ぼんやりとその場に立つ。
ころん、と落ちたカエル帽子。
左側の袖がぐちゃぐちゃになった制服。
それをぼんやりと眺める。
ああ王子の相手は疲れる。
しししと笑いながらナイフを投げてくる馬鹿な奴。
にんまりとしたあの顔は気持ち悪くて吐き気がする。
なんだあれ。
先輩の余裕ってやつ?
王子の余裕ってやつ?
「俺に勝てるとでも思ってんの?」とか、どうせそんなこと考えてるんだろう。
「勝つ」?
そんなちっちゃなことなんか、ミーは全く興味ないし。
おまえ一人で勝手にやってろよ。
面倒臭い。
面倒臭いから、ナイフを避けることを止めた。
十本くらいふらふらとしながら躱してみたけれど、そんな自分が惨め過ぎて、四肢に重りがかかったようにしゃがみ込んだ。
それを見たベルは、またにんまりと笑ってミーの帽子を蹴飛ばした。
ほら、殺すつもりはない。
殺すつもりもないし、殺されるつもりもない。
ただのじゃれ合いの一つ。
遊びの一つ。
本音の一つ。
八つ当たりの一つ。
ロン毛隊長はおっかねぇぜぇと自分を見下ろす。
そうだな、おまえよりはな。
この甘ちゃんが。
そう答えたらミーの帽子はまた蹴飛ばされるだろうか。
それとも黒色の制服が赤色に染まるのだろうか。
そうなったら楽なのになあと呟いたけれど、隊長は程々にしとけよとそう言って、似合わない溜息を吐き出した。
「程々?何それ。殺すなら殺せよ。だから甘いんだよおまえらは」
殺すつもりはない。
殺されるつもりはない。
遊びだ。
野生の動物のように威嚇しているだけだ。
いつもと同じように。
けれど、今日はいつもと違った。
いつもより少しだけ違った。
今日は殺されたって構わないやと思った。
それで楽になれるなら良いやと笑った。
そしたらベルに蹴飛ばされたんだ。
おまえ馬鹿か、馬鹿な奴は殺してなんかやんねー。
そう言ってにんまり笑った。
ああ、ミーはいつになったら死ねるのだろうか。
20110803