きみをまもる、いくつかの手段 | ナノ


▼ 夜の色

押し倒されて、むしるみたいに服が脱がされていった。押し付けられて男の体重が直にのし掛かってきて、息をするのがむつかしくなる。
荒っぽいキスと熱い掌の力、それから切羽詰まった声で身動き取れなくなって、ぽろぽろと涙が零れ落ちていった。

「えーす。」
「いと、いとっ。」

急性なはじまりだったけれども、肌に触れる唇だけは笑ってしまう程優しかった。

「…んぅ、あ、いやぁ、エースッ…!」

激しいの、体と心両方が追い付いていないの。待って待って、お願いエース。受け入れたいのに不器用に愛を伝える男を抱き締め返して包みたいのに、揉みくちゃに揺さぶられて何もかも飲み込む様な深い深いキスを何度もされてしまえば私はなく事しか出来なくなる。

「…ひゃ、ああぁっ!」
「っ!」

ぶるぶると体が勝手に震えて、目尻から涙がいく筋も流れ落ちた感触がした。エースに両手を押さえ付けられたままだから拭えない。その代わりエースの赤い舌が唇からゆるりと出てきて、湧き出てくるもの全部舐めていたのだけれども。

「いとの心をまもりたいんだ。」

確か、そんな台詞だった筈だと思う。曖昧なのはもう頭の中でに霞が掛かって意識が遠退いていたから。
私はすっかり、意識を手放してしまったのだ。
エースの眼差しを確かめられないまま。






「…何処にいく。ストライカーなんて用意して。」
「明日、島に着くだろ。先に行って様子見しとくんだよ。」
「こんな夜更けにか。」
「こんな夜更けだからさ。」
「いとを置いてか。」
「いとを置いてな。」
「…エース、おめェ最近オカシイぞ。」
「マルコ、おれの何処がオカシイんだ?」

白鯨は海面を泳ぐ、ミッドナイトブルーよりも濃い色の中を。
平和な箱庭の様な島を出発したのは昨晩の事だ。それからはモビーは走り続け、今は『海しか無い』海域に差し掛かっていた。
白ひげのナワバリだ、夜明けには到着するだろうと予測は付いていた。

「ちぃと、耳障りな噂を聞いてねい。」
「ふうん。」
「…白ひげのナワバリでお痛をしでかしてる馬鹿が出ているとか。」

素っ気無い相槌を打つエースを意にも介さず、マルコは腕を組んで話を続けるのだった。久しぶりに立ち寄るのは集落がふたつばかりある小さな島だ。
行方不明者が出たらしい。

「様子見ってのは具体的に何をするんだ?」
「危険が無いか調べるんだよ、当たり前を聞くなんてらしく無ェなマルコ。」
「せめて夜が明けてからにしろよい。…いとが心配する。」
「だからいとが寝てる内に行って、帰るんだ。」

ああ、これではまるでいたちごっこだ。元々意固地なきらいがあるこの青年は今宵特に融通がきかなかった。
マルコは違和感と、底冷えのするような嫌な焦燥感を覚えていたのだった。エースの仄暗さを秘めた口角を、両目で捉えてしまえば尚更。
こいつは何を考えているのか。能天気と若造らしいぎこちなさではにかむ青年…陽の光の下が一番似合っていたポートガス・D・エースは何処に行った?

「治安維持だ。…白ひげの名に泥を塗ることは誓ってしない、してもない。心配すんなよ。」

その一言はその意思は、一本の剣にそっくりだった。硬く愚直なまでに真っ直ぐで…下手に触れれば肉を断ち切ってしまう、様な。

「…。」

赤い焔がひとつ、暗い海を通って往く。静かにそれを見送ったのは夜風に髪をなびかせたままのマルコであった。エースは出発してしまった、おそらくとんぼ返りで戻ってくる予定なのだろう振り返る事も無くストライカーをあんなにもかっ飛ばして行くとは。

「心配するさ。家族だろうが。」

末の弟は、一体何に追い詰められているのか…それは今、断言出来る事では無い。なら己が、いや己達がすべき事は何か。気が付かない程阿呆でも腑抜けでも無い、と自負はしている。

「あほんだら。」

この船に乗っている連中は皆、案じるだろう。家長の口癖を呟いて長兄はその身を翻して行ったのだった。まず調べるのは二番隊それといとからも話を伺うべきか。
マルコの足は、考えれば考える程早足となっていく。

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