十万ヒット企画「ふりりく。」 | ナノ


ポートガス家のお父さん


※捏造お子さんが登場しますよ(名前固定)



  春島の初夏、その海域に入ったよい。といつもの声がした。予定通りお昼前には島に着くみたいでぼくは島に着くワクワクに心臓がドキドキしっぱなしだった。
  そして隣にいたお母さんもご機嫌で故郷のおばあちゃん(ぼくからしたらひいおばあちゃんだ)に教えてもらったという歌を口ずさんでいた。
  今朝もいい洗濯日和だ。

「ありがとうエーデル、大助かりだよ。」
「はーい。どういたしましてー。」
「終わったらお出かけの準備もしとこうね。」
「はあーい。」

  洗濯をするのは新入りの担当らしいんだけどぼくもお母さんも『洗濯班長』の任務をおじいちゃんから言付かっているので今日も元気に石鹸まみれになっている。勿論洗った後はこうやって干すところまでがお仕事だ。
  ぼくが洗濯物の皺を伸ばして、受け取ったお母さんがロープに干していくのがお決まりのコース。ロープまでまだ背が届かないから、だ。「おれがデカイからきっとこれからグングン伸びる」とお父さんが言ってたけど…ほんとかなぁ?

「…お父さん来ないねー。」
「気持ち良さそうに寝てたからねー。」

  ワザと最後の言葉を伸ばすとお母さんも真似っこをして、それからくすくす笑っていた。そうなのだ、だいたいいつもお母さんの近くにいるお父さんの姿がない。実はお父さん、朝ご飯を食べた後ばたんと寝てしまったからここにはいないのだ。起きるのを待ってたけど洗濯の時間に遅れちゃうからコックのおじちゃんに伝言を頼んでこうしてぼくらはここにいる。
  多分もう少ししたら「探したー…」って言いながら来るかな?と思う。
  丁度この時だった。
  別に海軍が殴り込んで来たとか、別の海賊が襲ってきたからとかじゃ無いんだ。

「きゃっ…!」
「わあっ!」

  大波がザバン!とモビーに襲いかかってきたのだ。大きな我が家を揺らすぐらいだから『大波』で間違いない。急だったから変な声が出ちゃったけど正直、怒った時のおじいちゃんの方が何万倍も怖いし、波も一度だけだったし全然大丈夫。ただお母さんが爪先立ちしながら洗濯物を干してたのもあって…よろけて転んじゃったのだ。

「おや、おや…。派手に転んじまったねェ、大丈夫かィ?」
「キレーにいったなー、なまえちゃん。」

  シーツの影からひょっこり顔を覗かせるのはキモノ姿とリーゼントだった(これはポンなんちゃらだ、って教えてもらったけどリーゼントの方が覚えやすい)。
  お母さんは苦笑いして顔に掛かった髪を手櫛で直していた。それから「大丈夫ですよ。」と言って照れ臭そうにぼくの方を見上げる。

「お母さん痛くない?」
「うん、心配してくれてありがとう。エーデルはなんともなかった?」
「へいき。」

  そう言うとお母さんはにこにこ笑ってぼくの頭を撫でてくれる。その後に甲板に落ちてしまった誰かのシャツを拾い上げてから、片手をついて立ち上がろうとしていた。

「なまえ!」
「え?」
「お。」
「来なすった。」

  「あのヒョウロクダマ、やっと起きたのかい」という声に顔を向ければ、バスタオルをぶん殴る様に掻き分けながら走ってくるお父さんの姿が見えた。あ、起きたんだ。
  あ、でも、このお母さん見たらお父さんかなり…。

「…?!なまえ、どうしたんだっ?大丈夫か…!?」
「ちょっとよろけて転んじゃっただけだよ、今立つから…」
「けが、怪我はねェか?」
「だいじょうぶ。」

  お父さんはお母さんに何かあると大慌てになってしまう。すごく心配してお母さんをぎゅうっと抱きしめる。今だってそうだ、お母さんを簡単に抱っこして「ホントか?」なんて言いながら体中をペタペタ触って確かめている。
  お母さん擽ったそうだ、いつもお父さんはお母さんを心配する時はものすごく、全力で心配してくる。

