白い世界と黒い世界。
(白い白い白い、)
ポツリ、ポツリと白い光りが、
ポツリと消えて、
ポトンと滴が流れていく。
(寂しい寂しい寂しい、)
「行かないで」
(悲しい悲しい悲しい、)
「…お願いだから」
忘れてしまわないで?
(はじまりの)
ふわり、白い光がふわりと浮かんで。
(………煙草の匂い…?)
『とき、』
聞きなれた声が耳に落ちる。
「………し、の」
優しく優しく、そっと。さらりと頬を撫でながら、ポツリと悲しげに名前を呼んだ。
目の前が白く濁って誰なのかよくわからない。それでも、
ただ、ただ名前を呼ぶ声と噎せるような煙草の香りが。
(俺の世界はここだけなのに…)
そうしてまた、滴が伝う。
何処へゆける?
何が見つかる?
想いだけが、白く黒く溶けだして。
(ねぇ、しののめ、俺ね)
(はじまりの)
「とき、」
遠くで、何かが落ちる音がした。
目の前は、暗く黒く濁っている。
瞼は閉じてはいないのに、闇の色以外何も見えない。
(……ここは、何処だ?)
微かに音だけが耳に届く。何かの音。
(……人の声、か…?)
それは、少し聞き慣れているようなもので。
ほら、 また。
ざわざわと心の奥が騒ぎ出す。
(……誰だ?)
声のする方へ、手を伸ばすけれど届く筈もなく。けれど、音のそれは段々と悲しみを増していくような気がして。
「……呼んでいるのか」
ポツリとそれに呟き、また手を伸ばす。
掌をぎゅっと握り絞め、何かを思い出すように瞼を下ろした。
一瞬だけ苦い表情を見せるが、ゆっくりと優しく、それを撫でるように掌を動かし、瞼を下ろしたまま消え入りそうな声で、名前を呼んだ。
寂しいのなら傍にいよう。
悲しいのなら共に泣こう。
世界が暗いというのなら俺が手を引き、歩いていこう。
なにもかも、要らないというのならおまえの為に、この世界を壊してしまおう。
俺はおまえの為ならなんだって出来るんだ。
(鴇、俺は、おまえのためなら、何だって)
世界が壊れてしまうまで俺は君に全てを捧げる(ねぇ、俺を全部あげるよ)
(はじまりの)