「Love song for Ms.Santa Claus」to You
※童話パロっぽい感じで読んでね!
ここはとある雪の島。空にはオーロラ輝き、緑美しい大樹達は真白の雪に覆われていました。空には青いめだまのこいぬがきらきらと輝いておりました。
おおいぬに急かされて、赤いふわふわ帽子の彼女はもうじき橇の準備をはじめます。彼女の名前はなまえと言います、橇を引いてくれる青いおはなのトナナイはチョッパーと言いました。
彼女はこの島に住むサンタクロースです、可愛い良い子の為に十二月のひと夜、双子の囁き聞こえるお空の下を風切るのです。
「あら、まあ。大変!」
大きなくまのぬいぐるみに一番上等のシルクのリボンを巻いた、その後出来事でした。
暖炉のまきを取りにお庭の裏へ歩いておりましたら、人間が一人倒れておりました。大きな男です、なまえにはとてもじゃ一人で運べません。
「チョッパー君、たいへん、大変なのよ!」
「おや?何ごとなのなまえ。…人が!い、医者ぁ!」
チョッパーは大きくなったり小さくなったり出来るそれはそれは特別なトナカイでしたので大きな男はすぐになまえのベッドに連れていかれました。
「…おれは生きているのか…。」
「よかった人間さん。」
「その格好…おまえこの島のサンタクロースか。」
「はいそうですよ。この森は普通の人間さんは入って来れないのに、不思議な事が起こるものですね。…そういえば昔も一度ありました、小さな男の子がお星様の欠片を拾ってしまって…」
「…。」
「あら、ごめんなさい。びっくりしてしまいましたね。」
「いや。平気だ。」
「よかった、よかった。どうぞ具合が良くなるまでここで休んでくださいね。…あまりお構いできませんが。」
サンタクロースはとても、それはそれはとても忙しいのでした。可愛い良い子達にプレゼントを用意しなければいけませんでしたので。それでもサンタクロースのなまえは、小まめにこの男…青年と言いましょうか、青年のお世話をよくみたのでした。
雪霧の夢に魘されれば「大丈夫よ、大丈夫。子守唄をうたいましょうね。」と夜空色の髪の毛を梳いてやって、お米が好きだと小耳に聞けばお友達の不死鳥に頼み込み、届けてもらいました。
「まあ、まあ。マルコさんこんにちは。この間もわがままを聞いてもらったのにありがとうございます。」
「構わねェよい。なまえの為だ、いつも世話になっているのはこっちなんだから。」
そして今日はイブの午前。こんこんと柊のドアからノックの音が聞こえました。青年は自分以外のお客に驚いて固唾を飲んで見守ります。サンタクロースのなまえが自分以外の誰かとお話ししている姿が気に食わず一人臍を曲げておりました。
「…あぁそうだ、これをなまえに。」
「プレゼント?私にですか?」
「よいよい。頑張ってるサンタクロースが何にも貰えないなんて、あんまりだろう。」
細い筒は夜明け前の海の色をしていました。金色のリボンをしゅるりと開ければ不死鳥の羽がゆうらゆうらと揺れて出てきます、朝空色の不死鳥の羽根ペンでした。
「とっても綺麗、ありがとうございます。」
「おれだと思って使ってくれよい。」
「はい折角いただいたものです、大切に使いますね。」
青年はへちゃむくれ、臍はますます曲がります。おや、と気付いた不死鳥のマルコは珍しい人間を眺めて『変な気は起こすなよ、サンタクロースのなまえに何かあったら氷の海に落としてやるよい。』と言って白鯨達の寝ぐらへ帰って行きました。
「サンタクロース、あの鳥はなんだ?」
「いつもプレゼントを包むお手伝いをしてくれるマルコさんです。今年は十一月の末に来てくれました。」
「もう来ないか?」
「ええ。新しいお年になったら末の弟のお誕生日で忙しいんです。」
「…サンタクロースは手伝いの礼にそっちに手伝いに行くのか?」
「いいえ、あなたの具合が気がかりですから。」
「そうか。」
青年は一安心して、痛む体を引きずってベッドにまた潜り込むのでした。
「おや誰か来たよ、なまえ。」
「あらそうね、いらっしゃいませ。」
青年が寝返りを四回程した頃合いです、再びドアからノックの音が聞こえました。先程の不死鳥よりも軽やかです、『サンタクロースはいらっしゃいますか。』と声も聞こえました。
「こんにちはキャベンディッシュさん、今年は樫の木が倒れたと聞いていますよ、忙しいのにわざわざありがとうございます。大変でしたでしょう。」
「いいや、いいや。サンタクロースのなまえに会う為だ。なんて事はないさ。」
