Very sweet torte's ※ホルホルミンゴですよ ※ゆりゆりしてるよ 桃色をまとい、悪魔のように微笑むひとが彼女の恋人なのである。 「貸し切りにする予定だったんだけどね!」 「いえいえ、そんな恐れ多い…っ。」 「そう言うと思った。」 悪くない寧日だ、小洒落たフォントの看板と所謂『乙女受け』のいいカラーリングの店内、それと甘っぼったい…いっそメロドラマのワンシーンを思い起こさせる砂糖と果物のかおりで店内は満ちていた。バイキング、いやこの雰囲気はビュッフェと言った方が似合いだろう、目配せすれば色とりどりの料理が飾り立てられ並んでいる。 『遊びに行きましょうなまえ』と小脇に抱えられ、それからご予約をされていらっしゃいますドンキホーテ様ですね、と問われたまでの時間は随分と短かった。島二つ程びゅんびゅんと『彼女』の能力で文字通り飛んだものだから…さもありなん。 息切れひとつも見せない長身の彼女は意気揚々、ようやっと平静を取り戻したなまえの手を引いて席へと案内してやるのだった。 「グラタンよりもパスタよりもケーキを食べるべきよお嬢チャン。バレンタインにはチョコレートを食べる決まりがあるんだから。」 「……ふふっ、それはドレスローザの法律なの?」 「法律にしなくても皆勝手に食べるのよね、これが。人間ってのは欲には忠実よ、ワタシはそういうトコ、とっても好きだわ。」 かくいうワタシも欲には忠実よ、お姫様に仕える騎士に勝てるくらいにはね。ジョークをぽい、メニュウ表となまえに投げかけていた。 中々の盛況ぶり、賑やかしい店内で人は多い。なまえの恋人は行き交う男女を眺めつつ始終ご機嫌だった。ドレスローザだとこうもいかない、気軽にあの国で羽を伸ばせないのだ。ははあさてはわざわざ他島までなまえを攫ったのはこの為か。 「バレンタイン・フェアをしてるってヴェルゴから聞いてね。」 「えっ、」 思いがけない名前を聞いてなまえはぱちくりと瞼を動かしてしまう…そうして恋人見つめればすべからく悟った様子で『あれはあれで気を効かせてくれてるのよ』とエナメル眩しい犬歯を覗かせたのだった。 「ここの美味しいのよ、とぉってもね、シュガーのお墨付きだから間違いないわ。…さて、折角だからチョコレート系いっぱい食べましょう!」 「いちごが乗ってるのもいいかも。チョコレートと合うよ。」 「じゃあそれも。」 「食べ過ぎちゃったらどうしよう?」 「それじゃあ半分こね。…なまえ、『あーん』がやりたいわ!」 ケーキが並ぶトレイまで取りに行くのもまた楽し。ウェイトレスからバイキングの注意事項とシステムを聞いて、恋人達は席を立ったのである。 なまえはラズベリーソースのチョコムースケーキ、もう一人は濃厚なザッハトルテ、それから飲み物を。女の子たるもの昼間っから酒を…最高に合うウィスキーを飲んだりはしない、おままごとそっくりのミルクティーをカップ二つ引っさげて席に戻るのだった。 「バナナタルトも持ってくればよかったわ。」 「また取りにいこうよドフィ。」 「今度はチョコ・ミルクレープとナッツのやつも。」 「ふふっ、いっぱい食べるねぇ。」 「『欲望には忠実』だもの、ワタシ。」 それでは『いただきます。』 フォークを動かしながら、トルテを割って突き刺して。甘ったるさに酔いしれてしまえばつま先はリズムを刻むのだ。なまえのはベリーソースが酸っぱかったらしい、口をすぼめていたと思えばチョコムースを口に放り込んでいた。 「フッフ!そんなに酸っぱかった?」 「…ミルクティーで口が甘かったから余計に、かも。食べてみる?ムースと一緒だと丁度よかったよ。」 「んっ。」 ケーキの乗っている皿を差し出そうとするなまえに対して恋人はぱかりと口を開けるのみである。そういえば最初言ってたなぁと、妙に可愛らしいワガママを始めた彼女にくすくすと微笑みが溢れてしまうのであった。 普段は歳上のひとで、相当に頭の回転がよくて不敵な笑みがよく似合うのに…こんな少女の様な素振りも可愛いなんて。 まあ該当者から言わせれば『なまえだけにしか見せないし、しないわよ当たり前でしょ。』であるのだが。 「はいどうぞ。」 「んー…!おいし。」 「お口にあってよかったよかった。」 一口をフォークに乗せて、少々上にある口元に運んで…ルージュが引かれたところはぱくり。と動く。気恥ずかしくもあるけれど女同士だからか、抵抗は少ないし、周囲はさして珍しくもない光景とばかりに通り過ぎていくのだった。 「お礼をしないと。なまえも、ハイ、あーん?」 「…あーん。」 今度はワタシ、とばかりにザッハトルテが無邪気な笑顔と共になまえの前にやってくる。甘いカカオの香りにうっとりして、ついつい瞼を降ろしてしまえば…あら、不思議。チョコレートよりも甘ったるくて、ショコラショーよりも温かくて柔らかいものが唇に触れるのだった。 瞼を閉じているから余計にわかる、ふくりと柔いそれが何か、なんてこれでもかという程教えられている。上の方をちゅるりと吸われて思うのは『ルージュが移ったに違いないわ』。 「うばっちゃった!」 「ドフィ、どふぃ、はずかしいよ…っ」 「恥ずかしがるなまえが見たかったの、フッフッフ!」 「いじわる、もう、もぅ…!」 「すねる顔も大好きなの、ケーキよりもムースよりも甘くて柔らかくてラズベリーよりも赤くなっちゃうなまえが可愛くてしかたないのよ。」 可愛い可愛いワタシの恋人とワタシが『オトモダチ』同士に見られてるから、アピールもしとかないと!悪戯が成功してご機嫌は最高潮、緩む口角をそのままにフォークをくるくると回している。 「…なまえはワタシみたいな性悪はお嫌い?」 「……。嫌いになんて、ナレマセン…」 「フッフッフ!知ってるわ、知ってますとも。ワタシも同じ気持ちだからよく分かるの、本当よ。」 そう言って今度こそザッハトルテを小さな口の、その舌の上に乗せてやったドンキホーテ・ドフラミンゴ女史は全くもって!小悪魔の微笑みがよく似合っていたのだった。 【ごちそうさま】 |