「ここ、擦りむいてる。」
「…ぁ。」
「お母さんけがしてるの…?」

  お母さんが怪我をした。焦ってお父さんとお母さんの顔を順番に見るとお母さんは抱っこされたままぼくに笑って「ちょっとだけだよ。バンソコウ貼れば治っちゃう」と言ってくれた。

「おかあさん…」
「大丈夫だ大丈夫、ちょびーっと擦りむいちまっただけだ。」
「サッチおじちゃんホント?」
「ホント、ホント。」
「エーデル、ひとっ走りしてバンソコウ取ってきてやりな。その間になまえは擦り傷洗っとけばいい。」

  少しだけ困った様に笑うイゾウおにいちゃん(何故かおじちゃんとは言い難い)はぼくの頭を撫でてお父さんにそう言っていた。

「きちんと消毒液で消毒しなきゃ駄目だろ、なまえは医務室行かねぇと。な?」
「んっ、エース、血が付いちゃうよ、それに私歩けるから降ろして…」
「構うもんか。それにまたさっきみたいに揺れたらなまえ、また転けちまうかもしれない。」

  ぼくに話しかけるみたいな言い方になった時はお父さんはテコでも自分の考えを曲げなくなる。お母さんの掌にたくさんちゅーをして、またぎゅうっと抱きしめて、そのまま医務室の方へ歩いていこうとするのだった。

「サッチ、おれ医務室行くから洗濯係りに伝えといてくれよ。」
「…へーへー…」

  何かを言いかけて止めてしまったサッチおじちゃんは肩をすくめてしまっていた。お母さんは困った様にちょっとだけ笑ってるけどお父さんが「腕回して、掌が当たらない様にな」って言うとその通りにしていた。

「エーデルも一緒だぞ。」
「ぼくも?」
「今度はおまえがすっ転ぶかもしれねェだろ?」

  どうもその辺おまえはなまえに似てるから、と片手でお母さんを抱っこしたままぼくの頭をわっしわっしと撫で回す。ぼくが「うん、」と言えば満足したみたいでもっと強くわっしわっしするのだった。
  お父さんはぼくを心配する時も全力で心配してくる、自分ではよく分からなかったけどマルコおじちゃんが言ってたから間違いは無い、はず。

「過保護もほどほどにな、エース。」
「おれはなまえとエーデルが大事なんだよ。」

  お父さんはいつも、こんな風に言う。すごく大事だとか、目の届くところにいねぇと心配で堪らなくなるんだとか、それとぼくがもう少し大きくなるまでは一人で島に行っちゃ駄目とか。
  おじいちゃんがこれを聞いて大笑いして、ジョズおじちゃんが「過保護すぎる…」って大きい溜息を付いていた。
  世のお父さん全員が全員こうなのかなって思っていたけれど…どうにも違うらしい。
  お父さんと手を繋いで医務室に行くまでそんな事を考えて、小さく溜息。ぼくだって色々考えているんだ。
  医務室の中に入ったらナースのおねえちゃん達がいて、お父さんが事情を言ったらお母さんの手当てをしてくれた。その間ぼくは簡易ベッドに座ったお父さんのお膝に乗っかって、やっぱりわっしわっしと頭を撫で回されていたのだった。

「お母さん痛い?」
「ちっとも。…ふふっ、二人ともおんなじ顔になってるよ。」
「…なまえが痛いの嫌なンだよ、おれ。」
「ありがとうエース。でもたいした事全然無いから。」

  「木のささくれがちょっとだけあったけど、それも取ったわ。はい、おしまい。」とおねえちゃんが言ったらお母さんはお礼を言って立ち上がる。掌は小さなガーゼで覆われてた。(お父さんは「ささくれ…」なんてまるでお母さんに剣が刺さってるんじゃないかって事を出していた。)

