たまに不意に考える時がある。
この白い制服の意味を。
まあデザインは近未来的で格好良いし、ポイントの胸の飾りだってとても良く出来ていると思う。
それに自分の好みの白色だ。

だからなのだろうか。
白いこの制服は自分は本当はどんな意味が欲しくて身につけているんだろうか、などとくだらない事を考えたりする。
分からないから正チャンに聞いた事もある。
案の定、「あなたが考えた制服でしょう」という一言で片付けられた。

まあそうなんだけれどね。
正チャンは相変わらず僕の事が嫌いみたいだ。
いや、「嫌い」というものとは多少違うのかも知れない。
僕が「こうなる前」は普通に接してくれていたはずなのにな。
「こうなってしまった」事は簡単には変えられない。
彼らは変えようと必死に抗っているようだけれど、別に僕にはどうでも良い事だったりする。
出来れば、このままで在りたいのだけれどそうはさせてくれないらしい。
僕のあの子の主が「そうはさせませんよ」と愉しそうに、小さな笑みを零している。

過去と未来を行き来した正チャンが原因なんだよ、なんてそんな意地悪な事は言わないけれど。
でもそれくらいの意地悪なら別に構わないよね?
正チャンのお陰で、この力を手に入れた事は出来たけれど本当に欲しい物はこの掌で掴む事が出来ないという事実を受け入れなければいけない。
だから、仕返し。
これくらいなら、正チャンだって泣いたりなんてしないでしょ。

正チャンもつなよしくん側に戻った事だし、それに今まで部屋につけられていた盗聴器も外させてもらった。
これで本当に僕一人の世界になった。
この白色で固められた僕の部屋にはもう僕の影しか映らない。


「盗聴器なんてベタだよねえ。もっと役に立つ物を使えば良いのに。僕みたいにさ、ねえ骸くん」


僕のように使える物は何でも使って、使える人間は誰でも使えば良いのに。
僕にとっては初めから全ては遊びみたいなものだもの。
つまらなければそこでおしまい。
楽しければまた続けて遊んであげる。
ああ、でも骸君には無理な話しかな。
君は甘すぎたんだ。
だからこんな事になったんだよ。
残念だね、僕の勝ちだ。


「…なーんて、ね。君は本当に憎たらしいよね。レオくんとは大違いだよ」



彼の憎たらしい右目から流れる血液が僕の心を揺さ振った。
僕のあの子と同じ右目を持つ彼のあの姿は悍ましかった。
パラレルワールドを覗く度に僕は彼を羨ましく思った。
何故、あの子の側には彼がいるのか。
否、何故あの子の心には彼が映っているのか。
それは彼ではなく僕自身であって欲しいのだと、そう何度も繰り返し願った。
祈って祈って祈って、どうにかなってしまうのではないかと思えるくらいあの子を想った。
あの白い肌と藍色が混ざった瞳、短めの艶やかな黒色の髪。
あの甘い声で僕の名前を呼んで欲しいなあ、なんて毎日馬鹿みたいに想った。
夢の中でもゆらゆら可憐に揺れて、でも指を伸ばすとあの子はふわりと笑って消えて無くなるんだ。
わざとそうしているのかなと思えるくらいの、意地悪なあの子。
夢の中だけでも、僕の思いが届けば良いのに。
きっと、僕がそう想っている事もあの子とあの憎たらしい彼は気付いていて見透かしていて、彼らの罠に自ら躯を投げ落とす僕の事をほくそ笑み眺めているのだ。


初めて「白蘭様」と声を掛けられたあの日。
本当はこの右の掌であの細い首をぎゅうっと締め上げて「さようなら。またいつかね」と最初で最後の愛の言葉と僕からの恐怖を贈るつもりでいたのだけれど、夢で見たあの子を目の前にすると僕の黒い部分はゆるゆると解けて、ほらね簡単に蟻地獄に捕らえられてしまった。
藻掻いても藻掻いても浮かび上がる事の出来ない、偽りの世界にどっぷりと足を埋めてしまって、ああもう逃げられないのだと溜息を吐き出した。
それ程に、僕はあの子に夢を見ていた。
とてもくだらない、長いような短いような笑える夢を。

白い制服は夢の中ではない、現実世界のあの子にとても良く似合っていた。
白い肌、黒い髪、キャンディのように真ん丸の瞳に余りにも良く似合っていたから、この制服のデザインをした僕は本当に天才だなと思った。
そして真っ白で汚さなんてまるで知らないような、その清さに僕は溺れた。
たまに見せる黒い部分も僕にはとても清く思えて、白さと黒さを合わせ持つのはあの子の内に輪廻を廻る彼が存在するからなのかなあ、などと一人嫉妬の渦に巻かれる。

揺れる木漏れ日と落ち着いたあの子の声が僕の中に響いて、僕の中の僕が「これはいよいよやばいんじゃないの」と警告音をジリジリと鳴り響かせる。
「うんそうだね、でも今はそんな事はどうだって良いじゃない」と聴かなかった振りをして、ぱくりと白いマシュマロを口に含むと「馬鹿だね君は」と僕が小さく笑った。


もし何処かに楽園があるのなら、あの子を攫って逃げてしまいたい。


「ね、僕は君らの罠にわざと引っ掛かってあげたんだよ」
「はい」
「ね、僕に負けて悔しい?」
「はい」
「――ねえレオくん。僕は君が好きだよ。大好きだよ。ずっとずーっと愛してる」


あの子の声も、もう真白いまぼろし。
あの子を望む僕のこゝろは真黒いなみだ。


ああ白と黒の楽園は、どこ。


白と黒は決して交ざり合う事はないのだ、と僕は泣いた。







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レオ君の声は全てまぼろし

20091230
五十音式「し」










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