「ししし、つなよしはここにはいねーよ?」
「…いい加減、返してもらえませんかね」
「しししっ、やだね。お前になんて返さねぇっての」
「…ぶっ殺す」
「…お前にそんなこと、出来るわけないじゃん?」


絶対無理だね、だって俺王子だし。
つなよしのこと愛しちゃってるし。
もう誰にも渡さないって決めたんだもんね。

「お前が死ねよ、ししし」


お姫様は王子様と結ばれるのが相場じゃんか?
だから、ね。
つなよしは俺のものって決めた。











「ベル、どこ行くの。手、痛いよ」
「何それ、王子と手ぇ繋げて幸せーだとか言えないわけ?」
「嬉しくないし」
「しししっ、つなよしは分かってないんじゃねーの?」
「?」

繋いでいる細い手を放さないまま、ピタリと白い廊下を歩くのを止める。
振り向くと、俺より随分背が低い10代目ボスは首を傾げて見上げている。
うん、可愛い。
そのふわふわした髪も、茶系の瞳も、薄い薔薇色をしたぷっくりとしたくちびるも、細い首も、日本人独特の白さを持った肌も、全部食っちゃいたいくらい。
噛り付いたり舐めまわしたりしたらどんな味がするのかな。
蜂蜜?ココア?チョコレート?
見た目と同じで、きっと甘い味がするんだろうな。
ああ、でもどうせなら鉄の味がいいかも。
つなよしから赤い血が流れるなんて、想像しただけで楽しい。
絶対、きっと、可愛いと思う。
王子の俺が言うから間違いないさ。


「ねーねーつなよしぃ」
「……?」
「骸とかいう変態なんて、忘れちゃえばいいんじゃん。そんでさー俺にしちゃえばいいよ。だって俺王子だしー」
「ベル」
「俺つなよしのこと愛しちゃってるし?つなよしだってその方が絶対いいに決まってるしー」
「ベル、」
「ね、決まりー」

俺の部屋はこの先だから、そこでゆっくり愛し合おうよ。

廊下には額縁付きの絵が並んでいて、俺にはそんなものの良さなんて全くわからないけど、なんとなくつなよしに似合う気がするから、まあ別にあってもかまわないかな。
つなよしに似合わないものは俺が全部、粉々に砕いてあげるよ。
ねえ、つなよしだってその方が良いって思うだろ?

部屋に着いたら何しよう。
そうだな、まずはつなよしを赤いふわふわのソファーに座らせて、つなよしの好きなミルクティーをピンク色した花柄のカップに注いで、王子が特別に作らせた最高級のアップルパイをテーブルに並べて、でもそれだけじゃ足りないんなら、チョコチップ入りのマフィンも下っ端に用意させよう。
ディナーの前にはシャワーを浴びて。
うん、つなよしのためにバスタブに薔薇の花びらを浮かべようか。
きっとつなよしはうっとりするに違いない。
王子の俺が素敵に見えて、つなよしは俺がいないとダメになっちゃうよ。
食事が終われば俺のベッドで眠くなるまでおしゃべりだよ。
つなよしの寝息が子守唄の、なんて素晴らしい夜なんだろう。
夢の中でもずっと一緒だったら良いね。


「俺さーつなよしを好きだからぁつなよしも俺のこと好きだよねー」

俺らラブラブじゃんねー!って、つなよしのてのひらをギュっと握ったらつなよしは俯いて首を振る。
その仕草もうさぎみたいで可愛いんだけど、なんで、なんで首を振るの?
違うだろ。
そこでつなよしは頬をピンク色に染めて恥ずかしそうに「俺も」って言うんじゃないの?

「何それ、意味わかんないんだけど!」
「意味わかんないのはこっち。ベル、少し頭冷やして、よ」

つなよしが最後まで言葉を綴る前に俺は白い壁につなよしを押し付ける。
ドン、と鈍い音がした。

(ごめん、痛いよね、ごめん、びっくりしたよね、でもさ)


「ほら、やっぱつなよしは分かってねーじゃん!俺はつなよしが欲しいの。欲しくてたまらないんだっての!」
「…ベル、俺は物じゃないよ?」

そんなの、知ってる。
つなよしはつなよしだよ。
つなよしだかこんなにら愛しちゃってんのに、つなよしだから欲しいのに。
だから他の誰かに見つからないように、こっそりここまで連れて来たのに。
つなよしを俺のお姫様にするって決めたのに。

つなよしは俺を見つめたまま、はぁと溜息をつく。
少し怒っているかも知れない。
俺を睨み付けるの?
いいよ、別に。
怒った顔も可愛いよ、愛しているよ。
好きだよ好きだよ好きだよ。


「じゃあ俺、つなよしをバラバラにしちゃうしー。そんで俺の傍に置いとくの!しししっ」

ジャキンとナイフを右手に持って、つなよしの前に差し出す。
ナイフがキラキラ光って、ねえ、なんて綺麗なんだろう。
このナイフも全部、甘いケーキも全部、行きたいところにだって全部、つなよしが欲しいものは全部あげる。
俺の声も、俺の心も、俺の躯も、俺の全てをあげるのに。

「ロン毛センパイにも変態パイナップルにも邪魔されないように、バラバラに砕いて俺の宝箱に隠しちゃうしー。もう絶対誰にも見せないしー」
「…お前、変だよ」
「なんで?」
「お前、変」
「…つなよし、変じゃないよ」


馬鹿だね、つなよし。
これは恋だよ。
だから王子は姫を宝箱にしまっちゃうんだ。



弓を描いたくちびるは少しだけ鉄の味がした。


王子の初恋、狂う、くるくる
ロマンチストな狂愛者









+++
伝わらない想いをどうしたらいいか分からない王子
好きになってくれるならなんでもするよ
そんな王子の初恋

20081214





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