「なまえ、暫らく水仕事から外してもらえよ。」

  ぼくが膝から降りてもお父さんは立ち上がらない。中々動かないお父さんにお母さんはまたくすくす声を出すと隣にそっと腰掛けていた。とりあえずぼくはお母さんの隣に座る、お父さんとぼくでお母さんをサンドイッチしたみたいだ。

「それに、最近働いてばっかりだろ?頑張り屋のなまえは大好きだけど、体壊しちまったら元も子もない。」
「うん。気をつけます。エーデルもついててくれるから大丈夫。」

  そうだよ、と言う代わりにこくこく頷いてみたけれど、お父さんは「うぅん…でもな万が一エーデルが海にでも落ちるとかな…」とまたもにょもにょ唸っている。
  ぼくだって白ひげ海賊団の一員なのだから、そんなに心配しなくていいのに。マルコおじちゃんにも「筋がいいよい、流石エースのガキだ。」って組手褒められたばっかりなのに。

「ひょっとして、お父さんはすごく怖がりなの?」
「はっ?いや、そんな事はねーぞ?どうしたんだ急に。」

  ポツッとつい口に出してしまったらお父さんはいつもより早口でいつもより大きな声でぼくらの方を見降ろしていた。どうしてそんな台詞を?と言ってるみたいだ
  
「お父さん、ぼくとお母さんがお出かけして独りぼっちになったら泣いちゃいそう。」
「泣かねーよ、いや…もしかして…いや、まさかまさか…」

  「いや、泣かねェ。」と言っているけれどお父さんはお母さんにぴったりくっ付いてそれからぼくに向かってちょいちょいと手招きをしてくる。…指差すところはお父さんの膝の上だった。
  やっぱりお父さん、怖がりで寂しんぼかもしれない。きっとそうだからぼくらの傍から離れようとしないんだ。

「うーん、そうだなぁ…お父さんはね、私たちが心配でそわそわしちゃうくらいエーデルが大好きなの。」
「お母さん?」

  静かだったお母さんがすごくゆっくりとした口調で呟いていた。いつものにこにこ笑ってるお母さんの顔で、お父さんの肩にコツンと頭を乗せている。

「大好きで、大切だから…何かあったらって不安になっちゃうの。エーデルがまだ子どもだから、体が小さいからって理由じゃないんだよ。エーデルのお父さんだからエーデルの事いつも考えてるの。」

 寂しがりやとは、ちょっと違うのよ。そう言ってお母さんはぐしゃぐしゃになったぼくの髪の毛を綺麗にといて、直してくれた。
  そうか、お父さん、寂しがりやとは違うのか。

「そうなの?」
「うん。」
「そうなのお父さん?」
「ウン。…なまえ、その言い方反則…照れる…」
「ふふっ、ほんとの事はだもの。」

  「私の旦那さまとエーデルのお父さんはとっても素敵なひとだよ。」とお母さんはまた言って今度は頬っぺたが赤くなったお父さんの頭を撫でていた。お父さん、子どもになっちゃったみたいだ。

「私も、エーデルも。エースの心配している理由よくわかってるよ、だから大丈夫。無理はしてないから、エースも肩の力を抜いてね。…体を壊したら元も子もない、よ?」
「…うん。」

  そう言って、深呼吸したお父さんはようやく立ち上がるのだった。それからはいつものお日様笑顔のお父さんに戻っていた。そしてぼくをヒョイっと抱え上げるとそのまま肩に乗せてくれた。

「早業肩車…」

  お母さんが面白そうに呟いて、お父さんはそんなお母さんと手を繋いでいた。

「おれ、幸せもんだよな。優しいなまえといいこのエーデルがいる。だからおれの『全部』で目一杯愛したいんだ、おまえらが笑ってくれ度にその気持ちが大きくなるんだ。」

  「だから、おれがまた『過保護だー。』って言われても大目に見てくれよ。」とのんびりした声でお父さんは歩き出すのだった。
  きっとこれからもお父さんは、相変わらずのお父さんなのだろう。


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