湖の淵に住む妖精のキャベンディッシュでした。水底の碧で色を着けた様な綺麗な硝子の入れ物をそっと差し出しておりました。とろりと光る翡翠に触ってなまえがその蓋を開ければ手荒れによく効く軟膏が詰まっていました。
「まあ、助かります。ありがとうございます。」
「きみの手が荒れてしまうのは心苦しいんだ。」
「いただいていいのですか?」
「なまえの為に特別にあつらえたんだよ。」
にこにこ笑う妖精はそれからおや、と青年に気が付きました。見る見る眉間に皺が寄ります。そして『不届き者が出たらすぐにその翡翠に向かって叫ぶんだよ。駆け付けるからね。』とサンタクロースに言って帰って行きました。青年はまた膨れ面です。
「サンタクロース、あの女顔はなんだ?」
「私がひと夜出かける間このお家の留守番をしてくれるキャベンディッシュさんです。」
「今夜来るのか?」
「いいえ、彼のご近所が樫の木で潰れてしまって掛かりきりなんです。それに今年はあなたがいますから。」
「そうか。」
ゆるゆる微笑むサンタクロースに青年はまた機嫌を直すのでした。
そろそろお昼にしましょうか、そんな声が青年とチョッパーに掛かる頃再びノックの音が響きます。今度は荒っぽくごんごん大きく鳴りました。青年は持っていたフォークを捻じ曲げてしまいそうです。
「あら、こんにちはジャブラさん。…まあ!大きなお肉。」
「いや…たまたまそこで猪を捕まえたんだ、たまたまおまえのうちが近くに会ったしこんなに持ち帰れないから、くれてやろうと思ってな。」
「いつも分けてくださって、ありがとうございます。」
「ついでだ、ついで!」
すっかり照れてしまっているのは狼男のジャブラでした。そしておや、と青年に気がついて…ぐるぐると喉を低く鳴らしたのでした。『サンタクロースのなまえに手を出してみろおまえを頭からバリバリ食ってやる』と言い残し一日中明るい住処に戻って行きました。
「サンタクロース、あの毛むくじゃらはなんだ?」
「プレゼントを配り終えた後のお片付けをいつも手伝ってくれるジャブラさんです。二十六日に来てくれるんですよ。」
「明後日来るのか?」
「いいえ、今年はそんなにプレゼントが余らなかったんです。今年はお手伝いは大丈夫ですよとお伝えしました。それにあなたがいますから。」
「そうか。」
青年は落ち着きを取り戻して、椅子に座りました。柔らかく煮込んだシチューを平らげてそれからゆっくりとお医者様が見るような難しい本を読んでいました。
「それではいってまいります。」
そして一番星が東のお空に昇る頃、サンタクロースのなまえは橇に丈夫で大きな大きな白袋を積み込むのです。この島の可愛い良い子にプレゼントを届けに行く時間がやってきました。
トナカイのチョッパーとサンタクロースのなまえの晴れ舞台です、青い目玉のこいぬが海の向こうに帰るまでなまえとチョッパーも帰ってきません。
青年はどうしてもと言い募って、ふたりを見送りに外へ出たのでした。
「サンタクロースのなまえ。」
「どうしました?」
「前もこうやっておれを残して行ってしまったな。」
「…人間さんをお連れできませんから。それにあなたはまだ小さかったでしょう。」
「あの時はなまえも同じぐらいの背格好だったろうに。」
「そうですねぇ。」
「プレゼントもくれなかった。」
「お星様の欠片を持ったままの悪い子にはプレゼントはあげられません。」
困ったように、とても困ったようになまえは微笑んでおりました。青年はなまえを抱き締めると雪風に冷たくなってしまったくちびるにキスをします。一途な青年に彼女は今度ははにかむとゆっくりと擦り寄るのでした。
青年はなまえがとても大好きなのです、小さかった頃からずっと、もう一度会える事を夢見る程大好きでした。
「なまえ。」
「サンタクロースのなまえからはプレゼントはあげれません、でもただのなまえはあなたに差し上げたいものがあるんですよ。」
「おれも、なまえに贈りたいものがあるんだ。」
「まあ、それは楽しみにしなくては。」
「おれも楽しみにしてる、おまえが帰ってくるのを。」
「…では行ってきますね、私が大好きなロー。」
「気を付けていってこい、おれの愛しいなまえ。」
しゃんしゃんとベルが鳴ります。橇は夜のお空を駆けて行くのです。オリオンが高く歌う頃、愛しい青年によく似た夜色をサンタクロースは微笑みを湛えて風切るのです。
END
※文章の一部を宮沢賢治氏の『星めぐりの歌』から抜粋しております。