「あいつ本当に嫌な奴だ!」
「落ち着いて、雷鳴さん…」


ぽかぽかとした陽射しが気持ち良い昼休み。
いつものメンバー4人で食堂で昼食を取っている。
ざわざわと周りは騒がしく、男子生徒達の馬鹿笑いが耳に響く。
何かと帷を目の仇にする教頭が、昼休みまでもネチネチとお小言を披露するものだから、雷鳴の苛々は募る一方で。

そんな爆発寸前のお怒りモードな雷鳴を宥めたのは壬晴。
いつものにっこりキラキラ小悪魔スマイルで、「雲平先生はとても良い先生なんです、あまり虐めないで下さいね?」と教頭を見事に撃退した。

ぶつぶつ独り言を言いながら食堂を出て行く教頭を睨みながら雷鳴は吠えるのだけれど、壬晴の「あんなのほっとけば良いよ」の一言でとりあえずその場は納まった。
それでも怒りが消えない雷鳴は、「なんだよ、あれ!」と焼きそばパンを振り回しながら、もう居ない教頭に「べー!」と舌を出す。

雷鳴がおもいきり腕を振り回すものだから、今にも焼きそばパンの中身が飛び出しそうで、雷鳴の隣に座っている虹一が慌てて止める。


「雷鳴さん、中身が飛んじゃうよ」
「ははは、清水は元気だなぁ」
「…あんなのほっとけば良いんだよ」
「だって壬晴!あいつ何かと先生に絡むんだ!腹が立つじゃないか!」
「…先生が気にしてないなら良いんじゃない?ね、先生」


手にしていたリンゴジュースをひとくち口にして、チラリと帷に視線を流したら、帷は「まあ、どうでも良いさ」と苦笑した。

他人事の様な帷に(この暢気者ー)と壬晴は心の中で呟いたけれど、そんな帷のことは嫌いじゃないから言葉の代わりにじっと帷を見上げる。
壬晴の視線に気付いた帷は優しく笑う。


「ねー雲平先生、それちょーだい」
「これか?」


「ひとくち飲ませて」と壬晴が机の上で手を伸ばす。

帷が手にしていたものはプラスチック容器の新作ミルクティー。
本当はミルクティーを飲むつもりはなかったのだけれど、右隣りの砂糖控え目のコーヒーと間違えて買ってしまったから仕方がない。
別に嫌いなわけではないから、購買で買ったサンドイッチと一緒にちびちび飲んでいたのだけれど。


「壬晴君また飲み物だけ?駄目だよ、ちゃんと食べないと」
「いいの、これが主食だから。先生、ひとくちちょーだい」
「はいはい」


まるで母親の様に壬晴の身体を心配する虹一と、我が儘な小悪魔小僧の様子に帷は、やれやれと肩を竦めた。
虹一にだけ聞こえる様に、帷は少しだけ身体を椅子からずらして、耳打ちをする。


「心配かけて悪いな、相澤」
「いえいえ」


ははは、えへへと周りに花を飛ばしながら笑い合う二人を、壬晴は交互にチラリと見て帷から受け取ったミルクティーのストローをくわえた。
雷鳴は二人の内緒話が気になる様子で、「なんだよー、内緒話とかずるいよー」と机にべたーと俯せになってくちびるを尖らせる。
壬晴も雷鳴ほどではないけれど、帷と虹一の会話は多少は気になる。
「何の話なの?」と聞くのもなんとなく嫌で、とりあえず無関心を装って視線を足元に移した。
何故だか甘めのミルクティーが苦く感じた。


「うまいか?」
「…まあまあ」
「そうか」
「…まあまあだよ」
「そうか」


視線は変えずに素っ気ない返事を返すけれど、帷はいつもと同じ様に笑う。
なんてことない言葉にも、笑ってちゃんと自分に応えてくれるから本当に困る。
素っ気ない言葉には素っ気ない言葉で応えてくれたら、こんなにも帷に振り回されることなんてなかったのに。
その笑顔に困ることなんてなかったのに。


(先生はそんなつもりはないんだろうけど、それは反則だよ)


そう思いながら帷に「ありがとう」と容器を渡す。
無自覚で自分を困らせる帷に、何だか面白くない壬晴はにっこりと笑ってひそりと囁く。


「ねえ、先生?」
「ん?」
「ストロー、間接キスだね」


ね?と笑ってミルクティーを指さす。
帷は一瞬ピタリと固まったけれど、直ぐにいつもの様に小悪魔の悪戯に引っ掛かって、ガタン!と勢い良く立ち上がった。
壬晴を見下ろす帷の顔は少し赤くなっている。

壬晴の言葉で少し顔が赤くなった帷につられて、壬晴の頬も思わず赤くなってしまった。
帷をおちょくるつもりだったのに自分もつられて赤くなってしまったから、馬鹿にすることも出来なくて。

自分を振り回す大人への仕返しのつもりだったのに、今回の悪戯は思ったより上手くいかなかった。

(…せんせいのバーカ!)って睨んだらまた笑ったから、熱が上昇して更に顔が赤くなった気がした。








―――――
壬晴の嫉妬と帷への仕返し+虹鳴小咄。
小悪魔小僧も好きな人には弱いとかいうお話し。

20090125
修正→20110703


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -