リア充の祭典 | ナノ
「I present it」for Low
  最近構ってもらえず、やたら電伝虫とばかり向き合っていたのは記憶に新しい。受話器の向こうは馴染み(大いに不本意であるが)の女海賊であるのはなまえの口から聞き及んでいた。
  そして今日は聖夜。満天より立花が舞い落ちてくる静かな宵海、さなかに浮かぶ潜水艇のとある一室彼らの自室。あまりの驚きに呆然と立ち竦み目を見開いているのは船医兼船長の『死の外科医トラファルガー・ロー』その人であった。

「め、めりー、くりすます、なんちゃって…。」
「……。」
「あの、ロー?」
「……。」
「み、見苦しいでしょう、カ、」

  『この現状を説明してみせよ』
  そんな論文じみた単語の羅列が彼の脳みそで火花の様に先程からスパークし続けている。そんな事おれが聞きたいくらいだ!と自問自答を繰り返してはや三回目。
  いち、何故なまえは一人ベッドの上でしな垂れているのか。
  に、何故そんな…真っ赤な顔を、いや体の肌という肌を赤くして涙混じりの眼差しを向けているのか。
  さん、何故そんな、『さあ思う存分食べてください』と言っているような薄っぺらの服いや、ベビードールをまとっているのか。

「…っ。」

  なまえの肌とコントラストとなるような、クリスマスカラーの一着だった。細い首にはまるでラッピングさながらのリボンがチョーカー代わりに結わえてあって、あぁ、何という光景か!
  脳の中のシナプスというシナプスがフル回転をしていた。…ハタから見れば棒立ちの態ではあるがヒュ、と息を飲んでいるのがよくよく観察すれば見つける事ができる。ついぞこの男が表面に出す顔付きでは無いが今はものの見事に曝け出されてしまっていた。

「…今、何を言った…なまえ…。」
「『見苦しいでしょうか』?」
「違うその前だ。」
「メリークリスマス?」
「その前。」

  間髪入れす言い直しを要求し、ゴクリと喉を大きく鳴らす。足は未だに根を張ってその場から一歩たりとも身じろいじゃあいなかった。

「…あの、」
「あァ。」
「わ、」
「…。」
「『わたしがクリスマスプレゼント』…デス…。」
「…。」

  男、今度こそ絶句。いや決してネガティブな意味では無い寧ろ感情はその真逆の位置にある。
  なまえがその台詞を言い終わったと同時に心臓がぐわんと血液を噴き出し送り出し、どどどとティンパニーが打ち鳴らされそれを切っ掛けに体の内側でファンファーレが、それはもう盛大なオーケストラのファンファーレが響き始めるさながらであった。
  男は歓喜に打ち震えていたのだ、故に今のこの状態は文字通り『言葉に出来ない』であった。

「や、やっぱり、流石に突拍子もなかったよね、大丈夫、ちゃんと他にプレゼント用意してるから、」
「……。」
「ローに似合うかなって、マフラー作ったの。すっごくふわふわな毛糸を見つけてそれで編んでみたんだよ。」
「…ゃ、」
「ロー?」

  すっかり恐縮して困り顔をしているのはなまえばかりである。そもそもこんな大胆な真似事をするには貧相過ぎる体付きだと自覚しているし、ナミやロビンが勧めてくれた物ではあるがこのセクシーな服(?)は申し訳ないが自分には似合わなさすぎた、もっともう自分らしく無理のない範囲でこの大切なおとこにクリスマスの贈り物を差し出せばよかったのだ。
  とまあ先に立たない後悔のようなものをうじうじと頭の隅で考えていたのであった。
  
「編んでくれたのか。」
「うん、そう…。そうだね、プレゼント持ってくるついでに着替えてくるね。この格好は…ハイ、ちょっとクリスマスに浮かれちゃった人間の冒険みたいなものだと思って、そっと胸の奥に閉まっといてクダサイ…!」
「マフラーは貰うなまえの手作りなら誰にも見せずにしまっておきたいが、でも使う。マフラーも当然もらう、が、今…はこっちが欲しい。」
「わっ。」

  棒立ちの体は勢いをつけて動き出す、両手は薄い肩に回り靴は脱ぎ捨てられないままシーツにめり込んでいる。あぁ、泥が、なんて気に留める人間は生憎ここには何処にもおらず勢いよく突っ込んできた男になまえは目を白黒させてしまうのだった。

