対抗心

「名前ーちょっとこっちの手伝いもお願い」

「はーい!」

「名前ーこっちもよろしくー」

「はいはーい!」

「名前ちゃーん、俺の心のケアもよろしくー」

「はーい!…え?」

「あっはっは!ほんと可愛いなー名前ちゃん」

「もう!忙しいんだから邪魔しないでよね御幸!」

「ごめんごめん」

今日も元気いっぱいで何より。
本人には言ってないけど名前ちゃんは俺の癒し。
さっきみたいな反応がまた可愛いんだよなー。

そんな俺の至福の時を邪魔する輩が最近現れたわけなんだけど。

「名前センパイ…」

「降谷くん?どうしたの?」

「…今からランニング行ってくるので戻ったら飲み物用意してほしくて」

「あぁ、うんいいよ!
スタミナ大事だもんね、頑張ってね!」

「はい」

「…名前ちゃんさー降谷には優しくない?」

「そんなことないよ、まあでも後輩だし一応」

後輩だからにしてもちょっと優しくし過ぎじゃねぇ?
俺そこまで優しくされたことないんですけど。
俺が言ったら自分で用意しろって言われそうだし。

そして一番腹が立つのは去り際に俺を見てしてやったりな顔する降谷本人なんだけど。

俺が名前ちゃんと話してたら球受けろって言ってくるし、俺の目の前で名前ちゃんは俺には絶対してくれないであろうことしてもらってるし。
そしてオマケのどや顔な。

逆に俺が邪魔してやろうとしたら聞こえてないフリしやがるし…。
ほんっと生意気。

「御幸も大変だよねー降谷くんに沢村くんも相手にして」

「はっは、俺の苦労分かってくれんのは名前ちゃんだけだわ」

「でも二人とも可愛いから許せちゃうよね」

「可愛くねぇってマジでこっちの都合無視だからアイツら。それに俺は名前ちゃんの方が可愛いと思うけどなー」

「ん?何か言った?」

はは…大事なとこは聞いてくれてないのな。
まあいつものことだけど。

「さーて、俺も練習戻りますか」

「頑張ってねー」

「名前ちゃんに応援されたらやる気出た」

「またそんなこと言って…ほら戻った戻った」

なんで冗談に捉えられんのかなー俺の発言。
けっこう真面目に言ってるつもりなんだけど。

「…御幸センパイ」

「…降谷じゃんランニングはどうした?」

「名前センパイと何話してたんですか」

俺の質問無視かよ。
まあこいつのこれもいつものことだけど。

大した話はしてねぇけど、いつも邪魔されてるし大袈裟に嘘ついた。

「俺が格好いいって話」

「…御幸センパイなんて顔だけじゃないですか」

うわーあからさま対抗心バリバリなオーラ出てるんですけど。
つか軽く失礼なこと言ってんなこいつ。

いつものお返しに俺も無視して練習に戻れば降谷も渋々練習に戻っていった。

そしてその仕返しは練習後にやってくる。

「御幸センパイ、球受けてもらえますよね」

「嫌だって言ったら?」

「それでも受けてもらいます」

うわー…目がマジだよこいつ。
ここまで対抗心むき出しにされて引き下がる俺じゃあない。

無言でミットとプロテクターを用意してブルペンに入る。
まあ降谷の球なんていつも受けてるし問題ない。
…って思ってたんだけど。

何この球。

ほんとボールに気持ちが乗るってのはこのことなんだろうな。
いつも受けてる球より全然重てぇし捕りづらい。
さっきからストレートしか投げてないのにこの威圧感な。
けど俺だって負けちゃいられねぇ。
たまにジーンとくる時あるけど全部捕る。

途中、沢村の奴がぎゃーぎゃー吠えてたけどそんなのどうでもいい。
倉持の奴が察して沢村止めてくれてるみたいだし。

言葉も交わさずに、ただボールを受け止める。
そんな時に現れたのは愛しの名前ちゃんだった。

「わー練習熱心だね降谷くん!」

「…もっと投げたいんですけど御幸センパイが受けてくれないんですよ、ケチだから」

あの野郎…どさくさに紛れて俺の悪口言いやがった。

「あはは、でもね降谷くん、休養をちゃんと取るのも練習のうちだよ。
それに御幸だって人間なんだから、疲れが溜まるんだよ?だからほどほどにしてあげてね?」

背伸びして降谷の頭撫でる名前ちゃん。
最初はムスッとしてた降谷も頭撫でられてほくほくし始めた。
ほんと降谷ばっかずりーわ。

けど昼間の会話、覚えててくれたってか聞いてくれてたんだな。
そしてさりげない気遣いだけで俺は癒される。
ほんとはもっとべたべたしたいけど。

「んじゃラスト一球な降谷!」

「…はい」

さっさと帰ってしまった名前ちゃんを見送ってから、持ってたボールを強めに降谷に投げる。
俺も負けねぇからって、ボールに気持ち乗せて。


倉持曰く、最後の一球は今までで一番いい音がしてたとかなんとか。

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