きみをまもる、いくつかの手段 | ナノ


▼ つないだ右手におもいを込めた

  鞘におさまった、と思ったよい。

  あァ…そうさねェ。随分とまぁ丸くなった、あの末っ子が。…いやはや女ってのはいつの御時世でも摩訶不思議さね。

  いとがあの鉄砲玉のいいブレーキだ。始めはどうなるかと思ったが。

  案ずるより産むが易し、さァ…。


  時は流れ流れてもうひと月は越えたであろうか。この船の二番隊長が行方知れずになった出来事があったのだ。
  黙って出かけたか、やれ海に落ちたか、あれまァ手の掛かる末っ子だね。と何くれすったもんだしている内にひょっこりと、やに下がった顔を引っ提げて帰ってきた。
  船に足を着けた瞬間を見た男は絶句したと、今でも語り草になっているという。

「まさか、空から戻って来るとはねい。」
「おめェさんのまごつき顔を是非とも拝みたかったねェ。」
「…茶化すな。」
「だからあんなに聞き分けよかったのかィ?異世界云々を疑うのはマルコの仕事だと思ってたが。」
「エースはトチ狂ってなかった。…なら家族を信じるのは当たり前だろう。」
「おやおや、そりゃおれが野暮だった。…しかしまさかあのエースが嫁取りしてくるたァ思わなかったが。」

  黒髪を靡かせて、お馴染みのマリィ・ゴールドよりも晴れやかな面差しの末っ子は帰って来るなり真っ先に、我らが偉大なオヤジどのの元へとすっ飛んでいったのだ。

『エース?!今まで何処に…』
『全然違う世界に居たんだよ、ただいまマルコ。』
『…はァ?』
『いと、こっち来てくれ!』
『え、あ、ええ?!エースなの?エースが大きくなっちゃった?』

  その隣にいた、小柄な女の手を引いて。
  それからはトントン拍子、とまではいかなくとも上手くまとまったのである。

『家族が一人増えた…!』

  上機嫌なオヤジどのと、色気付いた末っ子の顔に聡い連中は察しが付き『部屋は用意しなくてもいい』との末っ子の駄々、いや主張に呆れ大笑いした面々は新たな家族を迎え入れたのだった。

「いいこだねェ、いとは。」
「よく働いてくれるよい。…エースがよく邪魔するが。」
「蜜月さ、大目に見てやンなよゥ。」
「構い過ぎだ。」
「…いとの世界に居た時は餓鬼に縮んでたってヤツか。それの反動だろォさ、男ってのは頼るより頼られたいモンだ。」
「…はァ…。それと若ェのに一々威嚇すんのもねい。」
「ハハ、青い青い。…エースがあんなに悋気持ちだとは思わ無かった。惚れた腫れたはこれだから面白い。」
「組み手の時に本気でやりに掛かるんだよい、あのヤキモチ野郎は。」
「…おひぃさんににちょっかい掛けたヤツにか。そいつァ重症だ。」

  しゅるりと袖振って、上等の煙管を取り出した男は紫煙を溢していく。女形の様な振る舞いでニイと微笑ってから一言、それでこの『厚っ苦しい』本といとがどう関係あるんだィ?と言ってのけたのだった。

「ふざけた記録が見つかったんでねい。」
「…へェ…。」
「いとに関して、な。エースを丸め込むのに手ェ貸してくれ。」
「難儀だな。」
「血の気が多い末っ子の為だ。」
「…なら腕捲って獅子吼しようかィ。」
「世話になるよい、イゾウ。」

  あのエースが矢鱈穏やかに微笑う様になった。荒削りの感情をおさめる鞘となってくれたいとがいれば、無茶に生き急ぐ事はしなくなると…そう思った。
けれども、彼女がこの世界で生きていくには余りにも、うしなうものが大きくて。


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