「おいなまえ、リボンは何処からほどけばいいんだ?」
「えっ、あの、」
「『プレゼント』なら解いて中味を見るもんだろ。」
「でも、この格好、変じゃない?ロー、さっきから口籠ったままで困ってるんじゃ…。」
「言葉がぶっ飛ぶくらいにテメェのおんなが綺麗だったから、固まっちまっただけだ。…言わせんな。」
「ほん、とうに?」
「あァ。それにおんなに誘われて、断るおとこはどこにもいやしねェよ。」

  四つ這いになってぐい、となまえの方に体を傾ければ大きな男の体に小さな女の姿はすっぽりと覆われてしまう。さあこれですっかり逃げられなくなってしまった、なまえはおずおずと真上にある男の顔を眺め見る。
  ローは上機嫌だった、珍しく紅潮した頬はプレゼントを貰って喜ぶ少年のそれで…けれども夜色の髪に隠れながらの瞳二つはぎらぎらとおとこの光を宿している。

「…まずは、これか?」
「ぁ、」

  しゅるり、と首元のリボンを引っ張る手は熱い。節が喉に当たってぴくぴくと小さく震えてしまうなまえに男の心臓の中ではトランペットがフォルテシモでまた響き出すのだった。
  いやまだだ、こんな上等の最高のプレゼントは時間を掛けてゆっくりと丁寧にひらいてやらなければ。まるで義務のように口の中で嘯いてローはリボンをすっかり解いて投げ捨ててしまうのだ。

「…次は、こっちか?」

  ベッドの上にいるのなら横になるのは当然だそうだろう?と決め付けてから僅か一瞬、ローとなまえはぽすんとシーツの白海に身を投げ出していた。『お上品に』足を足で引っ掛けて靴を脱ぎ捨てたローはそのまま、長い足を短いレースをまとったなまえの二本の太ももその真ん中へ閉じる事を許さない、と言わんばかりに割り込んでくるのだった。
  指は肩の頼りないレースに、少々横にずらしてしまえば『プレゼント』の上半身が全て曝け出されてしまうのだろう。

「サカっちまう。…おれをこんなにして、どうしたいんだなまえ…。」

  熱い吐息で囁くのはなまえの真っ赤になった耳だ。ちゅ、ちゅ、と柔らかい耳朶を食んで、熟れた舌でその縁をなぞって…そうしてやれば面白いくらいに涙目になって『ロー』と切なそうに名前を呼んで頼りない力で服を摘まんでくるのだ、この可愛い可愛い『プレゼント』殿は。

「よろこんでほしくて、でもいつも同じだったらまんねりしちゃうって、ナミちゃんに言われて。それでがんばりたくなって、こんなカッコして。でも恥ずかしくって、でもローにこうされるの、本当はすごくうれしくて、」
「最高だ…キチガイになっちまう程興奮してる、」
「体、あつくて、ローの体温移っちゃったみたいで…」

  自分でも何を言っているのか、支離滅裂になりかけのなまえにローは『あァナミ屋達の入れ知恵か。』と納得し…そうして口角をなんとも綺麗な形に歪めてみせたのだった。

「プレゼントはちょっと黙ってろ。」
「…ん、」
「なまえ…このまま食っちまうが、構わねェだろ。」
「…ふ、あぁ、」

  深い深い口付けを交わしながら、おとこは器用になまえの逃げ道をどんどん潰していく。
  そもそもなまえが逃げる事なんて無いのは分かり切っているのに、全く意地が悪いのか用心深いのか。そもそもこのプレゼントは食べ物だったかしらと問うてみてもこの男なら『なまえだから』で全部引っ括めて完結に持っていってしまうのだろう。

「…ぷれぜんと、なのですから、どうぞ受け取ってやって、ください…っ、」
「言ったな。」

  そんな恥ずかしさで消え入りそうな小さな声で挑発されては、いよいよ加減など出来なくなるではないか。

「誰にもやらねェ、おれだけのモンだ。」

  綺麗な綺麗なレースのラッピングはあっという間におとこが剥いで、その中味をどうしたのか。なにぶん夜色に隠されてしまってこの二人以外は知る由も無い。

END
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