「ねえ、キス、して良い?」
「…はい」
「レオくん大好きだよ」



愛だとか恋だとか、そんな簡単に壊れてしまうものなんて信じてはいなかった。
どうせ、「愛している」、「好きだ」と言葉にしたところで、それは永遠には続かないのだから。
ならば、初めから持たなければ良いのだ。
感情なんて、愛情なんて、そんなものは自分には必要ない。
血に染まったこの手のひら、闇と同じどす黒い色に染まってしまった身体を、誰が愛してくれるのだろうか。
自分の中にある、冷たい黒い感情だけが頼りなのだと、そう思っていた。

(ああ、もうこのまま、何もかも溶けて消えて無くなってしまえば良いのに)

それでも、一つの想いだけはどうしても消し去ることは出来なかった。
傍にいたいのだと、そう心がうるさく騒ぎ出す。
頭では分かってはいるのだ。
これから先には進んではいけないのだと、深い闇の奥から警告音がジリジリと鳴り続く。

―――どうせ、期間限定の感情だ。

(自分がいなくなる時に、その感情も消えて無くなるのだから)


レオナルドはうっすらと目を開けた。
白蘭の長い睫毛が視界を塞ぐ。
ああ綺麗だなと、ぼんやり思った。
好きだよ。
白蘭がそう言葉を紡いでも、レオナルドは同じ言葉を口にすることはなかった。
そうですかと呟き目を閉じる。
それが、白蘭に好意を寄せているという合図で証だった。
その合図と同時に白蘭がレオナルドを抱き寄せる。
そしてもう一度、大好きだよと言葉を紡ぐ。
白蘭もレオナルドもそれだけで良かった。
この先の未来に二人の姿が存在することはないと、そう思っていたから。
触れ合い、キスをし、視線を交わし、未来の世界に気づかない振りをし続ける。
タイムリミットが訪れる瞬間までそうしていたいと、そのままで在りたいのだと願った。
二人が想い合っている事実が存在するだけで、それだけで良いのだと祈った。
レオナルドは主である骸の代わりに存在し、白蘭はそのレオナルドの秘密を知っている。
その秘密を死ぬ瞬間まで、何も知らないままでいたかった。
目の前の彼が自分の瞳に映っていることが幸せだと思った。
いつその幸せが壊れてしまうのかは、白蘭にもレオナルドにも分からない。



「レオくん?今何を考えてんの?」


レオナルドを抱きしめていた白蘭の手が頬に触れ、ゆるりと撫でる。
色素の薄い髪の色と同じように冷たい白蘭の体温は、いつもより温かくてとても気持ちが良い。
ねえ?と首を傾げる白蘭に、レオナルドは何でもありませんよとふるふると首を振った。

「ん〜嘘っぽいなあ」
「そんなことないでありますよ」
「ん〜?」

白蘭は、レオナルドの頬をつんつんと突くと、でも僕をほったらかしにするなんて許せないなあ、とわざとらしく深くため息を吐き出す。
恋人をほったらかしにしたお仕置きだよ、とレオナルドのくちびるに、ちゅっ、と軽くキスをした。

「お仕置き?」
「そっ、僕をほったらかしにするなんて、レオくんはダメな子だね〜」
「ほったらかしにしたつもりは…」
「キスの途中で考え事してたのに?」
「してませんってば…」
「ふ〜ん?」
「信じてないでありますね…」
「だってレオくんてば嘘をつくの苦手じゃん。すぐ分かるよ?」
「嘘は苦手でありますから」
「レオくんの嘘つき」

白蘭は苦笑するレオナルドの顔を覗き込み、レオナルドの目尻にキスをした。

「…不意打ち禁止でありますよ」
「だって、ここ赤くなってる」
「どこで、…ん」

言い終わる前にレオナルドの唇を塞ぐ。
特別長くはないキスだけれど、ひどく甘く感じて泣きたくなった。
ああお願い、どうかこのままで。


「泣いていたの?」
「…いいえ」
「嘘つき。目、赤くなってるのに」
「白蘭様も同じでしょう?」
「レオくんが幸せになれるのなら、僕が代わりにいくらでも泣いてあげる」
「…嘘つき」

白蘭とレオナルド、二人は似ているのかも知れない。
似ているからこそ惹かれ合ったのかも知れない。
嘘つきでさみしがりで死にたがりで、この世界に居場所が欲しいと子供のように泣き喚く。
―――違う。
欲しいのはあなただけ。


「レオくん好きだよ。愛してる。ねえずっと一緒にいて、死ぬまでずっと傍にいて」

白蘭の言葉に目の前が白く曇る。
それが涙なのだと自覚する前に、白蘭に抱きしめられた。
ああ、こんなにもいとおしい。

――そうですか。

レオナルドは呟き、そっと目を閉じた。





人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -