Koneta! | ナノ
皮の、そう、1人掛けのチェアは笑いが起こる程重厚でどっしりとしていてやたら座り心地が良くて…まるで目の前の男の雰囲気そのままだった。
長い足を優雅に組んで、頬杖をつく姿は大理石で誂えた像のようにも見えた。……薄暗がりに赤みを帯びたライトの光と彼の陽に焼けていない肌はよく合っていて、錯覚してしまう。

「…何を緊張しているんだ。」

向かい合わせの女があわあわしている姿が愉快なので、この男は機嫌が良い。いや、この女がいれば例え泣いていようが笑っていようが機嫌が良いのだ、この美丈夫たる男は。

「だって、こんな大人っぽくてシックなお店入ったの初めてで…。」
「成る程、な。……注文だ。」
「かしこまりました。」

歳下の恋人の緊張感など可愛い手なぐさみの一つ。男はバーテンを呼ぶとメニュウをジャズのリズムにでも乗せようとしているのか……てきぱきと選んでいた。

「何が飲みたい?」
「……えっと、えっーと、ですね。」

メニュウを開いたところで見慣れぬ文字の羅列ばかり。カルアもカシスも見当たらない。
ダイキリ?
アティ?
ホワイト・レディ?
味も見た目も想像できないものばかり。あまりキツイお酒は酔っ払ってしまうからなるべく、甘い、ものがいい。
まぁ世の中にはレディ・キラーなるものもあるけれど。

「あの、あ。」

困り果てて、それでも知っている文字を見つけて彼女は一息つくとこれにしようと顔を上げる。バーテンに向かって口を開けば曲調が変わってジャズはピアノの旋律を紡ぐ。

「シェリーにします。」
「……。」
「かしこまりました。」

顔を上げた、男は、バッカスと踊っていないというのに急に瞳の奥に熱を貯めていく。バーテンは弧を描く笑みを、ひとつ。
かつ、と革靴を打ち鳴らしてシェイカーのもとへと行く影は見ず男が熱を向けるのはキョトンとした顔の女。
たった一人の己のおんな、であった。

「ホテルを取るか。」

上等の、このおんなの美しい髪が散らばるに相応しい真白のシーツがある場所へ。

「え?…ホテル…?」
「今夜は寝れると思うなよ。」
「はいっ?」

彼女がその意味を知らないのは百も承知。
だが己以外に同じ真似をさせてはなるまい。たっぷりと二度と忘れないように教えこまねばなるまいて。

「シェリーの意味を教えてやろう。」

酒の意味する言葉を。
おんなの誘惑を意味する、それを。
受けるのは己ただ一人で良いのだから。

「ミホーク…?」
「おれの前でだけ、シェリーを飲め。いいな?」





※イメージ画像はツイッターにて。
※シェリー酒の酒言葉は『今夜OKよ(はあと)』
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