リア充の祭典 | ナノ
「Presento for you」with Low
not涙のお嬢さん。
※敬語が口癖な女の子ですよ。


  酒に酔った勢いというのだろう、この場合。いやはや勢いとはそら恐ろしいものがある、と思う我ながら。
  特に今日の様なイベント事の夜など最高潮、みんな有頂天になってクラッカー鳴ってカクテルが喉で鳴って、まあ兎角これだけ音が響けば普段自制している箍だってがたがたに外れやすくなるに決まってるのだ。

「なぁっ、なまえはプレゼント何もらうんだ?」

  勿論キャプテンから、と四杯目のビールを煽ったシャチは赤ら顔、ソルティ・ドックと仲良くしていたなまえを上機嫌に見やる。ウチのキャプテンにそれはもう大事大事にされている女の子だから、それはもうトンデモナイ目ん玉飛び出るようなプレゼントを貰うのだろう。

「…それが内緒にされておりましてね。」
「ニクいねェ流石キャプテン!」

  っかー!と大袈裟にジョッキを振ってならばとシャチはなまえにずいと顔を寄せるのである。酒臭いですよもう!と彼女が言わないのは彼女もまたグラスを五回程空っぽにしてしまっているからなのだ。

「なら、何がほしい?」
「…そうですね…。」

  そしてふうむ、と小首を傾げるなまえである。プレゼントを貰えるのは当然ものすごーく嬉しい事である、そしてそれと同時に恐縮してしまうものもある…必要な品物は大体かのキャプテンが買い与えてくれているのだ。

「ローさんが心を込めて贈ってくださるんです。私は何だって嬉しいですよ。…あ、でも。」
「でも?」
「いちばんの贅沢を言うなら…私、『ローさん』が欲しいなー…なんちゃって。」

  『塩粒まとったワンちゃん』がすっかり口を滑らかにしておまけに軽くしてしまった所為のもの言いである。あはは、冗談ですよーとなまえが片手をひらひら振ろうとしたのではあるが。その手は真後ろにいた、何時の間にか現れた刺青だらけの指に捕まえられてしまったのだ。

「…ヘェ…なまえ、海賊らしくなったな。強欲だ。」
「ひゃあっ、ローさん!」

  突然の登場に素っ頓狂な声を出してしまい、背筋はぴぃん!と伸びてしまう。あれいつ間にとシャチは相変わらずお気楽なまま、半分程減ったジョッキの中身をゆらゆら揺らす。

「いいだろう、おまえには特別なモンをやる。」
「とくべつですか、そうですか、身に余る光栄なのですがローさん目が据わってます…!」

  おまけになんともまぁくちびるには悪どさを滲ませ歪んでいる。片手は離してくれず、そのまま指を絡められていくのだった。少し低い男の体温が掌に伝わってきてなまえはどきまぎしてしまう。
  なんたってウチのキャプテンは贔屓目全部差し引いてもなまえが知っているおとこの中で一番艶やかなのだ。
  あぁその流し目一旦止めてください心臓が爆発しそうです。

「先ずはそうだな、この手。なまえが望むまでずっと触れてようか。髪を梳いて、それから頬を撫でて。」

  もう片方の手、その指で男は言葉をなぞっていくようになまえの髪と頬に触れていくのである。カクテルで火照った肌にかの低い温度は刺激が強い、ありありと『彼』が今どこを這っているのか浮き彫りになっていく。

「それと、声。何回だって呼ぶ。…なまえ。」
「はっ、はい…!」
「…なまえ…。」

  蕩ける蜂蜜が声に混ざってしまったのか、そんな途方もない錯覚に見舞われてしまうなまえである。これ以上ない程の甘ったるくて中毒になりそうなおとこの声はいつもより低くて、震えていて、密やかだ。それが鼓膜にとろとろと注がれていく。

「…なまえ。」
「ロー、さん、ひい…!」

  思わず漏れる変な声に喉をくつくつ鳴らす男は中々に意地が悪い。そしてこの男止める気は無いらしく再び口を開いて「こっち見ろ。」と不遜な声を出すのであった。

「眼差しだってくれてやる。」
「…っ。」

  深い瞳の色、その奥に顔を真っ赤にした自分が潜んでいた。焦がれてしまいそう、となまえは言葉の羅列も見失って男に雁字搦めにさていくのである。周囲の音や隣にいる仲間と見えない透明の壁で遮られているようだった。

「まだあるが。」
「いえ、もう私貰い過ぎていっぱいいっぱいです、か、かんべんしてくださいキャパが、私のキャパシティが。」
「…あァ…このままじゃまだるっこいか。」

  目眩を起こしてひさしいなまえを意にも介さず(寧ろたのしんでいるきらいまである)このキャプテンはとうとう熱でぽかぽかし始めた一回り小さな体をいとも簡単に抱き上げてしまったのだ。
  向かい合わせに、距離はぐっと近付いて、おとこの香りでなまえは包まれていく。

「『おれ』を全部くれてやるよなまえ。…お望みのままに。」
「私には身分不相応といいますか、ハードルが高すぎるといいますか、」
「おまえから言い出したんだろう。」
「お酒に飲まれておりまして。」
「本心が出た、と。」
「本心というか、いえ別にローさんが嫌いとかじゃなくてすごく好きなのですけれど、私には刺激が強過ぎといいますか。」
「ちょっと黙ってろ。」
「ひゃ…っ、」

  ぺろ、となまえの口元に残った塩の粒をひと舐め。まるで雪の結晶だといけしゃあしゃあとのたまって。
  口付けで大事な大事な愛しいおんなを静かにさせて。

「おれらはもう戻る。後はおまえらで楽しんどけ。」
「へーい。」
「なまえちゃんがんばれよぅ。」
「…ろろろろ、ろーさん、あのあの、」
「返品はナシだ。わかったかなまえ。」

  また艶やかで悪どい笑みひとつなまえに零すとおとこは自室へと優雅に歩いていくのであった。



END
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