「では僕はホットチョコレートでお願いします」
「…夏なのにホットなの?」
「僕はそれ以外は飲みません」




こんな真夏に飲み物はホット。
しかもホットチョコレート。
それ以外は飲まないのだとツンとした態度で人様のベットを陣取っている。

何故こんな事になったのだろう。
部屋の主の綱吉にも分からない。
マグカップを眺めながら頭を悩ませるしかなかった。

(…ていうかホットチョコレートってどう作るんだよ…!)









夏休み。
課題の真っ最中。
さっきまで綱吉の部屋で恒例の勉強会が行われていた。
六時を過ぎて皆が家を出て行った後、何故かいるはずのない人間が部屋の隅で行儀良く座っていた。

とりあえず驚くしかなかったのだけれど、驚き過ぎて「わあ」だとか「ぎゃあ」だとかそんな漫画の台詞の様な言葉は一切出て来なかった。
人間は本当に驚くと声なんて出ないものなんだなと冷静に考える。

「変な顔してますよ」
「…何でお前が部屋にいるんだよ」
「何でって、ねぇ」

ちらりと、散らかっている机の上のプリントに視線を移して大袈裟に「はぁ…」と溜息を吐き出した。
なんとなく、目の前の男の言いたいとする事が分かって思わず机をひっくり返したくなる。

「わざとらしい溜息をつくなよ、むかつくから」
「おや、お馬鹿な君にも僕の気持ちは伝わった様ですね。それは良かった」
「おまっ…!」

一々説明する事も面倒臭いですからね、と厭味を含んだ様な笑顔を浮かべて数学の教科書に手を伸ばした。
ペラペラとページをめくる。
すると直ぐさま厭味ったらしい笑顔から渋い表情に変化する。

「綱吉君、この教科書…ちゃんと使ってます?くだらない落書きだらけなんですけど」
「…うるさい」
「これでは先が思いやられますね」
「かーえーせー!」

手を伸ばして教科書を奪おうとする。
けれど、骸はそれを簡単にひらりとかわした。
華麗に、と言う言葉が似合う(と自分で言ってた)骸は綱吉の顔をまじまじと見て溜息を零した。

「見た目はとても愛らしいのに、脳みそは残念な出来なんですね」
「……………………は?」

えーと、いきなり何を言うんだこいつは。
綱吉の思考は猛スピードで回転する。
ぐるぐる回って骸の言葉を丁寧に分析しようとするのだけれど、もう理解したくはないと綱吉の思考はブッツリと電源を落とす。
骸の言葉は少しも理解出来ない。
分かりたくもない。
何故勝手に部屋に上がり込んで何故こんなに他人を馬鹿にするのだろう。
この男の生き甲斐は「綱吉いじめ」なのかもしれない。

「…で、何しに来たの」
「君は馬鹿ですか」
「馬鹿なのは分かってるから」

フム、と指を唇に当て散らかったままの机の上に視線を流す。
悔しいけれどそれが様になるから何故かとても腹が立つ。
さっきの言葉をそのまま骸に返してしまいたい。
「見た目は雲雀さんに負けてないのに、性格は残念な出来なんですね」。
いやいやいや、雲雀の名前を出した所で何の解決にもならない。
むしろ、状況はより悪化するかも知れない。
自分の命も危険だ。
とりあえず地雷であろう言葉はゴクンと飲み込む事にした。

「やはり君に会いに来て良かったです」
「俺は会いたくなかったよ」
「君は僕に感謝するべきだ」
「お前は少しは遠慮というものを覚えろ」
「数学というものはパズルと同じ仕組みなんです。決められたルートだけで完成させようとするから途中で痛い目を見るんです」
「俺の話しを聞けよ。ていうか教科書返せ。俺のベットから降りろ」

い、や、で、す。
そう言って骸は綱吉が入れたホットチョコレートを口に含む。
ゴクン、と喉を甘い液体が通り抜ける。

「甘いですね」
「チョコレートだからね」
「チョコレートですね」

この二人の事を全く知らない人間はこのやり取りを見てどう思うのだろうか。
話しが噛み合っていない、馬鹿らしい内容だと捉えられるのだろうか(噛み合っていないのは確かだけれど)。
それでも何となくお互いの話しを理解する事は出来るから、それが綱吉は不思議でならなかった。
理解したくない事も多々あるからたまに泣きたくもなるのだけれど。

「ほら、早くプリントを出して下さい。数学なら今日中に終わらせられますから」
「……え、何。骸が勉強教えてくれるの?」
「はぁ?そのために来たんでしょう?」

何だ。
どうやら嫌がらせに来た訳ではなかったらしい。
いやもう十分嫌がらせは受けている(骸本人はそんなつもりはないのだろう、多分)。
そう思いながら綱吉は渋々鞄からプリントを出す。
早く帰ってもらいたい。
そのためなら、いつもはちんぷんかんぷんな問題も簡単に解けそうな気がした。


「君は忘れているかもしれませんけど、僕は君より年上です」
「………あー、うん。忘れてた」
「こんな問題僕なら一時間も掛かりませんが、まぁ綱吉君には無理でしょうね」
「…お前教える気ないんだろ」

おや、君は教わる気があるんでしょうか。
なんて言い返して来たけれど、綱吉は無視を決め込む事にした。
今日は数学だけでなく、スルースキルも身につける事が出来るかもしれない。

「骸は俺の事、嫌いなんだと思ってたけど」
「僕は君に嫌われていると思っていました」
「何で?」
「だって実際そうでしょう。僕を見て嫌そうな顔をしたじゃないですか」
「…それは驚いたからだよ」

まさか骸が自分の部屋にいるとは思わないだろう。
しかも何の前触れもなく、不法侵入に近い行為を無表情でやってのけるのだから普通の人間は驚く。
マフィアを嫌っている、消そうとしていた人間が未来のボンゴレボスに家庭教師の真似事をするなんて思わない。
骸に気付かれない様に溜息を漏らした。

「…俺の周りは変な人間ばっかだよなー。リボーンもお前も」
「僕からすれば君の方が変わってますけどね」
「夏にホットを飲むお前の方がおかしいだろ。コーラとか麦茶とかだろ、普通は」
「君の考えを僕に押し付けないで下さい。そもそも僕はコーラなんて飲みません」
「…お前相変わらず性格悪い」
「そっくりそのまま君にお返ししますよ。僕は君の様な偽善者の方が性格が悪いと思います。嫌いです」
「嫌いなら何で来るんだよ。そもそもお前、マフィアなんて大嫌いじゃないか」
「マフィアはマフィア、綱吉君は綱吉君ですから」
「何それ」
「つまりは、」








 「つまり、君に恋してしまった訳で」。
 

(マフィアは嫌いですが、綱吉君は嫌いではありません)









ーーーーーー
ツンデレ…?
不器用な六道さん。
躯本体は水中だから人より体温低い→擬体だと暑さを感じない→夏もホット→チョコレート好き→ホットチョコレート。
なんて単純。


お題お借りしました
愛葬


20090729





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