目の前には滴る血と液体で濡れてしまった白い制服。黒い髪まで紅い血で染まっている。


「あ、あ、あ、あ、あ、」


濃い血の匂い、むせ返る憎悪と罪悪感と零れ落ちる涙。
伸ばした掌は、目の前で床に横たわっている少年の紅い血でドロドロに濡れてしまっている。
目眩で霞む視界にはにこりと笑うオッドアイの青年が。


「ああ可哀相に、」


視界は白くぼやけて散った。




少し薄暗い、長い長い廊下をゆっくりと歩く。
白い白い。壁も廊下も、空気さえも白く感じる。特別な場所へ行く道。
ゆっくり前に進んでもカツンカツンと響く靴の音。
その退屈な音を聞きながら白い制服の上着を片手に、溜息をひとつ零して厚い扉を開ける。


「びゃくらんさま?」


気付かれないよう、音をたてずにそっと扉を開けたはずなのに、自室の奥にいる少年のか細い声が聞こえた。
ぺたぺたと靴も履かずに、素足で自分のもとに歩み寄るものだから慌てて扉を閉めた。


「れお、くんっ…」


白蘭の困った声も気にせず、レオナルドはお帰りなさいませとふんわりと笑うものだから更にまた困ってしまう。
右目には眼帯、左の腕には白い包帯、身体に残ってしまっている無数の傷。体力もまだ回復していないらしくフラフラと身体がゆれる。
ゆれる身体を支えてあげると申し訳ありません、と小さく呟く。頬はばら色。
支えたところから感じるレオナルドの優しい体温が哀しくて。
あの日は、身体はもう冷たくて唇は薄い紫色をしていて白い制服は紅い液体で染まっていたから。だからあの日、死んでしまいたいんだと「彼」に嘆願したのに。


(ごめんね、レオくん)


目の前にいる愛しい少年に、気付かれないように心の中でひとつ囁いた。
あの日から幾度となく繰り返す罪悪感、欲望、恋しさ。


(全部、僕が傷つけたんだよ、――全部、)


「傷が癒えるまで安静にしてなきゃ、だーめ」
「す、すみません…!」


でも自分は仕事に戻らなければ、と見上げる小さくて華奢な彼の身体をふわりと抱き上げて、寝室に連れて行く。白い柔らかなシーツの上にゆっくりと身体を寝かせる。
いきなりの白蘭の行動に驚いて瞳を丸く見開いているレオナルドの掌にチュ、と軽く音をたててくちづけた。


「びゃ、く」
「おやすみ、レオ君」


白蘭のいつもとは違う表情があまりにも頼りなくて、どうしたのだろうかとその頬を優しく撫でてあげたかったけれど、自分の名前をその声で呼ばれて甘い香りがふわりと漂った気がして、簡単に夢の中へ引き込まれていった。


「レオ君、それは僕が」


(全部僕がつけたんだ、その傷も、違う記憶も)


掌への紅い痕も全部僕がつけるんだよ。僕以外の人間には触れさせないで。


(レオナルド、)


その白い包帯の下には全部紅色の。全部、全部、僕の痕を君に残して。
君が本当のこと、全部思い出す頃には僕はもういないはず。
だからそれまでは、ね?


「――僕の願いはそれだけだよ」


ゆったりとした夢の中でまたひとつ掌にキスをした。




真っ赤な糸と真っ赤な痕(さよならのかわり)/egotist
◆◆◆



掌へのキスは「お願い」
交換日記にアップさせてもらったものです(お題/キス)








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