろ!!!」


「違う!私が好きなのはお前だ赤也ばか!!!」


「ばっ!?お前それ二度目……っ、………っえ、?」




今度は俺の顔が固まる番だった。


目を見開いたままあきらの顔を見つめる。




「もうとっくに私は赤也が好きなんだよ………気付いてよ」




信じられない、


なんて、本当は言いたくもなるけれど。


言えなかった。


あきらの顔は、涙は、嘘を語っているにはあまりにも不釣合いだった。




「……………ンだよ、それ……俺……信じるぞ…?」


「……何よマネージャーの言うこと嘘だと思ってんの……」


「だって、まだ、4ヶ月だぞ!4ヶ月しか経ってねえのに………あんだけブン太先輩のことが好きだっつってたのに!」


「その間!!…………私の傍にいたのは、……赤也だよ…?」


「……………。」


俺を抑える手にぐっと力が籠る。


頭の中が混乱していた。


俺の目の前で涙を流す俺の大切な女の子。


混乱した頭のままでも、抱き寄せずにはいられなかった。


「なんだよ………ふざけんなよ……なんだよ…!」


「ふざけんなはこっちのセリフだっつーの……ずっと勘違いしてたくせに……」


「するだろ普通……」




2年間、俺はあきらがずっとブン太先輩に想いを寄せていたことを一番近くて見ていた。


あきらが一喜一憂しながらブン太先輩の話をするのを聞いてたのは俺なんだ。


なのに………




「夢だったら覚めないでくれよ……」


「……勝手に夢にしたら許さないからね。」


「馬鹿野郎、俺が、いつから……。気付かなかったのはお前のくせに勝手なこと言いやがって」


「……うん。」


「……ずっと、好きだったんだ。俺はあきらが、好きだ。」


「うん…!」






ずっと共に過ごしてきた。


一緒にテニス部に入って、練習が辛くて、死にそうだった時も俺の傍にはあきらが居た。


お互い部活の愚痴や相談もした。あきらの恋愛相談にも乗った。


部長なんて慣れないモンになって危なっかしい俺をひたすら支えてくれたのはあきらだった。


あきらがブン太先輩のことを好きだろうが何だろうが、俺にはあきらの存在がただ大切だった。


叶わないと思っていたのに、これが夢じゃないなんて、どうやって信じたらいい?






まるで引き寄せられるようにあきらの唇に口付けをした。


一回したら止まらなくなって、何度も何度も唇を重ねた。


俺の腕の中にいる存在を確かめるように、痛いくらい抱きしめた。


いつの間にか俺の目からも涙が流れていたことにも気付かずに。




「……赤也の泣き顔、去年の決勝以来だね。」


「泣かせた責任取れ」


「ちょ、待った、これ以上は無理!もう先生戻ってくるってば、!」


「知らねえ煽ったのはお前だ」


「無理だっちゅ―――の!!!」


「ぐえっ!!?」


押し倒されたままだったのが何だか気に入らなくて、押し倒し返したら鳩尾を蹴られた。


ベッドの端で腹を抱える俺にあきらがぷっと吹き出す。


俺も何かアホらしくなって笑い出す。


…………馬鹿みたいだ。




俺らは、ただの馬鹿だった。




「もうブン太先輩になんかぜってえーやらねえからな。」


「私を泣かせたら怒るのはブン太先輩だからね」


「え、何それすげー腹立つ」


「ふふっ、」







俺の大切な大切な女の子


もう一生離してなんかやらない。










俺たちは、これから始まるんだ。










END





設定裏話ですが、丸井ブン太夢の「恋唄−こいうた−」の続編なつもりで書いてみました。
あの卒業式の日 見守っていた赤也が秘めていた恋心のお話です。