ねー、俺さぁ王子だから本当はモドキになんて全く興味はないんだけどさぁ。
俺って王子だからさぁ、キラキラ光るクラウンが大切なわけ。
でもさぁ、お前がどうしても欲しいって泣きついて来るんなら、俺のクラウンをお前にくれてやっても良いよ。


お前が俺のものになるって言うのなら、ね。






愛に溺れ
子様





「で、どうなの」
「何が?」
「俺のクラウンお前にやるよ。あ、それともかっわいーティアラが良い?」
「そんなの、いらない」


間髪容れず、するりと簡単に「いらない」と言葉を吐いた。
考えるそぶりさえもない。
気持ちなんて1ミクロンも込もっていない。
冷酷なつなよしの言葉が王子の俺に降りかかる。
演技でも構わないから、少しくらい「うーん、どうかな」とか「勿体ないから遠慮しとく」とか言っても良いもんじゃないのか?

(俺、王子なのに!)

いや、そんなことは勿論想定内のことなのだ。
バレンタインの時もそうだった。
自分に関係のないことにつなよしは興味を示さない。
あの嵐の守護者が良い例だ。
頑張っても頑張っても、つなよしに華麗にスルーされている(少しだけ可哀相だと思ったりもするけれど、良い様だ。つなよしは俺のだからね)。


「つなよし、俺つまんなーい」
「…ふうん」
「………」

つなよしは視線を俺と合わせることなく、「静かにしてよね」と呟く。
もう一度つまんなーいと大袈裟に声を荒げたら、「ベルうるさい」と怒られた。
怒られたのはすっごい哀しいけれど、俺の名前を呼んでくれたことは嬉しい。
幸せ。
幸せ過ぎて死んでしまいそうだ。


「いや、俺はまだ死ねないけどさ!」
「…うるさいってば、ベル」

視線は王子の俺じゃなく、手元の雑誌に向けている。
王子より雑誌の方が良いと言うのかな、このお姫様は。
でもまあ、簡単に俺に靡かない気難しいお姫様も可愛くて仕方ないのが本音だから、王子の俺はそんなつなよしに燃えるのだ。

(嫌よ嫌よも、ってやつなんだよきっと)


「…つなよしー何見てんのー?」
「んー」

この俺が雑誌に劣っている訳がない。
俺よりそんなペラペラな紙の束を選ぶなんてよっぽどの鬼畜か、それとも天然か。
いくら我慢強い俺でも、愛しのつなよしに相手にしてもらえないのは寂しい。

(もしやこれは愛の試練というものなのか!)

ひょいと後ろから手元を覗き込む。
雑誌の色鮮やかなページよりも先に、白い首筋がちらりと目に入る。正に絶景。
日本人のうなじはとても美しいものなのだと何かのテレビ番組で観たけれど、本当のことだったんだ。


「ねーねー、つなよしぃ」
「…ベル、大人しくしててよ」

成長しきれていない柔らかそうなその肌に触れてみたいけれど、きっとつなよしは怒るんだろうな。

(お姫様は恥ずかしがり屋さんだからさ)

つなよしは、その白い頬をほんのりピンク色に染めてしまうんだろう。
そして困った表情をして、「ベル、やめてよ」と言うのだろう。
駄目だよつなよし。
そんな可愛いことされたら俺は我慢なんて出来ないから、ほら逃げるなら今のうちだよ。


「…ねぇ、つなよし」
「何」
「俺、つなよしに触りたい」
「?何言って…」
「つなよしに触りたい」


俺の言葉に困惑しているのだろうか。
つなよしはぴくりとも動かない。
俺を拒否する言葉も受け入れる言葉も発しない。
これは失敗したということなのか。

(嫌われたらシャレになんないよな、これ)

とりあえず、邪魔な雑誌はつなよしから取り上げておくことにした
(ねぇ、つなよし。雑誌なんかより俺を見てよ)


「ねぇ、駄目?怒った?」
「…駄目とか怒ったとかそんな問題じゃないしっ!」

縋る様な問い掛けに、つなよしの頬が少し赤く染まった気がする。
気のせいじゃないことを確かめるために、距離を縮めて顔をじっと見つめたらつなよしは慌てて身体を引いた。

(あ、逃げられた。王子ショック)


「つなよし顔赤いじゃん。なんで?」
「な、なんでって、ベ、ベルが…!」
「つなよしは俺のこと嫌い?」
「き、嫌いじゃないけど…」
「俺は大好きだよ。つなよし大好き」

逃げようとするつなよしの左手首をぎゅうっと掴んで、もう一度「大好きだよ」と愛の言葉をつなよしに贈った。
益々顔は紅潮する。

(ああなんて可愛いんだろう)


「…ベルって馬鹿なの?」
「馬鹿じゃないよ!俺はいつでも本気だっつーの。その気になれば今すぐ結婚だってしてやるぜ?」
「…あー、うん。それは無理だけど」


無理無理無理と頭(かぶり)を振る。
ほら、このお姫様は王子様のプロポーズもあっさりとなかったことにするんだぜ。
まあ、「今すぐ」は無理なことくらい分かっている。
「いつか」無理じゃない時が来たら、真面目にプロポーズでもしてみようか。
赤い薔薇と、誰にも真似出来ないような愛の言葉を用意してさ。


「つなよしぃ、俺腹減ったー」
「あー、そうだね。宅配ピザでも良い?」
「俺はつなよしが食いたい物で良いからさ」
「…文句はなしだからね」
「はーい」


いい子振ってみたら、「本当かなぁ」と苦い顔をされた。
俺はつなよしのそんな顔も凄く好きだから、忘れない様に記憶に残しておくんだ。
俺の思い出は、全てつなよしのことで埋まれば良い。
心の中も脳みその中も、全部全部つなよしでいっぱいになれば良い。


「いつか」、どうかつなよしが俺のことを好きになってくれますように。

誰にも(つなよしにも)気付かれない様に、祈ってみた。







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少し近づいたかもしれない恋心
ベル→ツナ

20090607





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