「トリックオアトリート!お菓子くれないと悪戯しちゃうよー!」

ばたーん!と勢い良く部屋の扉を開ける。
ハロウィンという事で、今日は一日魔女やら猫やら狼男やらのコスプレを部下達に命令した。
引き笑いをした部下の一人に、「任務はどうするんですか…?」と聞かれたから「勿論その格好で行って来てね」とにこりと笑ってみた。
まあそれは意地悪な冗談なのだけれど案の定、更に顔が引き攣っていたからそれはそれで満足だった。

午前中の会議が終わり(勿論皆ハロウィン衣装を着ていた。
僕の命令だから皆仕方なくって感じなんだろうけれど。
おじさん達は妙なオーラを放っていたけれどとりあえず、流石忠実な部下達だね僕は嬉しいよと笑ってみた)、その足でお菓子を手に入れるべくお目当ての子の部屋に突撃しに来たって訳。


「…って、あれ?」

勢い良く開けた部屋には、会いたくて仕方がなかった彼の姿は見当たらない。
あれ、部屋を間違えたのかなと部屋ナンバーを確認したけれど、扉にはちゃんと彼の部屋ナンバーが書かれてあった。
部屋の中はとてもシンプルで、彼が部屋にいた形跡もない。
(僕と違って真面目に仕事をしてるんだなぁ)、と改めて感心した。
いや、僕だって不真面目な訳じゃないよ?遊びと仕事は二つで一つだって事。
それにパラレルワールドを覗く事だってかなり力を使っちゃう訳だし、僕の身体だっていつまで持つのか分からないんだしさ。


「本当にいないんだー…」

レオ君とは、午前中に一度顔を合わせただけだった。
一応、僕はミルフィオーレのトップなのだから、そんなに暇という訳でもない。
無駄に長い会議も早目に切り上げて、(悪戯をしちゃおうかなあ)という下心もこっそり隠し持って来たのに。

「悪戯したかったのになぁ…」

とりあえずどうしたものかと暫く考えてみた。
部屋で待っていても退屈だし、探しに行くとしてもこの建物は広すぎるから、彼がどこにいるのかも分からない。
ムゲット隊の階にぼーっと突っ立っている訳にもいかないだろう。
そんな事はレオ君はきっと嫌がると思うし、もしかしたら不真面目な男だと思われて嫌われてしまうかも知れない。
彼に嫌われる事だけは、今までもこれからも僕が唯一避けたい現実だ。

(夜に改めてお邪魔しようかな、うーん)

いくら何でも夜までには帰って来てるでしょ。
だって僕への報告だってしなくちゃいけない訳なんだしその時に会えるよね、とくるんと向きを変えた。

「つまんなーい」
「…何が、でありますか?」

エレベーターに向かう先に、訝し気に僕を見るレオ君を発見した。
どうかしたのでありますか、と小首を傾げて歩いて来る仕種がかわいらしい。
意外と簡単にお目当ての子が見つかったから、何だか僕は拍子抜けしてしまった。

「レオ君はっけーん」
「白蘭様、お疲れ様です」
「どこ行ってたの?仕事?」
「まあ、一応…。こんな所で白蘭様に会うなんて珍しいであります。何かあったんですか?」
「んー。まあ、あると言えばあるけど」

何でありますか?と自分を見上げてくるレオ君の仕種に簡単にノックアウトされそうで、(このまま押し倒しちゃおうかな)と考える僕の中の悪魔を何とか制御して、にこりと笑顔を作る。
けれど、気になる事が一つ。

「ね、猫耳着けてないっ…」
「…あー、あれはちょっと自分には無理であります」
「男のロマンが…」
「ロマンでありますか…ちょっと自分には分からない事でありますね」
「えー、ロマンだよ。ロマンー!」
「はぁ…」


「でも仕事には必要のない物でありますし」と曖昧な笑顔を作るレオ君の言葉は、もっともなのだけれど(まあ期待はしていなかったけれど、もしかしてもしかしたらね!なんて甘い事を考えていた僕は今度こそ本当に正チャンに殴られるかも知れない)。


「なんだ、そっかー。つまんないけど仕方ないもんねー」
「自分にはその様な格好は無理ですけど…、白蘭様」
「…んー」

がくりと肩を落とした僕にレオ君は、はいどうぞと小さい紙袋を差し出した。
水色のチェック柄がレオ君にとても良く似合う。


「なぁに?」
「白蘭様に、でありますよ」
「僕に?レオ君から?」
「はい」
「…まっ、ままままままマジでっ…?!え、何で?ていうか、え、…えぇ!」
「白蘭様、“ま”が多過ぎでありますよ」

慌てる僕を見て小さく笑うレオ君からその紙袋を手渡される。
わーわー何だろうとガサリと袋の口を開けると、ふわりと甘い香りが鼻先を掠めた。
中から小さな飴玉やチョコレートが、ちょこんと可愛らしく顔を覗かせた。

「…わ、お菓子」
「はい。白蘭様が好きなマシュマロもありますよ」
「何で僕に…」
「?何でって今日はハロ…って、わっ、白蘭様っ…」

何故だか身体から力が抜けて、へたりと白い廊下に座り込む形になってしまった。
慌ててレオ君もしゃがみ込む。
お菓子が入った紙袋だけは落とさない様にと、しっかりと僕の腕で押さえ込んだ。
ははは、ごめんと笑うと、驚かさないで下さいとレオ君はほっと小さく溜息を吐き出した。


「あは、びっくりして腰抜けた…」
「自分も驚きました」
「…レオ君」
「はい?」
「ハッピーハロウィン」


紙袋を暫く眺めた後、(やっぱり悪戯しなくちゃね)とレオ君に一つ、キスを贈った。
ふにふにと柔らかいレオ君のくちびるはマシュマロより甘くて、泣きたくなるほどに僕のこゝろは幸せな痛みを感じた。





こゝろは甘さと苦味を増して







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20091104
ハロウィン白レオ










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